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第165話 耐震化とかやるんじゃ?

〇(地球の暦では8月13日)テラ



「お、いい感じだな」


 淡いクリーム色の花をつけた綿花の前でみんな立ち止まる。


「村の方の生育も順調だし、バーシでもバズランさんが問題ないって言ってた。今年もきっと豊作だよ」


 今日は朝ごはんをすませた後、ユーリル、パルフィと一緒に薬草畑まで来たんだ。第二鍛冶工房の場所を決めるためにね。


「んじゃ、タオルも期待できそうだな。新居で使うからよ」


 パルフィがユーリルの肩をバンバンと叩いている。いつもの照れ隠しだ。

 新居かー、あと二ヶ月もしたら二人の結婚式だよ。あっという間だね。


「ところでユーリル、家は間に合うの?」


 二人は父さんから鍛冶工房の近くの土地を使っていいと言われていて、整地は終わっているみたいだけどそれから先が進んでいない。


「痛てて……レンガはぼちぼちと作り貯めているし、みんなに手伝って貰わねえといけねえけど手の込んだものは作らねえから、4~5日あれば問題ねえだろう」


 4~5日って、今の家を作るのと大して変わらないよ。


「耐震化とかやるんじゃ?」


 この前地球でそう言ってたはず。自分たちの家を最初にやるのかと思っていたけど……


「いや、今の俺の知識じゃ大したものはできねえ、本格的にやるのは大学に行ってからだな」


 そうなんだ。


「おいユーリル、大学で学べるのは基礎とか理論だろう。実践はどうすんだ?」


「一応、将来はどこかの建設会社に入らねえといけねえとは思っている……」


 きっと現場じゃないとわからないこともあるんだろう。


「お、それなら、秋一しゅういち叔父貴の会社はどうだ。宮大工の流れを汲んでたはずだぜ」


「マジ? 宮大工なのか。すげえな」


 宮大工さんって、確か神社とかを建てたり修繕したりする人たちだよね。釘を使わないというのもなかったっけ。


「あたいも詳しく知っているわけじゃねえが、地震大国日本で培われてきた技術を継承しているはずだ。こっちでも役に立つだろう」


 そういえば東京スカイツリーは、法隆寺の五重塔を参考に作られたって聞いたことがある。そういう技術をこっちでも取り入れることができたら、地震の備えになるかも。


「パルフィ、今度東京に行った時に紹介してもらえるか?」


「そいつは構わねえが、急に昨日の夜連絡があってな。叔父貴だったら明日こっちに……いや、あちらのあたいたちのところに来るぜ」


 おぉ、それは好都合。


「仕事か何かで?」


「いや、なんでも精霊流しを見たいんだと」


 ありゃ。


「それじゃ、15日は予定変更?」


 今年は風花も穂乃花さんもいるから、みんなと一緒に見物しようとしていたんだけど……


「いや、どうも精霊流しをおごそかなものだと思っているみたいだからよ。付き合ってくれねえか」


 なるほど、そういうことね。

 それならばご一緒させていただこう。


「で、水車を建てるのにいい場所はどこだ?」


 薬草畑を離れ、三人でちょっと下流の川幅が少し狭くなっているところに向かう。


「こっちに水路作って水を流すだろう。んで、水車をここに設置して、建物は川辺よりも高い方が安心だからこっちがいいんじゃねえか」


「なるほどな、川が増水したときも建物は無事だし、水車も水路をせき止めりゃいいってことか」


 パルフィの問いにうんと頷くユーリル。


「いつ頃になりそうだ?」


「うーん、ここのところ工房の主力が抜けて作業が遅れ気味だし、タルブクとの道も後回しにはできねえから、いいとこ来年の春」


「ま、仕方がねえな」


 来年か……


「ねえ、パルフィ。ここでは硬貨に刻印を打つだけだよね」


「まあな。炉を置くつもりはねえからな」


「それじゃ、刻印の無い硬貨を作ってもらうことってできるの?」


「できるぜ。でも何に……あ、そうか、そりゃいい考えだ」


 ふふ、気付いてくれた。


「ちぇ、二人だけわかって……ん? あー、なるほど。せっかくカインに来てくれるんだから、使って貰おうというわけだ」


 そういうこと。秋にバズランさんが近くの村から若者たちを集めて来てくれる。その時に硬貨のお披露目ができたら、いい宣伝になるんじゃないかな。


「ここが薬草畑、ここでも交代で作業を……」


 ん? 畑の方から人の声が……


「おや、皆さんもこちらでしたか」


 ルーミンとレリオにエルモだ。そういえばルーミン、今日は朝から二人に村を案内するって言ってたっけ。


「にゃう!」


 うん、カァルも一緒だったんだね。

 足元に来たカァルを……大きくなって抱きかかえるのは無理だから、首に手を回し抱きしめる。


「そ、そのユキヒョウ、ソルさんが飼っているんですか?」


 エルモくん。ルーミンが人見知りすると言っていたけど、カァルに興味があるのかな。こっちに来てくれた。


「ううん、大きくなるまで預かっているだけだよ」


「にゃう……」


 エルモが触りやすいようにカァルを横にさせる。


「か、嚙まないでよ……ふわふ……あれ? 意外と硬い」


「夏毛だからね」


 ふふ、まだ恐る恐るといった感じだけど、嬉しそう。


「ソルさんありがとうございます。エルモ、よかったね。カァルくんいい子でしょ?」


「うん、お姉ちゃん」


 慣れてきたらみんなとも話せるようになるかな。


「さっき預かっているといったけど、誰から預かっているの?」


 レリオがユーリルに尋ねている。


「誰からというわけじゃねえけど、ユキヒョウって山の神様の使いだろう。俺たちはいつか帰さねえといけねえと思っているんだ」


 そうそう、カァルが独り立ちできるように、リュザールがいる時は気配を消す練習をさせているし、時々山に連れて行っては走り回らせている。


「こんなに懐いているのだから、山の神様も帰せって言わないんじゃない」


「ま、そうかもしれねえけど、ここにいたってカァルに奥さんはできねえからな」


「あー、それなら仕方がないね」


 誰も年頃のメスのユキヒョウに心当たりがないので、カァルには自分で探してもらうしかないんだよね。

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