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第138話 チャムは産むの?

 タルブクの村長であるエキムのお父さんに挨拶した後で料理を手伝うために台所に向かうと、チャムと中年の女性が腕を組んで話していた。


「チャム」


「あ、ソル!」


「あんたがソルちゃんかい。チャムから聞いているよ」


 中年の女性はエキムのお母さんで、これから何を作ろうかとチャムと相談していたらしい。


「ねえソル、これを使った美味しい料理って知ってる?」


 チャムが見せてくれた袋の中には米が入っていた。

 そういえば、この前タルブク隊が米を買っていってたっけ。


「カインには米を使った料理があるはずだからってエキムが言うんだけど、私にはわからなくて……」


 えっと、エキムにプロフを食べさせた時は……そうだ、プロフを作るには米が必要としか言ってないかも。それでエキムは作り方をカイン出身のチャムが知っていると勘違いしてるんだ。ちょうどいい。エキムのお母さんに作り方を覚えてもらったら、タルブクで広めてくれるはず。


「プロフって料理があるんだ。これから私と一緒に作ってみよう」






 エキムのお母さんと共に出来上がったプロフを持って居間へと向かうと、リュザールたちはエキムとエキムのお父さんとカルミル(馬乳酒)を飲みながら情報交換をしていた。


「待たせたね。たくさん作ったから、お腹いっぱい食べておくれ」


「ちょっ! これ!!!」


 ふふ、エキム大興奮。


「ほぉ、これが米を使った料理か……」


 エキムのお父さんは、取り皿に取ったプロフを口の中に運ぶ。


「!! ……なるほど、確かにこれはみんなに食べてもらいたいな」


「親父もそう思うだろ!」


「おい、これは米があったら作れるのか?」


 エキムのお母さんは腕を組んでうんと頷く。


「なっ、俺がシュルトまで行って、米の交易も頼んでくるからさ」


「しかし……」


 あれ? リュザールたちを見る。首を横に振った。シュルト行きの説得ができてないんだ……


「隣の村長むらおさからも、シュルトの方は危険だと聞いていてな……」


「こいつら無茶無茶強いから盗賊が出たら返り討ち。心配いらないって」


「それにさっきシュルトの先、コルカまで向かうと言っていたじゃないか。お前が戻って来るまで何日かかるか……その間、チャムをどうするんだ」


「そ、それは……」


 う、これはダメな感じ?


「ほら、あんたたち、腹が減ってたらまともな考えも浮かばないよ。それに冷えたんじゃせっかくの料理も台無し。お客様もいることだし、食事を先にしたらどうだい」


「おっと、これは申し訳ない。ささ、皆さん、料理はたくさんあります。思う存分食べてください」






「さてと、お茶を入れ替えようかね」


 料理があらかた片付いた頃、エキムのお母さんがそう言ってテーブルの上に手をついた。


「あ、お母さん私が……」


 大きなお腹を抱えて、チャムも立ち上がろうとしている。


「いいから、座っときな。大事な時期なんだから」


 ふふ、チャム、大切にされているみたい。


「あ、そうだ。あんた、今、うちの隊商が戻ってきてるだろう」


 エキムのお母さんは、居間の入り口で立ち止まってエキムのお父さんの方を向いた。


「ああ、カインから帰って来たばかりだからな。休ませてる」


「何人かシュルトまで行ってもらったらどうだい? エキムもそこまでならすぐに戻ってこれるだろう」


「シュルトか……しかし、盗賊が」


「空荷なら? 荷物が無かったら襲われにくいはずだし、それに、仮に襲われても馬の腕ならうちの村の者が負けるはずないさ」


「ふむ、空荷か……確かにあちらの詳しい情報も欲しいし……」


 おぉぉー。


「よし、エキム。明日、隊長を呼んできてくれ」


「ありがとう、親父!」


「ちゃんと村のためになるように交渉してくるんだぞ」


「わかっているって」


 エキムのお母さんは、こっちを見てウインクして台所に向かって行った。






〇(地球の暦では5月3日)テラ



「おーい、行けるようになったぞ!」


 お昼すぎ、タルブクの隊商宿の中庭で旅道具の整備をしているとエキムが駆けこんできた。


「よし! それで、いつからいけるんだ?」


「明日!」


 おー、これでエキムの方は何とかなりそう。


「今日また親父がご馳走したいっていうからさ、夕方来てくれよな。じゃ!」


 エキムはすぐに戻っていった。明日の準備が忙しいんだろう。

 さてと、今日もチャムの手伝いをしようっと。また、しばらく会えなくなるからね。






 日が傾きかけた頃、一人早めに隊商宿を出て、歩いて30分ほどの位置にあるエキムの家まで向かう。


 お、チャムだ。

 井戸の水を汲もうとしているみたい。


「手伝おうか?」


「ソル早いね。助かる」


 釣瓶つるべを落とし水を汲み上げ、桶の中に入れる。


「ありがとう。エキムが出かけるから、今日は髪を整えとこうと思って……」


 チャムは顔を赤らめた。

 ふふ、熱々だ。


「髪は私がしてあげるよ」


 チャムの長い髪に櫛を入れる。


「チャム……妊娠ってどんな感じ?」


「うーん、辛かったり嬉しかったりするけど、毎日が新鮮ではあるよ」


 そうなんだ。


「困ったことは無いの?」


「まあ、色々あるけど、お腹が大きくて体を拭くのが大変かな」


 そうか、チャムはまだお風呂のことを知らないんだ。

 エキムが地球と繋がったらお風呂を作るように話してみよう。お湯を沸かす釜とかは、鍛冶職人さんをカインに派遣してもらったらパルフィが教えてくれるはずだ。


「ねえ、チャム。少しの間、エキムを借りちゃうけどいいかな?」


「もちろん! こき使ってやって。それでさ、ソルのいい人は誰? リュザール? ユーリル? それともまさかのジャバト!」


「えっと、リュザールかな」


「やっぱり! ソルを見るリュザールの目が優しかったのよね。それでいつ一緒になるの? ソルは私の一個下だから、カインで結婚できる年になったでしょ?」


「うん、そうなんだけど、結婚するのはもうしばらく先になるんだ」


「なんで? 早く赤ちゃん産まないとおばあちゃんになっちゃうよ」


 はは……


「やることがあるからすぐには無理だよ。それが落ち着いたらするつもり」


「ふーん、ほんとに早くしないと赤ちゃん十人産めないよ」


 じ、十人って……


「チャムは産むの?」


「可能ならね」


 うわ、エキムは大変だ。

 おっと、そうだ。


「あのね、生まれるまでの間なんだけど……」


 お風呂に入れないから、清潔にしとくように言っとかなきゃ。


「わかった。お義母さんに頼んできれいにしとく」


 これでチャムも赤ちゃんも病気にならなくてすむかも。


 あとは、ここをこうして……チャムの髪をまとめる。


「よし、いい感じになったよ」


「ありがとう。エキム、喜んでくれるかな?」


「うん、チャム魅力的だもん」


「えへへ……」


 最後に、チャムの首元を……

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