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第137話 いや、何としてでも行く!

〇(地球の暦では5月2日)テラ



「みんなお疲れ様。この丘の先がタルブクだよ」


 カインを出発してから八日目、予定通りに到着できそうだ。


「ふぅ、長かったぜ」


「ユルトも慣れましたが、さすがに毎日は辛かったですね」


 ほんと、一人だったらどうにかなっていたかも。


「リュザール、タルブクから先はさすがに隊商宿があるよな?」


「たぶんね。村があるってエキムが言っていたから」


 いくら交代で見張りをしていたといっても、それが続くとさすがに体が参ってしまう。隊商宿なら基本的に見張りが必要ないから、ゆっくりと眠ることができそうだ。


「そうだ、エキムと言えば、私たちが行くことちゃんと伝わっているかな?」


「道中タルブク隊が通った形跡もあったし、追い抜いてもいないから大丈夫だと思うよ」


 タルブク隊は私たちが出発する一週間前にカインを発っている。私たちと違って馬を引いての徒歩だから移動に時間がかかるんだけど、それでも予定通りなら三日前についているはずだ。


「さあ、あとちょっとだよ」


 もうひと踏ん張り、頑張ろう。






 しばらく進むと山と山の間、谷の入り口の街道沿いにポツポツと家が見え始めた。


「ここがタルブク?」


「うん、この前エキムはそう言ってた」


「畑が少ないね」


 カインなら麦や綿花を植える時期だけど、見える範囲にはたぶん野菜用かなというものがちらほらとあるくらい。


「寒冷地だから限られたものしか育たないんだよ。代わりにほら」


 リュザールが指さす先には、家畜小屋が並んでいる。


「主力の産業は牧畜か。俺が生まれたところと違うのは、定住しているってとこか」


 ユーリルたち遊牧民は、羊や馬に食べさせてる草を求めて長い距離を移動して暮らしている。タルブクでは、そこまで移動しなくてもいいのかも。後からエキムに聞いてみよう。


「それにしても人が……」


 畑が少ないとはいえ、見渡す限り誰もいないというのは寂しすぎる。


「盗賊に襲われたのでしょうか?」


「それは大丈夫じゃないかな。ほらジャバト、見てごらん」


 リュザールが指さす先の家から煙が上がっていた。そうか、夕食の準備の時間だ。

 だとしても、男の人は外で働いているはず……


「放牧に出ているのかもしれねえな」


「放牧に?」


「ああ、この辺はまだみてえだが、標高が低いところは春で若葉が芽吹いてくるだろう」


 なるほど、男の人だけ家畜を連れて移動してるんだ。


「あ、もしかしたらエキムも放牧に行っているんじゃ?」


「ソル、心配しなくても、ボクたちが来る時期をエキムに……あれ? そういえば伝えてないや」


 そうなのだ。暁に東京で会ったのが11月の連休の時で、エキムがカインに来たのが10月の半ばごろ。冬の間は山に雪が積もっていて、タルブクとの間で連絡が取れてない。エキムが、この前タルブクの隊商に渡した知らせを受け取る前に放牧に出ていたら……


「ま、大丈夫だと思うぜ」


「はい、僕もそう思います」


 ジャバトまで……


「行ってみたらわかるさ。ほら、あそこだよ」


 エキムの家はカインと同じように日干しレンガで作られていて……あっ!


「チャム!」


 思わず馬を降りて駆けだしていた。


「ソル!」


 井戸のところにいた幼馴染のチャムに抱きつく。

 一年ぶりだよ。って、


「お腹が大きくなってる!」


「うん、もうすぐ生まれるんだ」


 話は聞いていたけど、目の当たりにすると感慨深い。だって、小さい頃からずっと一緒だった親友なんだよ。


「すごい……」


 大きなお腹を撫でまわす。


「へっへー、いいでしょ」


「うん」


 こっちでは女の子なんだから、いつかは赤ちゃんを……


「えーと、ソル」


 リュザールから声がかかる。

 おっといけない……


「あのねチャム、今日はエキムに会いに来たんだけど、いるかな?」


「もちろん! すぐに呼んでくるね」


 チャムと入れ替わりにすぐに裏口のドアが開き、そこからエキムが顔を出した。


「馬の嘶きが聞こえたと思ったら、やっぱりお前たちだったか」


 よかった。エキムがいてくれたよ。


「放牧に行ったんじゃないかって心配してたんだ」


「行くつもりだったんだけど、出発する寸前に隊商が戻ってきて手紙を読んだからさ。羊を村の人に頼んで待ってた」


 おー、ギリギリだった。


「それで、今日は家でメシ食っていくだろう。せっかくなら泊まっていってもらいたいが、家が狭くて……」


「心配しないで、隊商宿に行くから」


 リュザールたちだけなら泊まれるのかもしれないけど、女の私がいるからそういうわけにはいかないんだよね。部屋がもう一つ必要になってしまうんだ。


「ありがとう。それでユーリル、手紙にはシュルト方面に行くからついてきてほしいとしか書いてなかったけど、あっちの俺が見つかったんだろう? どんな奴?」


「あー……忍者だな」


「にんじゃ? 何それ」


「繋がったらわかるって、楽しみにしてな」


「ふーん、わかった。それで、いつ繋がるの?」


「予定では、明後日以降。というわけで、すぐにでも出発したいんだが大丈夫か?」


 暁が樹のところに来るのが5/3~5/5まで。その間に繋げないと次がいつになるかわからない。


「それが、ちょっと親父の説得に苦労してるんだ……」


「マジ! 大丈夫なのか?」


「たぶん何とか……いや、何としてでも行く!」


「わかった。俺たちからも親父さんに話してみるわ」


「頼む」


 早速、エキムたちが家の中に入ろうとしているけど……


「エキムはチャムの出産の時にいなくていいの?」


「それがさ、気になるから放牧に出るのも生まれてからにしようとしてたんだけど、そんなことより働きに行けって()かされててさ……」


 はは、お父さんは生まれてくる子供のために頑張れってことかな。

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