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第153話 当たったら痛そうじゃん

「いやー、やっていることに意味があるってわかると嬉しいですね。それで、そちらの方はどうでした?」


 海渡は竹下の方を見た。コルカでのメインイベント、ユーリルとパルフィのおやじさんとの戦いの件だ。


「ああ、明日、クトゥさんがパルフィん家に行ってくれることになってる」


 ユーリルが行くとパルフィのおやじさんが興奮するかもしれないからと言って、クトゥさんが私たちがコルカに来たことを伝えてくれる予定なんだ。そこで、ユーリルとパルフィのおやじさんとの決着をつける日も決まると思う。


「おー、いよいよですね。パルフィさんもソワソワしてましたよ」


 竹下と穂乃花さんは夜に連絡を取り合っているみたいだから、昨日コルカに到着することを知っていたのかも。


「で、勝てますか?」


「まあ、負けはしないと思うけど……」


「おやおや、はっきりしませんね。何かありましたか?」


 海渡がこっちを見てきた。


「パルフィのおやじさんがユーリルとの戦いを楽しみにしているらしくて、かなり気合が入っているみたいなんだ」


 パルフィのおやじさんはただでさえ筋骨隆々なのに、重そうな麻の袋を抱えて街なかを走っている姿が何度も目撃されたらしい。


「ははーん、竹下先輩ったら怖気ついちゃったんですね」


「ち、違う! ただ、俺本気で戦ったことがないから、間違ってケガをさせるんじゃねえかと思って……」


 この中で盗賊と戦ったことが無いのは竹下、つまりユーリルだけ。不安に思っても仕方がないと思う。


「竹下くん、大丈夫。これまで毎日休みなく鍛えてきたんだ。いくらおやじさんが死に物狂いで来たとしても、当たらなければ余裕をもって戦えるはず。そしてここぞという時にこてんと転がしてあげたら、おやじさんも納得するはずだよ」


 全く歯が立たないってわかったら、どんなことがあってもパルフィを守れるって信じてくれるはずだよね。




〇(地球の暦では6月2日)テラ



「なんだ? 場所、間違いないよな……」


 クトゥさんの隊商宿で朝食をすませた後に、みんなで待ち合わせ場所であるパルフィの実家近くの空き地に行ったんだけど、なぜか人だかりができていた。


「ソル、クトゥさんから聞いたのはここだよね?」


「うん」


 パルフィと話した木が近くに見えるから間違いないと思う。


「僕、聞いてきます」


 ジャバトが気を利かせて、近くのおじさんのところに向かってくれた。


「すみません。何をやっているんですか?」


「お、兄ちゃんたちいいところに来たな。これからファームが、娘をたぶらかして連れてった男をコテンパンにするんだとよ。これは見ものだぜ」


 ありがとうございましたと言ってジャバトが戻ってきた。


「だそうです。ファームさんと言うのは?」


「パルフィのおやじさんの名前だね」


 ということは、これだけの人たちがユーリルとの戦いを見に来たということか。

 ユーリルの方を見る……


「ま、やるだけやってみるわ」


 そう言ってユーリルは一歩前に出た。


「ファームさん、ユーリルです!」


 ざわめきが徐々に小さくなり、ユーリルの前の人の壁が左右に分かれていく。

 そして、ようやく見ることができた空き地の中央には、仁王立ちのファームさんがいた。


「小僧、よく来たな。逃げずにここにやって来たのだけは褒めてやる!」


 ユーリルを睨み付けるファームさん。上半身はすでに裸。キラッと光って見えるのはたぶん汗だ。私たちが来るまで準備を整えていたのかも。


「ジャバト、これ頼む」


 ユーリルが上の服を脱いでジャバトに託すと、その体を見たギャラリーから『おぉー!』と感嘆の声が上がる。六つに割れた腹筋、そしてがっしりとした上腕二頭筋など。そのどれもが、カインでの力仕事でついたもの。真面目に働いてきた男の証だ。


「ふん、いっちょ前になっているじゃねえか」


「毎日鍛えてますから」


 ユーリルが空き地の中央まで向かう。


「約束を果たしに来ました。パルフィは俺が貰います!」


「ぬかせ!」


 いきなりユーリルに飛び掛かるファームさん。

 ユーリルはそれをかわし、一旦距離を取る。うん、日頃の訓練の成果が出ているね。

 というか、審判無しに始まっちゃうんだ。


 丸太のような腕をボクシングのように前面に構え、ユーリルに向かって何度も突き出すファームさん。ユーリルは華麗なステップでそれを避けていく。


「ユーリル、頑張れ!」「わはは! ファーム、当たってねえぞ」「二人ともケガだけはすんなよ」


 様々な声援の元、二人の戦いも熱を帯びてくる。


「ユーリル、てめえ逃げるな!」


「だって、当たったら痛そうじゃん」


 ユーリルも筋肉は付いて来ているけど、ファームさんの腕はユーリルよりも一回り、いや二回りは大きい。あんなので殴られたら痛いどころか最悪死んじゃうよ。


「クソ! こうなったら」


 ファームさんが腕の回転をあげてきた。ブォンブォンと空気を切り裂く音がここまで聞こえてきそう。

 ユーリルは後ろに下がりながらそれを躱す。


「おぉ! いいぞファーム!」


 ギャラリーの人たちにはファームさんが押しているように見えるかもしれないけど……


「おわぁ!」


 ね。ユーリルがうまいことファームさんの体勢を崩した。

 ここで、すかさず……あれ?


「危ねえ危ねえ。足がもつれちまいやがったぜ」


 ファームさんが起き上がっちゃった。


「コラぁ! ユーリル!!」


 ほらぁ、リュザールが怒っちゃったよ。


「わぁってるよ!!」


 ユーリルがファームさんの方に歩いていく。


「ちと、すばしっこいみてえだが、当たりさえすれば……あれ?」


「はい、俺の勝ちです」


 ファームさんはうつ伏せに倒れ、首にはユーリルの手刀が添えられていた。

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