第171話 いい人なのはわかってるんだが、暑苦しくて……
ジャバトの指示に従い、ルーミンと二人で受け持ちの場所に移動する。
「ソルさん見てください。結構密に生えてますよ」
「ほんとだ。間引きもうまくいったんだね」
テンサイの種は全部が発芽するわけではないということで、一か所に3~4つぶずつ種を蒔いているんだけど、当然複数の芽が出てくることがある。その時は育ちのいい一つ以外は引っこ抜いてしまって、抜いた方でも元気な奴は芽が全く出なかった場所に改めて植え替えたら、種も畑のスペースも無駄にならないんだよね。実はこれ凪ちゃんが地球で調べてくれて、ジャバトがこちらで実践したことなんだ。
「そういえばこの葉っぱ、見た目はほうれん草に似てますが確か不味かったんですよね」
「うん、セムトおじさんはそう言ってた」
甘みはあるみたいだけど、エグみもすごいらしい。
「これだけあって食べられないのはもったいないですが、おいしくないのなら仕方がありません。さてと、それではやってみますか」
そう言って、ルーミンは腰を落としてテンサイの葉を両手で掴んだ。
「ふん!」
ふんって……こういう所は男の子が出るね。
「で、どうだった?」
「もっと抵抗されるのかと思いましたが、案外簡単に抜けました」
ダイコンを抜くときみたいな感じなのかな。私もやってみよう。
念のために腰を据えてっと……ふん!
「おぉー、スポッといった」
気持ちいいかも。
「こいつ、結構重たいですよ。1キロくらいあるんじゃないですか」
「ほんとだ」
ダイコンよりも小さい感じなのに同じ、同じような重さなのは密度が高いのかな。
「えーと、この畑の一辺が地球の10メートルぐらいなので……凪ちゃんに聞いたんですが、この広さなら地球ではだいたい650キロ前後のテンサイが採れるみたいですよ」
ということは650本ぐらいか。周りを見てみる……あは、あっちではどっちのテンサイが大きいか比べているし、こっちでは誰がたくさん運べるか競争したりしている。うん、みんな楽しそうだ。地球のように採れないかもしれないけど、こんなに子供たちが喜んでくれているんなら十分だよね。
〇10月1日(火)地球
「へぇー、それでどれだけ採れたんだ?」
朝の散歩の時間、川沿いの休憩所で竹下たちと情報交換を行う。
「だいたい600本弱、重さにして600キロちょっとと言ったところでしょうか」
「おぉー、すげえな。初めてにしては上出来じゃん。これも凪が頑張ってくれたからだな」
ふふ、凪ちゃん照れてる。でもほんと、凪ちゃんが大切なテンサイの種を無駄にしてはいけないからって、どうしたら病気や虫の被害に遭わないかを図書館とかネットとかで一生懸命に調べてくれたおかげだからね。
「600キロか……ものすごい量だけど、凪ちゃん、砂糖にはどれくらいなるの?」
「風花先輩、それは僕がお答えします。テンサイの重量の15%~17%が糖分と言われていますので、うまくいくと90キロ前後の砂糖ができる予定です」
きゅ、90キロ!
「すげえな。砂糖を使いに放題できるんじゃね?」
「うーん、それはどうかな。ボクね前に調べてみたことがあるんだけど、日本では砂糖をお菓子とか外食とかも含めて一人当たり年に15キロくらい消費しているみたいなんだ」
ということは、たったの6人分。カインには200人近くいるから一人当たり500グラムもないのか。
「あちらの皆さんはこれまでお砂糖がない生活でも平気でしたので、たまにのご馳走で我慢してもらいましょう」
そうしてもらうしかなさそう。
「それで、海渡くん。砂糖はいつ頃できるの?」
「ダメにしてしまっては元も子もないので、明日少しだけ試してみようかと……」
「ぶっつけ本番しかできねえのが辛えよな」
そうなのだ。テンサイは日本では北海道でしか栽培されていないらしくて、尚且つ、ほとんどが畑から砂糖工場へ直行。つまりテンサイとして市販されている物が無いので、こちらで砂糖を作る予行練習をすることができない。
「それじゃ、シュルト組は外しとくのか?」
「いえ、手伝ってもらいます。もし失敗したとしても、見てもらっていたらなんで失敗したのか知ってもらうことができますので」
「なるほど、それがいいだろうな」
ちなみに、ソルも手伝う予定。地球で練習できないから、知識を持った人間が他にもいた方がいいはずだからね。
「それでユーリルさんたちの方はどうですか?」
ユーリルたちは、タルブクとの交易路の途中にあるカイン近くの川に、道の付け替え工事に行っている。これまでは馬が通れたらよかったんだけど、これからは荷馬車を使う必要が出てくるから。
「荷馬車が渡れる場所までもうちょいだな。そうそう、昨日はカァルが来てくれたぜ」
僕のひざの上でカァルが『にゃ!』と鳴いた。
「ほぉ、今はそちらの方まで勢力を伸ばしているのですね。タルブクの方に向かっているのでしょうか?」
「いや、なんかタルブクへ向かう山の方は違うメスのナワバリみたいだぜ」
おぉ! もしかしてお嫁さん候補。カァルを見る。あ、伸びあがってきた。鼻をちょんとつける。ふふ、カァルにはまだ早いみたい。
「それで、お戻りはいつですか?」
「俺たちは予定通り四日後には戻れそうだぜ」
四日後なら、10月10日のユーリルとパルフィの結婚式に十分間に合う。
「ボクたちの方は8日だね。ファームさんも連れてくるからよろしく」
「うぐ……」
パルフィのお父さんのファームさん。あの戦い以降、ユーリルのことが大好きになったみたいで、パルフィとの結婚式にはぜひとも参加すると言って、セムトおじさんたちと日程調整をやっていたみたいなんだ。
「ふぅ、竹下先輩、まだ苦手にしているんですか。ファームさんにはルーミンはコルカでお会いしましたが、さっぱりとしたいい人でしたよ」
「いい人……いい人なのはわかってるんだが、暑苦しくて……」
今はまだそうかもしれないけど、何度か会っているうちに仲良しになってくるんじゃないかな。性格も近いような気がするし。
「カァルも戻って来るの?」
「にゃ!」
もちろんだって。二人を盛大にお祝いしようね。