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第149話 こっちでは学生でしょ

「それで、皆さんは昨日シュルトを発たれたのでしょう。エキムさんたちはどうされたのですか?」


 おはぎを食べ終わった僕たちは、お茶を飲みながら話を続ける。


「タルブク隊が、シュルトの行商人の人たちとこれからの交易についての打ち合わせをしないといけないらしくて、それが終わったら戻るみたい」


 途切れていた隊商を復活させるタイミングとか、運ぶ商品とかある程度決めておくって言っていた。


「そして、アルバンが砂糖の栽培の勉強のためにカインに人を派遣するって言ってたから、その人ももしかしたらエキムたちと一緒にタルブクに行くかもしれないんだ。その時は僕たちがカインに帰るよりも先にそっちにいくかもしれないから、上手くやってて」


「はい、かしこまりました!」


 シュルトからコルカまで16~17日くらいかかるみたいだし、コルカではユーリルとパルフィのおやじさんとの勝負をつけないといけない。カインに戻ることができるのは一か月くらい先になるかも。


「それと海渡、馬をエキムに預けたから、タルブク隊が来たら受け取ってて」


「ということは、無事ラクダを入手できたのですね」


「うん、四頭」


 シュルトとコルカの間が乾燥してるって聞いたから、馬では難しいと思ってアルバンに頼んでいたんだ。


「お金と言うか麦は足りました?」


「いや、貰った」


「貰ったんですか!?」


「うん、砂糖と荷馬車の作り方を教える代わりにね。いらないっていったんだけど、どうしてもっていうからさ」


 最悪、馬と交換しないといけないと思っていたんだけど、そうならなくてよかったよ。今回連れていったのは元々は盗賊のものだった馬たち。シュルトまでの道中、ユーリルが移動しながら調教してどの子もよく言うことを聞くようになっていたからね。


「わかりました。馬は知らなかったふりして受け取っておきます。他に何か変わったことは無かったのですか?」


「あった。ソルがね……」


「ちょっと待って! 風花、もしかしてあのこと話しちゃうの?」


「もちろん! 海渡くんには全部教える約束だもん」


 とほほ……海渡が期待した目で見ているよ。


「それじゃ続けるよ。昨日アルバンの家を出るときに……」


 風花だけでなくみんなも昨日のことを話し始めた。


「ほぉ! コリンちゃんが初めて歩いたんですね。それもソルさんに向かって!」


 そう、帰りの挨拶をしているときにアルバンに掴まり立ちしていたコリンちゃんが、僕(ソル)の方に手を伸ばしてとてとてと歩いてきたのだ。

 当然親であるアルバンたちは大騒ぎするわけで……


「皆さん、ソルさんがコリンちゃんを歩かせたんだって喜んでいました」


「おぉー、さすがソルさんです!」


「いや、ずっと掴まり立ちしてたから、いつ歩いてもおかしくなかったんだって」


 僕と言うか、ソルがどうこうしたわけじゃない……はず。


「でもですよ、コリンちゃんがソルさんを好いていたのは間違いありません。別れを感じて、自らの足で近づいていきたいと思ったとしてもおかしくはないです」


「だな、コリンはいつもソルの方をじっと見てたからな。やっぱ、思うことがあったんだろう」


 思うことって、まだ一歳にもなっていないのに……


「それでは別れる時も大変だったのでは?」


「それがね、ソルのところまで行って抱きついた後は、すぐにアルバンのところに戻ってご機嫌になっててさ。別れ際もみんなに笑って手を振ってくれたんだ」


「うわ、それは可愛かったでしょう」


 うん、可愛かった。


「お話を聞いただけでもほっこりしてきます。コリンちゃん、ソルさんにすぐ会えると思っているのかもしれないですね」


「かもな」


 すぐには無理かもしれないけど、いつかは会ってみたい。


「それにしても……赤ちゃん、いいですね」


 ふふ。


「海渡、お母さんの顔になっているよ」


「そうですか? 皆さんも同じように見えますが……」


 海渡は僕、風花、凪ちゃんの順で見た。

 確かに風花も凪ちゃんも優しい顔になっている。


「どっちも男の俺にはその気持ちを理解するのは難しいぜ」


 それは仕方がないと思う。僕だって、その気持ちを説明しろと言われても難しいよ。


「お、そうだ、ちなみにこの中で一番先にお母さんになるのはソルか?」


 年齢的に言ったらそうだけど……


「ソルさんたちは、すぐには結婚なさらないのでしょう?」


 海渡の問いにうんと頷く。

 カインでは結婚できる年齢になっているんだけど、リュザールと話し合って少し遅らせることにしている。というのも、これから硬貨を普及させるために村々を回る必要があって、その時についてきてほしいと頼まれているのだ。結婚してしまったらすぐに子供を作らないといけないし、できたらしばらくの間は遠出をすることができなくなるからね。


「となるとですよ。風花先輩も凪ちゃんも大学を卒業するまでは難しいでしょうから、もしかしたらルーミンが一番先かもしれませんね」


 ルーミンはジャバトが16歳になったら結婚できる。早ければそれから一年経たずにお母さんだ。


「海渡は大丈夫なの?」


「何がですか?」


「こっちでは学生だよ」


 ルーミンはジャバトの一個上だから子供を産むのは17歳か18歳の時。


「えーと、再来年の春の中日(お彼岸)の後だから四月に結婚したとして、ひー、ふー……早ければ高校二年の三学期ですか。まあ、やれるだけやってみます」


 シュルトでエキムたちと子育ての話をしたけど、わからないことだらけ。ルーミンや海渡、ジャバトや凪ちゃんに負担をかけないようにしなきゃ。


「二人だけに任せっきりにしないで、地球でもテラでもフォローしよう」


 みんな頷いてくれた。

 誰の子供であっても、僕たちの大切な子供たちだ。大事に育てていこう。


「それで、竹下は人のことよりも自分の方は大丈夫なの? パルフィのおやじさんに勝ったらすぐに結婚だよ」


「おう!」


 いい顔つきだ。


「ユーリルさんの方はいいとして、パルフィさんは平気なのですか? 妊娠しちゃったら鍛冶工房の仕事ができなくなっちゃいます」


「凪ちゃん、パルフィさんが急いで鍛冶工房を拡張しているのも、早く職人さんの能力をあげて休んでもいいようにするためみたいです。ちゃんと先のことを考えているようですよ」


 今、タリュフ家の女の子部屋にいるのはルーミンとパルフィとコペルの三人。夜寝るときに将来のことを色々と話しているのかも。

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