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第185話 できますかね。これ

〇1月1日(水)地球



「「あけましておめでとうございます!」」


「明けましておめでとう。海渡、凪ちゃん」


 お昼過ぎ、三人で待ち合わせして近所の神社へと向かう。風花と竹下がいないのは、正月明けに大学受験を控えている穂乃花さんが、帰省せずに東京の夏さんの家で過ごすことになったから。二人とも、パルフィと穂乃花さんを心配して東京に行っている。ちなみに、風花はもちろん夏さんの家だけど、竹下は暁のところで冬休みいっぱい厄介になるらしい。


「凪ちゃんは初詣をしたことあるの?」


「はい! 以前住んでいた町では、毎年お父さんとお母さんと一緒に行ってました」


 白い肌にブロンズヘアーの凪ちゃん。目も青くて、見た目は欧米の人って感じなんだけど、特定の宗教を信仰しているわけではないらしく何か行事がある時は神社にもお寺にも教会にも行くんだって。他の日本人と一緒だね。


「それなら、晴れ着を借りてきてもよかったかな」


 今日の凪ちゃんは僕たちと同じように普段通りの格好。せっかく海渡と一緒なんだから、可愛らしくしたかったんじゃないだろうか。竹下のお店のレンタル着物に、凪ちゃんに似合いそうなのがあるんだ。


「着たい気持ちはあるのですが、小さい頃着て行ったときに誘拐されそうになったことがあって……」


 ゆ、誘拐!? 変質者はどこの世界にもいるな……


「僕も今日ご一緒することが決まった時におススメしたのですが、それを聞いて断念しました」


「でも、今なら誘拐されそうになっても返り討ちにできるでしょ」


「夏祭りの時の町娘の格好ならいいのですが、晴れ着は動きにくそうで……」


 確かに、袖も裾も邪魔になりそうだ。それでも勝てると思うけど、着物の方をダメにしちゃうかも。


「それよりも、僕、ソルさんとルーミンの着物姿を見てみたいです」


「僕たちの……」


 立ち止まって海渡を見ると海渡もこちらを見ていた。


「ふむ、ソルさんですね……長い髪をアップにして……」


 僕の顔を見て想像してんのかな。それなら僕も……海渡……じゃないルーミンは、茶色い髪だから明るい色の柄が……いや、むしろ赤とかの方が似合うんじゃ……


「ふふ、お二人とも着たくなりました?」


 ははは……


「機会があったら着てもいいけど、生糸の元になるカイコがまだ見つかってないからしばらくお預けだね」


 再び歩きながら答える。


「探されてはいるのですか?」


「いや、ほとんど手つかず。ユーリルが以前住んでいた町にカイコに似た蛾がいたっぽいんだけど、幼虫が食料としていた木が枯れてからどこに行ったかわからないんだ」


「桑の木でしたっけ?」


「そうそう。凪ちゃん知らない?」


「いえ……確か、甘い実ができると言ってましたよね。ナムル村には無かったはずです。春になったら探しに行ってみましょうか?」


「そうしてもらえるかな」


 糸車も機織り機も揃ったし、そろそろ綿生地も落ち着いてくる。それにコペルがいるから、絹が手に入ったらうまいことやってくれるはず。






「人が増えてきましたよ」


 神社へ続く道路。いつもは人はまばらなんだけど、今日はたくさんの人が行きかっている。午前中は混んでるかなと思ってお正月をゆっくりと済ませて出てきたんだけど、同じように考えている人が多かったようだ。


「マスクをしっかりと付けて行こう」


 改めてマスクと肌の間に隙間が空いてないかチェックし、人の流れに合流する。こちらで病気になったらテラでも調子が良くないから、普段から気を付けることにしている。


「できますかね。これ」


 海渡は口のマスクを手で撫でた。


「ユーリルはもう少しだって言ってたよ」


 もちろん綿や羊毛で織ったマスクならすぐにでも作れる。でも、それだと目が粗く多くのウイルスが素通りしてしまうから、効果はあまり期待できないと思う。そこで、布マスクの内側の口と鼻を覆う部分を漉いた紙で覆って、そこだけを取り替えたらどうだろうかと考えているんだ。


「もう少しですか? この前試作品を試してみましたが、息を吸うのもやっとでしたよ」


「あはは、気長に待とう」


 ユーリル曰く、紙の漉き加減が難しいんだって。


「あのー、ユーリルさんが突然マスクを作ろうと言い出したとき驚いたんですが、何かあったのですか?」


「ああ、それはね……」


 凪ちゃんに、ユーリルがタリュフ家に来た日に話してくれたことを伝える。


「え? 病気でご家族を……てっきり、僕と同じように口減らしに出されたのかと思ってました」


「ユーリルはその頃の話はあまりしないからね。それで、子供が産まれるまでにマスクを用意しておきたいと言うことなんだ」


 ジュト兄とユティ姉の子供ももうすぐ一歳になるし、カインでは僕たちを含めてこれからたくさんの若者たちが結婚していくことになる。子供だって増えてくるはずだから、感染症や伝染病で悲しいことが起こらないようにしていきたいと思っている。それにテラでは、人の動きは少ないけど渡り鳥はたくさん飛んでいるから、準備をしておかないと鳥インフルエンザで全滅ということだってありえない話ではない。


「それで、マスクが完成したら、テラでも付けることになるのでしょうか? 僕、長く付けていると耳のところが気になってきます」


 凪ちゃんはマスクのゴム紐のところを触って見せた。肌が弱い人は、動いたり話したりしているうちに擦れて痛くなってくることがあるみたい。


「地球のように人の流れが激しいわけじゃないから、誰かが風邪をひいている時や隊商が来た時ぐらいでいいんじゃないかな」


 鍛冶工房の方は粉塵が出ることがあるから付けていた方がいいかもしれないけど、ジャバトの仕事なら無くても大丈夫だろう。


「それにね凪ちゃん、テラにはゴムがありませんのでマスクも紐で結ぶことになります。付けなければいけない時も、自分で強さを調整できるから心配ないですよ」


 試作品は、手術用のマスクのようにゴムじゃなくて紐で結ぶタイプの形状をコペルに伝えたら、ほぼその通りに作ってくれた。型紙も作っているから、紙の部分の問題が解消されたらいつでも量産することはできる。


「よかった。それなら、僕にも使えそうです」

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