第128話 ルーミンはお留守番してますね
〇4月10日(水)地球
「先輩方が特別に見えます」
道着姿の凪ちゃんが、青い瞳をキラキラさせている。
「制服のせいだよ」
高校も去年までは学生服だったんだけど、今年からブレザーになったんだ。
一緒の高校に入学することができた僕、竹下、風花の三人は、入学式の翌日の放課後、中学の武道場にやってきた。みんな高校の部活には入らず、週に一度、武研の活動に参加することにしたのだ。由紀ちゃんや遠野教授が動いてくれて、学校の許可がもらえたからね。
「し、失礼します」
開けっ放しの入り口から見覚えのない子が……早速2年生が対応してるけど、真新しい制服にまだ幼さの残った顔立ち、新入生かな。
「今日は数人見学者が来るようです」
おぉー、見学者。今年も部長の海渡が説明してくれた。
風花がいなくなっているから心配していたけど、武研に興味を持ってくれる子たちがいるんだ。
「んじゃ、ちゃんとしたところを見せようぜ」
道着に着替えた後、いつものように掃除をやってから、ストレッチ、そして基礎練習を始める。
「お、やってるな」
いつもよりちょっと遅めに由紀ちゃんが登場。中学も新入生が来たばかりで忙しいのだろう。
「私は顧問の西村だ。見学者はこっちへ、部員はそのまま続けてくれ」
3人の見学者が由紀ちゃんの元に集まった。そうか、由紀ちゃんの苗字が変わったんだ。普段名前でしか呼ばないから、なんだか新鮮。
「ほら、みんな真剣な表情をしているぜ。入ってくれねえかな」
隣で腹筋中の竹下が呟くと、風花がうんと頷いた。
卒業して僕たち3人が抜けているから、3人入ってちょうどいい……
「はい、そこまで。それでは、各々《おのおの》見る練習を始めてください」
陸に指示に従い、僕、竹下、風花の三人で向き合う。
見る練習の基本はペア。でも僕たちはその先の段階に進んでいるので、三人とか四人でやることが多くなっているんだ。
手を伸ばしたらお互いが触れる位置。一瞬でも気を抜いたらすぐに掴まれてしまうだろう。どっちにも逃げられるように、力を抜いて……
ん? 何か視線が……あ、新入生か。由紀ちゃんが僕たちと見とくように言ったのかな。
「え?」
次の瞬間、風花の方に引っ張られ……
「痛っ!」
「痛た!」
竹下と頭をぶつけてしまった。
「二人とも、気が逸れてたよ」
竹下も新入生の視線が気になってたみたい。
「痛てて……風花、手を抜いてくれねえと、俺たち何もできないって」
そうなのだ。僕たちと対戦するときの風花はいつでも本気モード。当然僕たちが太刀打ちできるわけもない。
「盗賊が手を抜いてくれるとは限らないよ」
それは分かっているけど、せっかく新入生が見ているのに……
「よし、これからデモンストレーションをやる。すまんが風花、付き合ってくれ」
武研での活動を終えた僕たちは、風花の家の近くにある公園に集まった。ここなら凪ちゃんの家も近いし、少し話が長くなっても門限には楽勝で間に合うはず。
「すごかったです! 私もいつか同じことができるようになるのでしょうか?」
今日の風花と由紀ちゃんとの立ち合いは、なかなか見ものだったからね。
デモンストレーションと聞いて風花が手を抜いていたというのもあるんだけど、一進一退の攻防で新入生の子たちも前のめりになって見ていたよ。
「凪ちゃんもジャバトの記憶を持ったらすぐだよ」
ジャバトは、気になる存在のルーミンがどんどんうまくなっているのに追いつこうと、必死で技の習得に励んでいる。今では盗賊の攻撃を躱すことくらい、問題なくできるはずだ。
「あっちの私の記憶……あのー、ゴールデンウィーク、旅行に行けそうにはありませんが、もしかしたら由紀お姉ちゃんの家に泊まることになるかもしれないです」
「由紀ちゃんの……」
位置的には竹下の家よりも僕の家に近い。いけそう!
「そうなると、今度の旅にジャバトを連れて行かなくちゃいけないね」
ゴールデンウィークに合わせて出発するタルブク行き、僕(ソル)とリュザール以外に護衛として隊商の人が付き合ってくれることになっているけど、その他のメンバーはまだ決まっていない。
「あんさ、今度の旅ってシュルトまで行くじゃん」
竹下の問いにうんと頷く。もう少ししたら、タルブクからの隊商が工房で修行する人たちをカインに連れて来るはず。その隊商が帰る時に、そう書いたエキム宛の手紙を託すつもりだ。
「よかったら俺も連れて行ってくれねえか。そして、ついでに北を回ってコルカの方まで行こうぜ」
「コルカまで?」
「ああ、俺がいたところがどうなってるか気になるし、ついでにパルフィのおやじさんと決着付けてくるわ」
おぉー! ……って、
「風花、いけそう?」
ユーリルがおやじさんに負けちゃったら、パルフィがコルカに帰っちゃう。
「大丈夫、みんな強くなっているよ」
よし、お墨付きも出た。
「それではルーミンはお留守番してますね」
「いいの?」
「はい、誰かが残っていないとカインのことがわかりません」
それもそうだ。
「その代わり、海に行くときは何があってもついていきますよ」
もちろん、みんなで行こう。