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第148話 ぼちぼちやっていいってことか?

〇5月12日(日)地球



「お母さん、台所借りるね」


「いいけど、風花ちゃんたちが来るの?」


「うん、海渡はすぐだけど、みんなは昼から」


 今日は朝から雨だったから散歩は中止にして、家に集まることにしたんだ。


「昼って、まだ10時前よ」


「ちょっと手間がかかるものを作ろうと思って。もちろん、お母さんたちの分もあるよ」


「あら、それは楽しみね」


 ということで、海渡が到着するのを待って台所を占拠する。


「先にもち米とお米を研いだ方がいいみたいです」


 もち米2合と普通のお米を1合を一緒に研いで、炊飯器にセットする。でも、炊くのは30分ほどたってから。その方がお米が水を吸ってふんわりとできるんだ。


 次は小豆。

 600グラムの小豆を水洗いして、鍋に移す。

 それから、水を小豆よりも多めに入れて火をかける。沸騰したらコップ一杯の水を入れ、さらにアクを掬いながら2~30分間煮る。


「かなり膨らんできましたよ」


 小豆をざるに上げてお湯を切って、また鍋に戻して今度は弱めの中火で小豆の皮が剥けてくるまで水を足しながら煮る。


「わわわ、どんどん水が無くなってます。追加しないと大変です」


 レシピには小豆が煮汁から出ないようにって書いてあるけど、気を抜いてたらすぐに小豆の表面が顔を出している。蒸発しているというよりも、小豆が吸い込んでいるんだと思う。


「二人とも楽しそうね。何を作っているの?」


 お母さんが様子を見に来た。


「おはぎですぅ」


 今度あっちの世界で砂糖がとれるようになるし、たぶん小豆も手に入る。それで今のうちから予行演習をしとこうとなったんだ。あっちには記憶しか持っていけないから、何度もやって覚える必要があるからね。


「すごいわね。手伝うことがあったら言ってね」


「はい、ありがとうございます」


 作業を続ける。

 鍋を傾けて煮汁が澄んでくるまで水を注ぐ。きれいになったらざるに上げ、さらに水を切って鍋に戻す。


「いよいよ、砂糖の投入です」


 1キロ入りの白砂糖の袋を海渡に渡す。


「650グラムということは、だいたい三分の二くらいですので……」


 海渡は袋の下の部分を手で押さえて、残りを全部鍋に投下した。

 鍋の中は砂糖で真っ白だ。小豆は隠れてしまって見えない。


「火加減は?」


「えっと、中火ですね」


 中火っと……


「これが、全部溶けるんだ」


「みたいですよ」


 おぉー、ほんとだ。砂糖はすぐに溶けて液体になった。


「樹先輩にあんこは任せます。僕はお米が炊けたので、半殺しにします」


 は、半殺し!

 驚いて海渡の方を見たら、鼻歌を歌いながら炊飯器の中のお米をすりこぎ棒でついていた。

 後で聞いたら、お米を全部潰さないで半分つくことを半殺しって言うんだって。びっくりしたよ。


 おっと、あずき、あずき。焦がしちゃったら大変。

 レシピには水分があるうちは大丈夫って書いてあるけど、ここで失敗したら台無し。集中して……お、だんだんと木べらに手ごたえが……水気が無くなってきたかな。


「海渡、どう?」


 火を止めて、硬さを見てもらう。


「いい感じじゃないですか。どれどれ……」


 あんこを箸でちょっと摘まんで口に入れた海渡は、親指と人差し指で丸を作った。

 僕も……うん、おいしい。初めてにしては上出来。


 あとは、あんことお米が冷めるのを待っておはぎにするだけ。

 海渡と一緒にうちわでパタパタと仰ぐ。


「樹先輩、時間が……」


 時計を見る。12時ちょっとすぎ。

 三人がそろそろ中学を出る頃。


 竹下と風花は凪ちゃんの指導のために武研に行っている。というのは方便で、実際は風花が竹下をしごくのが目的なんだ。パルフィのおやじさんとの戦いが間近に迫っているからね。


「ギリギリだけど、何とか間に合わせよう」






「す、すげえ、こんなの見たことないぜ!」


 間もなくやってきた竹下たちの目の前には、お皿の上に山盛りになったおはぎが乗っている。


「お腹空いていると思ってたくさん作ったんだ」


 ここにあるのは15個、一人当たり3個は食べられる計算だ。

 ちなみに全部で17個できたから、お父さんとお母さんに一つずつあげてきた。ちなみにカァルの分は無い。可哀そうだけど、砂糖がたくさん入っているから猫には有害なんだよね。


「「「いっただきまーす」」」


 大きなおはぎをみんなが一斉に頬張る。


「あんこもこんなに。分厚い!」


 あんこはレシピの二倍の量を炊いたから、たくさん乗せることができたんだ。


「甘みがあって、ボクの口に合ってる」


 砂糖も多め。風花は以前、お店のは甘さ控えめが多いから物足りないと言っていたもんね。


「お二人ともすごいです。ほんとに初めて作ったんですか?」


「はい、レシピを見ながらやっと作ることができました」


 今日である程度手順を覚えたから、あと一、二回作ったらあっちでも再現できるんじゃないかな。


「ん、んぐ、うま。これって、砂糖をどれくらい使うんだ」


「小豆600グラムに対して砂糖650グラム入れました」


「ま、まじ、そんなに!?」


「はい、これだけ入れないと美味しく出来上がりません」


 一度甘みが全然足りないおはぎを食べたことがあるけど、はっきり言って不味かった。もう二度とそのお店では買わないって決めてしまったもん。


「ちゅうことは……あっちの世界、今までは砂糖が無くてもやっていけてたけど、普及しかけたら一気に必要になるってことだよな」


 あ、そうなるかも。


「大丈夫だよ。そこは市場原理が働くから」


 市場原理……なるほど、最初のうちは量が少ないから値段が高くなって、たくさんは買えないんだ。


「んじゃ、ぼちぼちやっていいってことか?」


「いいんじゃないかな。商人としてはずっと高くてもいいけどね」


 消費者としてはそれは困るけど、きっと、シュルトの人たちがたくさん作ってくれるようになるんじゃないかな。


「ちなみに凪ちゃん、カインでは今年の秋に砂糖がどれだけとれるの?」


「テンサイの実が6キロちょっとで砂糖1キロになるらしいので、畑の広さからすると砂糖10キロ分くらいになりそうです」


 10キロか、それだけあれば……


「小豆がないからおはぎとか回転焼きは作れないけど、パンケーキとか作ってみんなで食べたいね」


「ですね。あと、あんこは無理でもカスタードなら回転焼きは作れそうですよ」


 そういえば、回転焼きの中にはいろんなものが入ってた。


「海渡さん、カスタードを作れるのですか?」


「はい、ミルクと卵がありますので砂糖があったら作れます。ただ、あちらのミルクは牛じゃなくて羊やヤギなので風味が違うかもですが……」


「風味が……でも、海渡さん、いやルーミンの作ったものなら美味しいはずです。僕、シュークリームが食べてみたい!」


「いいですよ。代わりにジャバトはバームクーヘンを焼いてくださいね」


「はい!」


 はは、練習しなくちゃいけないものが増えちゃったよ。

挿絵(By みてみん)

(本文記載通りに作ったおはぎです。ほんと、甘みがしっかりあって美味しかった。写真では16個ですが、大きさを調整して17個にしたと思ってください。ちなみにあんこは結構余ります)

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