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第136話 地球すごいです!

「先輩、ノラ猫を飼うためには色々と手続きが必要なようですよ」


 竹下の家に向かう途中で出会った海渡が、スマホを見せてくれる。


「なるほど、警察と保健所に届け出が必要なんだ」


「はい、それに病院ですね」


 病院か。


「確か動物の診察って高くなかった? 竹下だけにお願いするわけにはいかないから、みんなで相談しよう」


「ですね。少しずつ出し合ったらそんなに負担になりません」


 手続き関係もみんなと協力してやったらすぐに終わるだろう。


「さて、カァルくんどうしてますかね」


 海渡と二人で竹下のお店の暖簾をくぐる。


「お、いた」


 カァルは、カフェの入り口の台の上に寝そべっている。


「あれ、やってきませんね」


 うん、どうしたのかな?

 こっちを見て嬉しそうな顔したと思ったんだけど……


「カァルくーん」


「にゃあー」


 カァルったら、カフェのお客さんに愛想を振りまいているよ。


「樹、海渡、こっち」


 竹下に呼ばれ、呉服店の方に向かう。


「えーと……」


 色々と聞きたいことが多すぎる。


「まあ、あれだ。詳細は省くが、カァルは一瞬にしてうちの店の一員になったということだな」


「……それで、おじさんとおばさんは?」


「出かけたぜ。猫グッズ買ってくるんだと。それで俺は帰って来るまで店番」


 猫グッズ……


「僕たちもここにいてもいいの?」


 お客さんの邪魔になるので、普段は呉服店の方にはあまりいないようにしているんだけど……


「いいんじゃね。店員もお客もカァルに夢中だから」


 そういえばお店の人も入り口の方でカァルの様子を伺っている。


「それでは集まったことですし、早速話を始めましょうか」


 風花は家の用事があるということで午後は不参加だ。


「竹下先輩見てください」


 海渡はスマホでさっきの画面を開いた。


「警察と保健所だろ、おやじたちがやるって」


「病院にも連れて行った方がいいみたいだけど……」


「それも任せろだってさ」


「お金は?」


「ほら、あれ見てみ」


 竹下は、店の暖簾をくぐって中に入ってくるカァルを指さす。いつの間に外に……というか、若い女の子のグループがついてきちゃってるよ。


「自分で稼ぐってさ」


 うーん、これはほんとにそうしちゃいそうだ。





〇(地球の暦では4月29日)テラ



 体を揺さぶられる感覚。

 目を開けると、暗いユルトの中で間近にユーリルが見える。


 交代の時間だ。


 音をたてないように寝袋から出る。

 そして、グッと親指を立てるとユーリルもグッと親指を立て、自分の寝袋に潜った。


(お休み)


 今のうちに外に……


 ……ふぅ、すっきりした。鳴子をつけてもらっててよかったよ。安心して用を足せる。


 ユルトに戻りながら、空を見上げる。

 こっちではものすごくたくさんの星が見える。標高が高いせいかもしれないけど、工業が発達してないから空気が澄んでいるんだと思う。私たちが地球の知識をいくらでも使えるからと言って、何でも持ってくるわけにはいかないと思っている。せっかくの夜空が見えなくなるのは嫌だもん。


 ん? 何か視線を……まさか盗賊?

 そっとそちらの様子を伺う。暗闇に二つの瞳……

 クマ? いや違う。あのフォルムはカァルと一緒。ユキヒョウだ。もしかして、カァルがついてきちゃった? いや、海渡は何も言ってなかったからカインにいるはずだし……あ、近づいてくる。

 月明かりに照らされる白い体。そのユキヒョウはカァルよりも一回り大きく、長い尾を地面につけないようにゆっくりとこちらに向かってくる。

 なんだか目が優しい感じがする。女の子かな。


「ごめんね、君のナワバリだった?」


 ユキヒョウは何も言わずに私の周りをぐるりと回り、そして、匂いを嗅ぎだす。

 もしかして、カァルの匂いが残っていたのかも。別れる前にギュっとしてきたし……


 怒るかな……そっと撫でてあげる。


「にゃう」


 お、いいみたい。


 私が座ると、ユキヒョウちゃんは隣に寝そべってくれた。

 この子がメスだとすると今の時期は子育てをしていてもおかしくないんだけど、一匹だけということはパートナーに出会えなかったのかな。


「ねえ、君。今度の冬、もしカァルが大人になってたら、お相手になってくれない?」


 ユキヒョウちゃんは顔をあげてこっちを見た。


「カァルは頭もよくて勇敢、社交性もあってイケメンだし将来有望のユキヒョウだよ」


 ちょっと盛りすぎたかな……


「にゃう!」


 お、好反応。でも、立っちゃった。


「冬くらいにカァルが来るかもしれないから、その時はよろしくね」


 ユキヒョウちゃんは、大きな尻尾をゆっくりと振りながら去って……


「あ、そこは!」


 ふぅ、心配しなくても鳴子をぴょんと飛び越えていったよ。


「きれいなユキヒョウだったな」


 うぉ! びっくりした。

 振り向くとユーリルがそこに立っていた。


「どうしたの?」


「寝ようとしてたんだけどさ。表でなんか気配がするから覗いたら、ソルがユキヒョウといい感じじゃん。思わず最後まで眺めてたわ」


 見られているとは思わなかった。変なこと言わなくてよかったよ。


「でさ、カァルのお嫁さんにしようとしてんのか?」


「うん、あの子私の匂いを嗅いでも逃げずに横に座ってくれたんだよね」


 嫌だったら逃げているはずだし、オスだったらたぶん違う反応をしているはずだ。


「なるほど、カァルの匂いが染みついてるソルの近くにいることができるということは、カァルにもチャンスがあるということか」


「はは、まあね」


「なら、時期を見てカァルに話そうぜ。んじゃ、俺は寝るわ」


 そう言ってユーリルはユルトの中に戻っていった。


 さてと、私も中に入って朝を待とうかな。







 まだ暗いユルトの中。私以外の三人からはスースーと寝息が聞こえている。


 お、鳥のさえずりが……耳を澄ます。

 チョリチョリチーチョリチョリ……これはイワヒバリかな。

 よし、そろそろ夜明けだ。

 そっとユルトを出て、東の空を見る。太陽はまだ山の向こうだけど、空が白みだしている。

 まずはお湯を沸かそう。

 かまどに乗せた鍋に皮の袋から水を注ぎ、火をかける。

 今日は思ったよりも寒くないかも。あ、そういえば、このあたりの標高はカインとたいして変わらなかったっけ。


「ソルさん!」


 お、起きてきた。


「おはようジャバト、どうだった?」


「ち、地球すごいです! それに女の子のことを分かっちゃいました……」


 ジャバトは少し照れながら鼻の頭を掻いている。誰も教えてくれないことが急にわかるようになるんだから、びっくりしちゃうよね。

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