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第13話 いのちだいじに

 薬草畑に到着した私たちは、いつもと同じ作業を開始した。ユーリルが竹下だとわかったからといってやるべきことには変わりがないからね。

 というわけで、私が薬草の状態を見るために畑の中に入り、テムスとユーリルは天秤棒を担いで川へと行っている。

 まずは止血用の薬草を植えている場所を確認する。ふむ、かなり茂ってきている。この分だと山のほうも収穫に行けるかな。山は危ないからテムスと二人だけではダメだったんだけど、今年はユーリルがいるから三人でならいけるかも。ジュト兄に聞いてみよう。


「ソルー、水持って来たよ」


 ユーリルが軽やかな足取りでこちらにやってきた。

 おー、息が切れてない。前はここまで水を持ってくるだけでふーふー言ってたのに、成長しているよ。


「ありがとう。これとこれにかけてくれる」


「りょ!」


 りょ! って……なんだか竹下っぽくなってないか?

 ん? でも水の運び方とかはユーリルのままだな。地球と繋がったとしても、人が変わるというのとは違うみたいだ。


「ねえ、ユーリル。なんか気付いたことあった?」


 慣れた手つきで薬草に水をかけているユーリルに尋ねる。


「ああ、やっぱり用水路がいるな」


「作れるの?」


「見た感じ少し上流から持ってくればいけそう」


 竹下の記憶を持った途端これだよ。


「いつから始める?」


「うーん、一人でやるのは大変だから村の人にお願いしたいんだけど、俺から言っても誰も助けてくれない思うんだ。ソルから頼んでくれないかな」


 ユーリルは村に来たばかりだから仕方がないか。


「わかった。聞いてみるけど、しばらくは無理かな。工房の建設と一緒にはお願いできないよ」


「そうだよな。あっちが優先だよな。糸車を普及させないとその後が先に進まないもんな」


 竹下は、この世界を発展させるために最初に取り組むべきなのは交易だと言った。それはそうだと思うんだけど、家庭での女の人の仕事を見ている私としては、そんなことしたら家庭が破綻すると思って却下した。女の人は寝る間を惜しんで働いて、ようやく何とか回っているのにこれ以上負担をかけても無理がくる。とにかく、女の人の仕事を減らして時間に余裕を持たせてから、ということで思いついたのが糸車なんだ。


「ソル姉、ユーリル兄、こっち来てー、芽が出てるよー」


 テムスがいる場所は……あ!


「「綿花だ!」」


 ユーリルと共にテムスの元へと向かう。


「ねえ、これでしょう」


 綿花を植えている場所にいくつかの双葉が出ていた。


「うん、これだね」


「確かにこれだった」


 地球で、オーガニックコットンを作っている人に頼んで手伝いをさせてもらっているんだよね。その時に見た芽と同じものがここにある。


「あれ? ユーリル兄はこの芽を見たことあるの?」


「ああ、夢で見たぜ」


「夢なんだ。でもすごいね。本当にあるものを見れるんだから……僕も見てみたい」


「テムスもそのうち見れるようになるかもな。俺のように」


「ほんと!」


 ユーリルが竹下だったんだから、テムスと繋がっている地球の人間がいるかもしれないのはわかるけど……ごまかさないのかな。


「ただ、誰でもって訳ではないから、なれなくても泣くなよ」


「な、泣かないけど……仲間外れになったみたいでいやだよ」


 ユーリルがこちらの方を見たから、私はうんと頷いた。

 たぶんユーリルは、テムスに私たちのことを話してしまうつもりなんだと思う。


「それならさ、俺たちのことを手伝ってくれないか?」


「俺たち?」


「うん、俺とソルの」


「ソル姉も夢を見るの? ……わかった、僕、手伝うよ」


 これで、テムスが地球と繋がっても繋がらなくても仲間になってくれるということになったんだよね。これは嬉しいかも、これまで隠し事をしているような感じがしてて嫌だったんだ。


