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第129話 川の畑はどうするの?

〇(地球の暦では4月24日)テラ



 朝食をすませた後、用意していた荷物を馬に括りつける。

 左右のバランスを取って……

 ん? 何か気配が……


「にゃう」


 カァルだ。大きなシッポをたてて足元にすり寄ってきた。


「お留守番お願いね」


 ひと撫でしてあげると、カァルは私の手に頬ずりをしてテムスのところにトコトコと歩いていく。


「ソル姉、カァルのことは僕に任せて」

「にゃ!」


 テムスはカァルを抱きかかえ、カァルもそれに応える。

 ついてきそうになったらどうしようかと思っていたけどよかったよ。


「こっちはいいぜ」


 ユーリルとジャバトの準備はできたみたい。

 私は……


「リュザール、これでいい?」


 念のため見てもらおう。途中で積みなおしになったら時間のロスになる。


「うん、よくできてるよ」


 お墨付きも貰えた。


「それでは、行ってきます」


 馬に乗り、みんなに向かって挨拶をする。


「おう! こっちのことは心配すんな。体には気い付けろよ」

「皆さんもお気をつけて」


 タリュフ家と工房のみんなに見送られながら、私たちは馬を東へと歩ませる。

 カインを出発し、タルブクからシュルトへ向かい、北経由でコルカを通ってここカインまで。全長約1700キロメートル、だいたい2か月くらいの旅の始まりだ。


「皆さんまだ手を振っておられますよ」


 ジャバトは振り返ったまま、かなり小さくなった父さんたちに手を振って応えた。

 今回の旅のメンバーは私、リュザール、ユーリル、ジャバトの四人。元々は隊商の人に護衛をお願いしていたんだけど、実戦経験のあるジャバトが参加することでこちらの戦力が十分になったから、代わりに村に残ってもらうことにしたんだ。旅の途中で、戻る場所が無くなっていたら大変だからね。


「それにしても、カァルがついてこなくてよかったよ」


 タルブクまでなら問題ないんだけど、その先のシュルトまでは連れて行けない。町にユキヒョウが現れたら大騒ぎになっちゃう。


「言って聞かせたからな」


 ユーリルが言うと、リュザールとジャバトがうんと頷いた。男部屋でそういう話があってたみたいだ。


「さてと、みんなこのまま聞いてもらえるかな」


 父さんたちの姿が見えなくなったころ、リュザールがいつもの黒鹿毛くろかげの子を操りながらこちらを振り向いた。今回私たちは、歩きではなく一人一頭ずつ馬に乗ったまま移動している。行商が目的じゃないので旅の荷物だけ運んだらいいのと、行程がかなりの長距離だから無理をしないために工房の馬を三頭使わせてもらうことにしたのだ。ちなみに私が乗っているのは最近工房に来た栗毛の子。この子がいいよってリュザールが選んでくれたんだ。


「これから山に差し掛かる。今日のところはそこまでではないけど、明日以降はかなり高いところを進む。もし、気分が悪くなったらすぐに言って欲しいんだ。無理したら死ぬことだってあるから」


 私だけでなく、ユーリルもジャバトも神妙に聞いている。


「リュザールさん、他に注意することはありませんか?」


「そうだね、前にも話したけど、クマ。遭遇したら言ったことを守って行動すること」


「わかりました」


 この前リュザールが話してくれたのは、遭った時にはとにかく慌てずにクマを興奮させないことが大事で、その後は黙ってみんなでじっと見つめるということ。そうしたら、きっとこっちの強さを感じ取って離れてくれるはずだって……実際にそうなるかどうかわからないけど、こっちにはクマ除けスプレーなんてないんだから、そうするしか方法は無いと思っている。


「クマも怖えけど、やっぱり不安なのは高さだよな。ジャバトは高いとこ登ったことあるか?」


「いえ、ナムルの北の山は高かったですが、行ったことないです。ユーリルさんは?」


「俺も。たぶんジャバトが言ってる高い山は、俺がいた町から南に見える山なんだよな。あんなところ登ろうとは思わねえわ」


 ジャバトの生まれ故郷はナムル村と言って、バーシとコルカの間、地球ではウズベキスタンのナマンガンあたりかな。フェルガナ盆地の北側に位置していて、北には4000メートルほどの山があったはず。去年までユーリルが住んでいたのはカザフスタンの南側って言っていたから、ナムル村とは山脈をはさんだ位置にあるんだろう。今回の旅ではユーリルがいた町を通る予定だから、どれだけ高い山か確認してみよう。


「高さか……今日は中腹までの予定だから心配いらないと思うけど、体に変化を感じたらすぐにいってね」


 自分だけでなく、周りにも気を使っておこう。






「お、きれいにできてる」


 ここは、薬草畑に向かう分かれ道をタルブクへの街道の方にしばらく進んだところ。この前盗賊と戦った場所の少し手前に、立派なうねが作られた真新しい畑がある。先日工房の男手衆がテンサイ(砂糖大根)の種を蒔いた場所だ。


「だろ。慣れてねえから苦労したんだ。なあ、リュザール」


「うん、畑仕事なんて滅多にしないから上手くできなくてさ。ジャバトに教えてもらいながらやっとって感じ」


「僕、小さい頃から畑仕事を手伝わされていたから……皆さんのお役に立ててうれしいです!」


 そういえば、地球のナムル村があるあたりは平地が広がっていたっけ。


「ジャバト、村には畑がたくさんあったの?」


「いえ、川が遠いので畑は食べる分と塩を買うための麦と野菜を少し、あとは羊を飼ってました」


 川が遠い……水の問題があるんだ。


「ジャバトがカインに来たのは、食べるのに困ってだと言っていたよな。やっぱり干ばつにやられたのか?」


「ナムル村では水は枯れませんでした。ただ、村で飼っていた羊が盗賊に襲われてしまって……」


 畑が少なかったのなら、羊を奪われてしまったらすぐに食糧難に陥ってしまう。ナムル村ではみんなが死なないために、若いジャバトを働きに出したんだろう。


「北の干ばつの影響で、あの頃のあの辺りは盗賊が跋扈ばっこしていたからね。ジャバトが無事でよかったよ」


「はい、それは幸運だと思います。運良くセムトさんたちが来てくださいましたから」


「ま、ソルがいるからな」


「うん、そうだね」


 リュザールにユーリル。相変わらず訳の分からないことを……


「えっと、テンサイは川の方にも蒔いたんでしょ?」


「いや、全部こっちでやることにしたぜ」


「え? 種を取るには根を残しておかないといけないんじゃなかった?」


 テンサイは植えてから二年経たないと種が取れない。ここは寒暖差があってテンサイが甘みを蓄えるのにはいいんだけど、真冬は地面が凍ってしまうから根をそのまま残しておけないんだよね。だから、採種用のテンサイは標高が低い川近くに植えるって言っていたはずだ。


「川近くの土地も開墾してもらったけどさ、もし寒波が来たらダメになるかもしれねえじゃん。だから種用もこっちで一緒につくって秋に一度収穫して、春に植えなおすことにしたんだ。北海道でもそうしているらしいからな」


 確かに何年かに一度かなり寒い年がある。その時は川近くの畑も凍るはずだ。でも、


「川の畑はどうするの?」


 父さんたちに手伝ってもらって開墾したのに、何も作らなかったら怒られちゃうよ。


「トロロアオイも作るだろう。あれって連作ができねえみたいだから、工房近くの畑だけでなく川の畑も使おうかと思ってんだ」


 なるほど、輪作をやるつもりなんだ。そういうことなら、途中で綿花をはさんでもいいかも。

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