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第144話 今は俺が町長さ

〇(地球の暦では5月10日)テラ



 カインを出発してから22日目。

 タルブク隊の三人を先頭に、私たちは昨日に引き続き今日も林の中を進んでいる。


「静かだね」


 隣を進むリュザールに話しかける。

 聞こえてくるのは鳥のさえずりと馬の蹄の音くらい。

 天気も良くて暑くもなく寒くもなく、のんびりと馬に乗って散歩している感じだ。


「盗賊の気配もないよ」


 シュルトの人たちがきっちりと討伐してくれたんだろう。ほんとのどかだ。


「あれ?」


 突然ジャバトがキョロキョロしだした。


「どうしたの?」


「なんだか木が少なくなっているような……」


 木?

 そういえば、ちょっとまばらになってきているかも。


「どれどれ……あー、これは羊が食ってるな。ほら、草の丈も短くなってきてるわ」


 ユーリルの意見にみんな納得する。

 羊が食べてしまうから草も木も大きく育たないんだ。


「ということは、このあたりまで放牧に来ているってことだね」


「だな、シュルトももうすぐだぜ」


 ようやくだよ。特にタルブクを出発してからは、盗賊を警戒しながらの移動だったからほんともう大変で、シュルトに着いたら……あっ!


「ねえ、エキム。シュルトの町長まちおさに会ったことある?」


 振り向いて一番後ろのエキムに尋ねる。


「去年な。親父とシュルトに行った時に、結婚の報告を兼ねて挨拶してきた」


 エキムは将来タルブクの村長むらおさを継ぐから、今のうちから周りの村長や町長に顔を覚えてもらう必要があるみたい。


「どんな人だった?」


「痩せているんだけどさ、威厳のある堂々とした人だったぜ」


「そうなんだ……」


 威厳って、怖い感じの人なのかな……


「ソル、交渉する担当として、やっぱり気になる?」


 気にはなるけど……


「ねえ、やっぱり交渉ってリュザールやユーリルがやった方がいいんじゃないの?」


 それぞれが専門の知識を持っているから、その方が話が早いだろう。


「工房の責任者はソルだよ」


 うっ。


「そうだぜ。フォローは俺たちに任せな」


「はい、テンサイ畑の作り方は僕が説明します」


「俺はタルブクの立場で話すからよろしく頼むな」


 うぅ……


「そ、そうは言っても、前に出て話すのは苦手なんだって」


 特に今回の相手は大人なんだから、緊張してまともに話せる自信がないよ。


「そういえば、日直の号令の時の樹の顔は赤いかも」


 高校では新しいクラスになったばかりだから、まだドキドキしてしまう。


「体育の時も前に出たらあがってんな」


 竹下とはクラスが変わったけど、体育の時間は一緒。知らない人たちが多いから、なかなか慣れないんだ。


「うーん、仕方がない。ボクがユーリルと協力して話すから、ソルは責任者として隣にいてね」


「ほんとにいいの?」


「ああ、その代わり、話は俺たちに合わせろよ」


「もちろん!」


 話してくれるのなら、それくらいなんてことないよ。






 程なくして草原地帯に入った私たちは、山の端でひとかたまりになった羊の集団を見つける。久しぶりの家畜だ。やっと人の気配を感じたよ。


「リュザールさん、あれ」


 ジャバトが羊のすぐ横を指さす。

 お、人だ。馬に乗ろうとしているみたい。


「羊飼いだね。あ、」


 羊飼いらしき人は、西の方に向かって一目散に駆けていった。


「私たち、もしかして盗賊に間違えられた?」


「うーん、羊をそのままにしていったから違うと思うけど……」


 盗賊から逃げるときは、一頭でも多く守るために羊をばらけさせるはずだって。


「それにしても、あんなに慌ててどこに向かったのか気になるね」


「俺が行って聞いてこようか?」


 ユーリルの乗馬の腕前なら追いつきそうだけど……

 エキムを見る。


「たぶん大丈夫じゃないかな。隊長たちも気が付いて……ほら」


 隊長さんが私たちのところにやってきた。


「坊ちゃんたち、恐らくこれから迎えが来ると思います。疲れているところ申し訳ありませんが、できるだけ晴れやかな感じでお願いします」


「は、晴れやか?」


「ええ、シュルトの人たちは盗賊を討伐した後どうなっているのか心配なはずです。そんなときに不安そうな顔をした者がそこからやって来たらどうでしょう。討伐は失敗した。タルブクの方には隊商を出せないと思ってしまうかもしれません」


 た、確かに……


「わかった。隊商が来ないのは困る。できるだけのことはやってみる。な、」


 みんなでうんと頷く。

 交渉はもう始まっているんだ。





 それから間もなく、シュルトの方向から数人の男の人がやってきた。


「これはタルブクの……大丈夫でしたか?」


 一番年配と思われるおじさんが隊長さんに声を掛けている。


「ええ、盗賊の心配もなく、こちらまでやって来ることができました」


「お、おぉ、それはよかった。実は谷の入り口に盗賊の根城がありましてね。私たちで……」


 隊長さんたちが話を続ける中、笑顔を絶やさないように頑張っている私たちのところに一人の少年が近づいてきた。


「君は確かエキムだったよね」


「え? 俺? ……あっ! アルバン!」


 どうやら知り合いのようだ。


「一度しか会ってないのに、よくわかったな」


「お前だって……それにしても、タルブクからだとかなりかかったんじゃないのか。いったいここまで何しに来たんだ?」


 エキムはアルバンに砂糖について話した。


「え? 砂糖が手に入るの!」


「ああ、ここにいるソルたちがその方法を知っている」


「は、早く教えてくれ!」


「そんな大事なこと、こんなところでは話せないって」


「そ、それもそうだな。それに……もちろんただじゃ教えてくれないよな?」


「そのあたりも含めて町長と話がしたい。親父さんに繋げてくれるか?」


 アルバンは町長の息子のようだ。


「親父は冬に病気で死んだ。今は俺が町長さ」

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