「ありがとう。これから話すことは俺たちだけの秘密だ。守れるか?」


「秘密……もちろん。誰にも言わない」


「よし、いいか、俺たちは――」


 ユーリルはテムスに私たちの秘密を語り始めた。





「それじゃ、ソル姉はあっちの世界でもユーリル兄と友達だったの?」


「うん、小さい頃から一緒だったよ」


「じゃあ、やっぱり二人は結婚するの?」


 隣を見るとユーリルもこちらを見ていた。


「ぶはっ! ソルと一緒に? それはないな」


「うん、ユーリルとは結婚しないかな」


「どうして? 二人とも仲いいじゃん。父さんたちもいい婿がきてくれたって言ってたよ」


 あー、父さんとセムトおじさんがそう思っていることは知っていたけど、気が早すぎだよ。


「そんな話になってたんだ……でも、ソルというか樹とはずっと近くにいるから、一緒にいてもドキドキしないんだよな」


 そうそう、トキメキを感じるというのはありそうにない。安心感はあるんだけどね。


「でも、ソル姉ってそろそろ相手を見つけないといけないんじゃないの? チャム姉ちゃん結婚しちゃったよ」


 従姉妹で一つ年上のチャムさんは今年嫁いでいった。だから私もそろそろ相手がいないとおかしい年頃なんだけど……


「ま、まあ、そのうち現れるよ」


「白馬の王子さまでも待つ?」


 ユーリルの奴、ニヤニヤと……


「僕は白い馬よりも黒い馬がいいな。格好いい!」


「はは、そうだね。黒い色は格好いいよね」


 白馬に乗った王子様の話とかこっちにはないから、ユーリルの言っている意味はわからないか。


「さて、仕事を続けるよ。明日は山に行こうと思っているからそのつもりで」


「え? ……もしかして明日の分も今からやるの?」


 ユーリル、予想通りの反応ありがとう。


「もちろん! 終わるまで帰れないよ」







 何とか昼過ぎまでに作業を終わらせることができた私たちは、テムスの操る馬に乗り家へと向かう。


「は、早く用水路を作らないと辛すぎる……」


 目の前のユーリルは、震える足をさすりながら呟いている。筋肉がついてきているみたいだけど、いつもの倍の水かけは堪えたようだ。


「村に人が少ないから工事を頼もうにも難しいよ」


「そういえば、小っちゃい子は見かけるけど俺たちぐらいの年齢は少ねえな。というかいるのか?」


「いない。春に一つ上の従姉妹が村の外に嫁いでいったから、私一人になっちゃった」


「どうして?」


「私が生まれて間もなく、流行病はやりやまいで赤ちゃんと年配の人たちがかなり亡くなったんだって」


 病気も村中に一気に広まってしまって止めることができなかったうえに、薬を与えてもなかなか治りが遅かったらしくて、抵抗力の弱い人から死んでいったみたい。


「そうか……お年寄りもあまり見かけないと思ったらそういうわけだったんだ。それで、今ここにいるということはソルは大丈夫だったんだよな」


「うん、私と他に何人かの女の子は大丈夫だったみたいだよ」


「へぇー、女の子はいるんだ……あれ? でも、さっきいないって言わなかった?」


「うん、村に年頃の男の人がいないからみんな村の外に嫁いじゃってる」


「うそ! 俺のお嫁さん……」


「だから、ソル姉と一緒になったらいいじゃん」


 静かだと思ったらテムスもこっちの話を聞いていたんだ。


「あのねテムス、ユーリルの好みは私みたいのじゃなくて、もう少し年上なんだよ」


「うっ!」


 やっぱり。竹下がそうだからたぶんそうだと思ったら案の定だ。


「年上……ユティ姉みたいな感じ?」


「そうそう……ん? ユーリル! まさかユティさんを!」


「お、思ってない、思ってない……そんなことしたらジュトさんに殺される」


 ジュト兄は優しいけどユティさんにべた惚れだから、そんなことになったらたぶん本当にるな。


「いのちだいじに」


「だからしないって!」


 私もだけど、ユーリルのお嫁さんの事も考えないといけないのかも……

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