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第130話 どうして教えてくれなかったの?

 テンサイ畑を通り過ぎ山に入った私たちは、緩やかな上り坂を馬に任せてゆっくりと進んでいる。

 天気がよくてポカポカ陽気、馬の背に揺られ眠たくなって……


「このあたりはちょっとならしたらいけそうだな」


 っと、いけない。ユーリルたちはちゃんと考えながら移動してるよ。

 えーと、確かにここまでは凸凹も少なかったし、勾配も緩やか。何か所か均して砂利を敷いたら、荷馬車を使うことはできそうだ。


「難しそうなのは明日以降かな。ユーリル何とかできないか考えてよ」


「りょ! たぶんエキムにも頼まれるから、しっかり見とくわ」


 カインとタルブク間で荷馬車が使えたら、エキムと話し合って作るものを決めることができるようになる。必要な物を融通できるようになったら、もっと効率が上がるはずだ。


「よし、今日はこのあたりで休もうか」


 突然、先頭のリュザールが馬を止めた。

 もうなんだ。確かにお昼の休憩を取らなかったけど……太陽を見る。この時期のあの高さなら今は午後の3時くらいかな。


「俺たちを心配しているのなら、まだいけるぜ。なあ」


 ユーリルの問いに私もジャバトもうんと答える。

 居眠りしかけていたけど、私も大丈夫。あと一時間くらいは平気。


「最初から今日はここまでの予定だったんだ。ついてきて」


 リュザールは馬を操り、若葉が生え始めた木の間に入っていった。


「下に降りるの?」


「うん、この先に広場があるんだ。」


 リュザールの言う通り、すぐに開けた場所に出た。広さは小さな公園くらい。ユルト(テント)を設営するのにちょうどいいかも。


「この下には川も流れているんだ。初日はここで休むのが隊商の習わし。明日からが大変だからね」


「習わしって、こういう場所がこれからもあるのか?」


「だいたいね。安全な場所って限られているから」


 なるほど、町や村がない場所ではこういうふうに休む場所を決めているんだ。


「でもよ、場所が決まっていたら盗賊なんかが襲ってきそうだぜ」


「まあね。一応、道から逸れたところに作ってあるんだけど、危険なのは確か。出発前に見張りを立てるということは言ったよね?」


「はい、夜は交代ですね。僕、頑張ります!」


 三交代制だって。


「それじゃ、準備するよ。手伝って」


 馬から荷物を下ろし、夜露をしのぐためのユルトを組み立てていく。

 と言っても、手慣れているリュザールとユーリルだけで事足りそうなので、ジャバトを誘って焚き火用の薪を拾いに行くことにした。


「押さえてて」


 ジャバトに枝の先を持ってもらい、根元になたをあてる。


 トン!


「おー、切れ味抜群ですね」


「うん、さすがパルフィだね」


 元々の鍛冶の技術もすごかったんだけど、穂乃花さんと繋がってからのパルフィは地球の知識も使えるから、作ってくれる道具の性能がどんどん上がっていってるんだ。


「これをこうして……」


 枝を打ち、運びやすい長さまで切っていく。

 これまでは何度かカッカッってやって切ってたんだけど、スパッ、スパッといって気持ちがいい。


「パルフィさん、欲が無くてすごいです」


 散った枝を拾いながらジャバトが呟く。


「そう?」


「はい、この鉈だって、他の村から来た職人さんに作り方を教えているし、他の物も……自分だけのものにしようとは思わないのでしょうか?」


 あー、そういうことか。


「この世界が好きなんだよ。きっと」


「好き……ですか?」


「うん、地球に比べてこっちの世界って、ものすごく遅れているんだ。っと、これくらいあればいいかな。戻ろう」


 集めた薪と枝を抱え、歩きながらジャバトと話の続きをする。


「ジャバトも繋がったらわかると思うけど、あっちの世界ってこちらと比べ物にならないくらい便利で豊かなんだ」


「以前伺ったら、あちらでは食べることに困らないと言ってましたね」


「うん、全部じゃないけど、私たちが住んでいるところではよほどのことが無い限り飢えることは無いかな。だから、パルフィもこっちで自分一人がお腹いっぱいになるよりも、みんなが同じようにお腹いっぱいになってほしいって思っているはずだよ」


 これから作る新しい道具も、材料費とこれまで通りの手間賃を乗せた価格にすると言っていたから、村の人も無理なく買うことができるはずだ。今はパルフィの鍛冶工房だけだけど、他の村や町の工房でも新しい道具を作れるようになったらこっちの世界の農作業や大工仕事の効率も上がってくると思う。


「僕……カインに来るまで、仕事は辛いし、いつもひもじいしでなんで生きているんだろうって思っていました」


「……今も?」


「いえ、今はこんなにいい目を見させてもらっていいのかって思っています……あのー、ソルさんはこの世界好きですか?」


「うん、好き……いや、大好きだよ」


「それはどうし……あ、ソルさん!」


「え?」


 カランカラン!


 突然大きな音があたりに響き渡った。

 下を見ると、ひざくらいの高さにある細い紐に足があたっている。


「ソル、ジャバト、それ避けてこっち来て」


 声のする方を見ると、リュザールがユルトの前で石積みのかまどを作っていた。






「どうしたの、あれ? 鳴子なるこでしょ」


 リュザールの横に薪を置き、ジャバトと一緒に石積みを手伝う。


「うん、ユーリルが持ってきててさ。さっき一緒に設置したんだ」


 ユーリルが……そういえば数日前からゴソゴソしてたっけ。


「で、ユーリルは?」


「馬に水を飲ませに行ったよ」


 リュザールは木々の間の細道を指さす。あそこから川に降りれるんだ。

 っと、帰ってきた。


 ユーリルが細道から出てくると四頭の馬も続いて出てきた。その背には皮の袋が……たぶん水が入っているんだろう。


「うまくいったようだな。下まで音が聞こえていたぜ」


「作ってたんだ」


「ああ、鳴子だろう。暁にこれから毎日見張りで大変だっていったら教えてくれてさ。慌ててな」


 暁……本職じゃん。道理で見つけづらいはずだよ。


「だからさ、今夜の見張りも外じゃなくて、ユルトの中でいいんじゃねえか?」


「うん、あれだけ大きな音なら、盗賊だけでなくクマも驚いて逃げちゃうよ」


 おー、それは安心だけど、


「教えてくれてたらよかったのに……」


「マジで引っかかるかどうか試さないといけないって、リュザールがいうからさ」


 リュザール……舌をペロッと出して可愛いけど、驚いて薪をぶちまけるところだったんだよ。

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