表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/219

第182話 これからの目標にそれも追加する?

〇10月24日(木)地球



 放課後、収穫祭の打ち上げのために竹下のお店のカフェに集まった。


「行き届いた?」


 みんながそれぞれの飲み物を持ち上げる。


「それでは……昨日はお疲れさまでした。かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」

「にゃーん!」


 うーん、美味しい。

 今日はコーヒーじゃなくて抹茶ラテにしてみたんだ。お茶の苦みとミルクのまろやかさ、それに砂糖の甘さがちょうどいい感じ。あちらにもお茶はあるしミルクもある。それに砂糖も少しなら使えるから今度作ってみようかな。


『おい、カァル。ミルクがうまいのは分かったからさ、ちょっと避けてくれねえか。みんなの顔が見えねえって』


「にゃ?」


 画面の先で東京の暁が呟く。どうも、飲み物を配る間にカメラの位置がズレたみたい。改めて配置換えを行う。カァルは、テーブルの上から僕の膝の上に移った。


『それにしても、お前たちのはうまそうだな。俺は缶コーヒーなのに……』


「そりゃ人気のカフェですし、安いと言ってもそれなりの金額がしますから」


 竹下のお店がカフェをやり始めた頃は手伝いをする対価としてご馳走してもらっていたんだけど、今はちゃんとした店員さんがいるからお金を払って飲むことにしているんだ。もちろん、カァルの分のミルクは別。カフェの看板猫として、自由に飲んでいいことになっている。


『俺も次からはちょっと高いものを用意しておこう』


 今度から、暁は東京のカフェから参加とかでもいいかもしれない。


「それにしても面白かったですね。始まってからのソルさんの顔」


 うっ……


「ああ、みんなが動かないもんだから、焦ってんの」


「いや、だって……」


 開始の合図をしたのに、なぜかみんながその場に留まって動かなかった。それで何かあったのかと思ってみんなの方に近づいたら、逆に離れていってしまうんだ。それは戸惑うよ。


『みんなカァルを警戒してたみたいだな。俺んとこの村のやつもびっくりして、どうしたらいいかわかってない風だったわ』


「にゃぁ……」


 どうもそうだったみたい。ほとんどの人がユキヒョウを見たことが無かったから、後ろを向いた瞬間に襲われるんじゃないかって心配していたようなのだ。ユキヒョウは野生でも人を襲うことはないみたいだけど、羊やヤギといった家畜は襲うことがあるから、村によっては山の神様の使いとして崇める対象であると同時に警戒する動物でもあるんだね。

 そこでどうしたものかと考えていたら、カァルが物怖じしない子を見つけて、その子の足元にネコのようにすり寄ってあげてからみんなも安心だとわかったみたい。でも、それからのカァルは大変で、『触ってもいいの?』という女の子たちにダメだともいえず、逃げ回る羽目になってしまっていた。


「カァル、ほんとにごめんね」


 膝元のカァルの頭を撫でる。 


「にゃう」


 気にするなだって。


「それにしても、カァルはよく誰にも触らせなかったよな」


「それは、ボクの一番弟子だからね。みんなだってそうでしょう」


 それもそうだ。ここにいる誰もが、風花とリュザールの指導のおかげで多少の手練れくらいなら触れられることはないと思う。昨日来ていたのは、普通の男の子と女の子たちだからなおさらだ。


「カァルくん、これまでは普通に触らせてもらえましたが、今回はソルさんとあの時の男の子以外は触れてないんじゃないですか? 僕(ルーミン)も逃げられてしまいました」


「そうなの?」


 カァルに尋ねる。


「にゃ!」


 そうなんだ……ユキヒョウ博士の方を見てみる。


「たぶんだけど、他のユキヒョウと絡むことが増えてきて人のニオイを付けたくないんじゃないのか」


「にゃうー」


 おぉ、そうみたいだ。それでも来てくれたんだ。ありがとうカァル。


「まあでも、その後は和やかな雰囲気でいってくれてよかったぜ。それで暁、そっちの方はどうなったんだ?」


『女の子だろう。たぶんうちに来てもらえそう。バズランさんが先方の村長むらおさに話を付けてくれるって』


「二人ともか?」


『ああ』


 おぉー、それはよかった。

 収穫祭の期間中にタルブクの男の子といい感じになった女の子がいて、その子がタルブクまで嫁いでくれるかどうか、エキムはタルブクの村長代理として夜遅くまで父さんやバズランさんたちと話し合っていた。村長同士の話し合いで決まったのなら、親御さんも安心して送り出せるというもの。知らない土地でも、嫁いだ先の村長がある程度は責任もってくれるということになるからね。


『うちの女の子も行き先が決まったし、ほんと無理して来た甲斐があったぜ』


 タルブクからは男性二人と女性一人が参加してくれたけど、三人とも相手が見つかったみたい。あとは子供が生まれてくれたら、万々歳だ。


「それにしても、女の子はよく思い切ったよ。タルブクって冬は無茶苦茶寒いでしょ」


 そうそう、風花の言う通り、タルブクは標高2000メートル以上な上に周りを高い山に囲まれた盆地だから、冬の寒さは尋常じゃないはず。嫁いでいく女の子は、二人とも平地の子だから一大決心だったに違いない。


