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第167話 パルフィはどれくらい欲しい?

〇(地球の暦では8月25日)テラ



「パルフィ、来たよ」


「パルフィさん、お邪魔しますぅ」


 お昼過ぎ、鍛冶工房の入り口に掛けられた暖簾をルーミンと一緒にくぐる。


「今、準備中だからよ。そこで待っといてくれるか」


 鍛冶職人さんの作業の邪魔にならないように、ルーミンと並んで入り口横のベンチに腰掛ける。

 今日は、初めて銅貨を作るというので見学させてもらいに来たというわけ。


「んでよ、ユーリルは?」


「お兄ちゃんと一緒にトロロアオイを植えているところに行きました」


「あー、そういやそう言ってたな」


 ルーミンのお兄さんであるレリオは、紙漉きの技術を会得するためにカインまでやってきている。必要なものが何も揃っていないこの世界では、紙漉きに必要なネリと呼ばれる液体も自分たちで用意しなければいけなくて、トロロアオイはそのネリを作るために必要不可欠な植物。育て方も教えておかないと片手落ちだからね。


「親方! 温度いいようです!」


「おう! 今行く!」


 タルブクから来た鍛冶修行中の職人さんから呼ばれたパルフィは、立ち昇る湯気が赤く染まって見える炉の中に鉄の棒のようなものを入れた。


「よし、ノロ(不純物)もよく取れてる。出湯しゅっとうするぞ!」


 職人さんが『はい!』と答え、炉の中に柄杓ひしゃくのようなものを入れると、バチバチと音を立てて真っ赤な火花が飛び跳ねた。


「あわわ、熱そうですぅ」


 職人さんの方まで容赦なく火花が降り注いでいる。パルフィが作ったゴーグルと特注の服を着ているから平気そうだけど、私たちのなら火がついてしまうかも。


「どうも、あれの中に入れるみたいですね」


 職人さんは、時折火花が飛び跳ねている柄杓を持ったまま炉のすぐ横の作業台に移動し、並べて置いてある箱のようなものの前で立ち止まった。そして、一つの箱の上で柄杓を傾けるとドロドロに溶けた金属が箱の中に吸い込まれていき、間もなく溢れ出てきた。


「お、いい感じだぜ。ただ、もうちょっと思い切りよくいった方がよさそうだな。ほら次だ!」


「はい! 親方!」


 うん、いい顔。この様子だと、冬になる前にタルブクに帰してあげることができるかも。







「よし、すぐに次も行くからな。炉の温度を下げるんじゃねえぞ」


「はい!」


 すべての箱に溶けた金属を流し込んだ後、炉を再び職人さんに任せてパルフィがこちらにやってきた。


「待たせたな」


「お疲れさまでした。こちらにお座りください。ちなみに、これで何枚できるのですか?」


 ルーミンが私との間に一人分のスペースを開ける。


「よっと、ありがとな。一個の枝銭えだぜにで銅貨が10枚できるから、それが5個だろう。一度にできるのは50枚だな」


 枝銭って?


「50枚……なんだか、少ないですね」


 おっと、後で聞こう。


「練習も兼ねてるからな。ミスしてもやり直しやすいだろう」


 なるほど。


「それで、すべて模様無しですか?」


「ああ、言われた通り仕上げていくつもりだ」


 今回、秋の婚活イベントというかお祭りに来てくれた人たちに使ってもらう予定の銅貨は、これから普及させるものと違って、ユキヒョウのカァルの刻印は入れずに銅貨の形をしたただの金属の塊にするつもり。


「ほんと、いい考えですよね。準備を手伝ってもらった人に銅貨を渡して、それを使って出店の料理を食べてもらう。これなら銅貨が麦の変わりになるってわかってもらえますぅ」


「しかも、今度作る予定の銅貨とは違うデザインだからお金の代わりにはならねえ。村に持ち帰られても安心だ」


 将来お金にならなかったら、余って持ち帰ったとしても記念として取っておくことができるからね。


「よし、いい頃合いだ。ちょっと待ってな」


 パルフィが金属を流し込んだ箱を持って来た。

 一番最初に入れたやつだ。

 隙間にノミをカンとあてるとパカッとあいた。


「おや、引っ付いてますよ」


 箱の中には丸くて平べったい金属の塊が10個あって、そのどれもが中央にまっすぐ伸びた金属に繋がっている。まるで枝のよう……あ、そうか。これが枝銭だ。


「まとめて作るにはこうするしかねえんだ。でも……」


 パルフィがペンチのようなものを使って一つ一つ切り離して、


「あとはこうやって磨いてやったら……」


 やすりをかけていく。


「おぉー、きれいになりましたぁ」


 大きさは500円玉よりもちょっと大きくて、色は100円玉よりもちょっと黄色味がかっている。


「それで、この銅貨の価値はどれくらいなの?」


「そうだな、1袋で600~650はできそうだから……いくらだ?」


 そうだった。パルフィは細かいところに頓着とんちゃくしないんだ。えーと、金属の1袋も麦と同じ重さだから、5キロくらいか。


「パルフィ、銅とニッケルの相場はどれくらいなの?」


「どっちも同じくらいの値段でな。1袋で麦20~30袋ぐれえだな」


「おや? 麦10袋分も差がありますよ?」


「天然物だから品質もいろいろなんだ。でもまあ、平均すると真ん中あたりに落ち着いてくるから、そう思ってもらって構わないぜ」


「となると、銅1袋で麦25袋ですか……えーと、麦1袋が日本の1万円くらいですから、25万円」


「出来上がるのは600~650枚でしょう……」


 うぅー、こっちには計算機がない。


「384~416ちゅうところだな」


 さすがパルフィ、さっと暗算した。


「間を取ると400円ですかね」


「それじゃ、1枚400円として食べ物の価格を決める?」


「おい、ちょっと待て。それだと、炉を炊くための燃料費とあたいらの手間賃が入ってねえぞ」


 あ、いけない。


「本番にはカァルくんの絵姿も入りますし……」


 新しく水車小屋も建てることになるし、どれくらいを乗せたらいいんだろう。


「パルフィはどれくらい欲しい?」


「そりゃ、高ければ高いほどいいが、こいつらがタダ働きにならなけりゃ構わないぜ」


 パルフィは奥で作業を続ける職人さんたちを見つめた。


「ソルさん。本番と価値を合わせた方がいいでしょうし、リュザールさんと相談されては?」


 リュザールは行商に行っていないから、明日風花と相談してみよう。

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