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第178話 硬貨3枚になります

〇(地球の暦では10月23日)テラ



「えーと、これは……」


 首から番号の付いた青い札をかけた男の子が、屋台用の木材を持ってキョロキョロしている。


「それはあっちに持っていくみたいだよ」


 同じく腰に番号付きの黄色い札をぶら下げた女の子が、絨毯を干す手を止めて寮の方向を指す。


「ありがとう! よいしょっと」


 木材を担ぎ直した男の子を女の子が見つめている。


「ほほぅ、この子は力が強い子に興味があるようですね」


 ルーミンが近づいてきた。そういえばさっきも木材担いでいる子を見てたっけ。黄色い札だからナムルから来た子だ。


「村にタイプはいなかったのかな」


「ナムル村にはジャバトのご両親に挨拶する時に行きましたが、ジャバト自身もそうですがスラっとした人しか見かけませんでしたよ。そういう土地柄なんでしょうか?」


 なるほど、体の大きさは食べ物とか遺伝とかに左右されるから、土地柄というのもあながち間違いじゃないかも。

 村の中にタイプの人がいない場合は、自分で相手を探すのが難しいから、お父さんや村長さんが紹介してくれた人と一緒になることが多いというか一緒にならないといけない。一人で生きていくことが難しいこちらの世界では、結婚しないという選択肢を選ぶことは死を意味することがあるからね。当然性格の不一致とかでうまくいかない時もあるんだけど離婚も余程のことがないとできないから、パルフィの本当のお母さんのように逃げ出してしまう人だっている。もしこの子がここで自分に合う人に出会うことができたなら、この先の人生が大きく変わることになるかも。


「それでルーミン、他のところはどうだった?」


 明日の収穫祭の準備は村のあちらこちらでやっている。同じ村の人たちが集まらないように、配置を決めたんだけど様子が気になる。


「皆さん、積極的に交流されているようですよ」


 よし、みんなここに来た理由を理解してくれている。


「今のところ、問題ない感じかな」


「ただ、ちょっとだけですがタルブクの人たちの動きが悪いですね……」


 やっぱり……タルブク組は他の村の若者たちと違う方向から来ている。つまり、カインまでの移動の間の分だけそれぞれの絡む時間が違ってきているはずだから、不利になるんじゃないかって心配していたのだ。さて、どうしたものか……


「ソル、何か手伝うことない?」


 この声は……


「チャム!」


 振り向くとチャムが一人で立っていた。


「あれ? コルトくんは?」


「母さんが、面倒見るからお前は手伝いに行けって」


 なるほど、サチェおばさんはコルトくんに滅多に会えないから、独り占めしたかったんだな。

 あ、そうだ。

 チャムにタルブクの人たちのことを話す。


「もう、仕方が無いな。うちの村の子たちって奥手なんだよね。わかった。私に任せて」


「場所わかる? 私がついていこうか?」


「ここで何年暮らしたと思ってんの。場所さえ言ってくれたら自分で行くわ」










「これから大切な話をしますので近くに寄ってください」


 日が傾き始めた頃、明日の収穫祭の会場となっている寮の広場に参加予定の若者たちを集める。


「お疲れさまでした。改めまして責任者のソルです。皆さんのおかげで明日の収穫祭も予定通りに開催できそうです」


 おぉーと歓声が上がる。

 料理やタオルなどの雑貨を並べる屋台も、明日みんなが座って懇親を深める予定も絨毯も準備ができた。


「手伝ってくれたお礼を兼ねまして、お配りしたいものがあります。これから係の者が参りますので一人一袋ずつ受け取ってください」


 工房の職人さんたちが、二十数名の若者に麻の袋に入った硬貨を渡していく。


「中にある金属は、明日こちらの屋台で使うことができます」


 みんなが中を覗いている。


「使うってどう使うんですか?」


 中にはふざけて投げるしぐさをしている人もいる。確かに形といい重さといい投げるのにちょうどいいかも。かといって投げられても困るので、もう少し詳しく説明しないといけない。


「この中に入っている金属は硬貨といいます。明日の収穫祭の間だけ、麦の代わりに屋台で売っている商品と交換することができるので大切にしていてください」


 ざわつきだした。想定通りだ。


「これから実践してみたいと思います。こちら屋台をご覧ください」


 すぐ後ろの屋台にリュザールが色鮮やかなタオルを並べ、その前に数字が書かれた板を置いていく。

 そこに袋を抱えたルーミンがやってきた。


「このタオルを下さい」


「これですか?」


 リュザールが薄紅色のタオルを持ち上げると、女の子たちから可愛いと声が上がった。ふふ、やっぱりこっちでも女の子が喜ぶ色って一緒みたい。この日のためにコペルが苦労して染めた甲斐があったよ。


「硬貨3枚になります」


 硬貨3枚はだいたい1500円くらいだね。


「はい」


 ルーミンが袋から銅の硬貨を3枚取り出してリュザールに渡すと、リュザールはタオルをキレイに折りたたんでルーミンに手渡した。


「こういう感じで、ここでは麦の代わりに硬貨を使うことができます」


 みんなはまだざわついている。


「あ、あの、それは今話題になっているタオルですよね。明日もあるんですか?」


「あります。これ以外にもここでしか食べられない料理やお菓子を用意していますので、お手持ちの硬貨を使って買ってください」


 おっと、これも言っておかなくちゃ。


「この硬貨はここでしか使えませんので、是非明日中に使い切って下さいね」

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