『ふ……』


「「「ふ?」」」


『風呂をさ、バズランさんからそれぞれの家の近くに作ってやることを約束させられてしまった……』


 なるほど、それなら女の子も納得の条件だ。


「ということは、タルブクではお風呂を二つ作らないといけなくなったのですね」


『いや、三つ。俺んちの近くにもいるから……』


 三つ……


「三つ!? そんなに作って、維持はどうするの?」


 水は川から引くとして、お湯を沸かすための燃料とかお風呂を準備する人手とかがどうしても必要になってくる。


『共同井戸と同じように風呂を作ったあとは近所で管理してもらって、羊の糞を今以上に集めるようにお願いするつもり』


 羊の糞か……なるほど、あれはいい燃料になる。タルブクではカイン以上に羊を飼っているから、それを利用しない手はない。


「竹下先輩。そういう考えなら、カインにもあと二、三箇所お風呂を作ってもいいのではないですか? これからの時期、村の西側にお住まいの方々は戻る間に湯冷めしちゃいますよ」


「ああ、水道がねえからどうしても川の近くに限られるけど、遊牧民一家が移住してきていてこれから羊も増えてくるだろうし、考えてみてもよさそうだな」


 おぉ、実現できたら村のみんなも喜ぶぞ。


「ねえ竹下くん、風呂釜ってお姉ちゃんじゃなくても作れたよね」


「そうだなあ……確か、鍛冶工房のやつらはみんな作れるんじゃねえか。パルフィが仕込んでいるはずだ」


 そうそう、パルフィが妊娠中も仕事が止まらないようにしっかりと教え込んでる。


「それじゃ、量産してって頼んでも大丈夫そうだね」


「硬貨の製造が始まったばかりで余裕があるかどうかわからねえが、量産ちゅうことは他の村に売るつもりなんだな」


「うん、暁くんの言ったやり方なら、水のある村ならどこでもできそうでしょ。ボクも旅の途中でお風呂に入りたいんだ」


 それは言えてる。暑いし、常に砂埃は舞っているしで体中ベトベトになる。


「でもよ、隊商宿って川の近くばかりにねえだろう。村人用のを借りるのか?」


「村人用のはさすがに申し訳ないから、隊商宿を川の近くに移設してもらってもいいんじゃない。専用のお風呂があるとなったら、多少宿賃が高くなっても行商人は泊まるはずだよ」


「そういうことでしたら、いっそのこと隊商宿で夕食と朝食を提供されてもいいかもしれませんね」


「そこまでしてくれたらほんと助かる。料理のことを考えなくてすむだけで、どれだけ楽になる事か……」


 コルカまでの旅の間、ソルが料理当番をしていた時は作るだけでよかったけど、リュザールたちは食材まで自分で用意しないといけないから大変だと思う。


「料理にお風呂とくれば、こちらのホテルみたいな感じですね。あとは小部屋も用意してもらえると、女性も旅がしやすくなります」


 隊商宿はどこでも大部屋しかないから、同じ村の隊商と一緒じゃないと女性は危なくて泊まれない。グループ単位で部屋を借りられるようになったら、隊商に頼らなくても家族で旅をすることができるようになるかも。もちろん、もう少し街道が安全になってからだけどね。


「これからの目標にそれも追加する?」


 やることはたくさんあるけど、みんなと協力していったら何とかなるはず。


「パルフィ次第だけど、いいんじゃねえか」


『んじゃ、タルブクからシュルト方面は俺のところで任せてくれ。せっかく作った鍛冶工房だ。使わないともったいない』


 こういうふうに分担してやれると捗るよ。


『でさ、話は変わるけど、お前たちが心配していた、アラルクってやつはどうなったんだ?』


 アラルクか……あー、凪ちゃんが天を仰いでる。


『何? その様子じゃ、ダメだったの?』


「いえ、何とかなりそうですが、ほんと大変でした」


「あのね、ジャバトがナムル村のマルカちゃんをアラルクに紹介したんだけど……」


 その時の様子を暁に伝える。


「舞い上がっちゃんだんだ」


「はい、好意を寄せられるのが初めてだったみたいで、いいところを見せようと張り切りすぎたんだと思います」


 アラルクに、マルカちゃんはアラルクの力が強いところが気に入っていると教えてしまったのがいけなかった。使う予定もないのに予備の木材を持ってきて、それを振り回すもんだから危なくて危なくて……


『もしかして、俺の村が踊りの準備をしている時に歓声が上がってたあれか。えらく盛り上がってんなと思ってたんだ』


 時間的にそうかも。それを見てマルカちゃんも喜んでいたので。結果オーライだったんだけどね。


「ところでエキムさんたちは、明日は朝早くから出発するんでしょ」


『ああ、日の出前に。とにかく急いで帰らないと、山に雪が降り始めているみたいだからな』


 昨日の朝、東の山は薄っすらと雪化粧をしていた。多少積もっているくらいなら何とかなるけど、吹雪いたらどうしようもない。


『見送りとかいらねえぜ。タリュフさんにも、昨日そう言って別れの挨拶してるから』


「わかった。気を付けて帰ってね」


 そうは言ったけど、次にエキムに会えるのはいつになるかわからないから、みんなで見送ってあげよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