第126話 すごい! こうやって皆さんで相談なさっているのですね
〇(地球の暦では3/20)テラ
ちゅん、ちゅん……
鳥のさえずりが聞こえる。
うーんと、ひと伸びして起き上がる。隣のルーミンも、もそもそと動き出した。
「おはよう」
「ふわぁ……ソルさん、おはようございます」
ちょっと早めだったので、まだ寝ているコペルとパルフィを残して二人で井戸へと向かう。
「ルーミン、15歳になったね」
「ソルさんだって16歳ですよ」
暦の無いこっちの世界では、ハッキリと生まれた日がわからないことがある。だから、昼と夜が同じ長さ、ちょうど春になる境目の日つまり春分の日に生きている人はみんな一つ年を取ることになっている。ちなみに春分の日と秋分の日を村人に教えるのは村長の大事な仕事。農作業や放牧の予定を立てるのに必要だからね。
「にゃう!」
「おはようー」
「おはようございます。あ、手伝います」
井戸端で桶の準備をしていると、ユーリルとジャバトがカァルと一緒にやってきた。
「おめでとう。今日から14歳だよ」
井戸に釣瓶を投げ込むジャバトに声を掛ける。
「えへへ」
ふふ、ジャバト照れてる。
「カァルは1歳かな?」
「にゃ!」
ハッキリと生まれた時期は分からないけど、たぶんそれくらいだと思う。最近では大きくなっちゃって抱えるのが大変なんだ。
「ニヤついているところすみませんが、ユーリルさんは16歳ですから、ようやく結婚できますよ。で、コルカにはいつ行かれますか?」
ルーミン……
「な、夏までにはなんとか……」
えーと、パルフィがカインにやって来たのが6月の末頃だから……
「一年間の期限ギリギリじゃん。暦がわからないんだから、暑くなる前に行かないとおやじさん認めてくれないかもよ」
「マジか」
あのおやじさん、かなり気が短そうだからね。早めに動いておいた方が間違いないと思う。
「ソルさん、その暦というのは、僕があちらの女の子と繋がったらわかるようになるのですか?」
「そうだよ」
ジャバトに凪ちゃんと繋がる可能性があるというのは、つい先日伝えることができた。海渡と凪ちゃんの仲が進んで、やっとこちらのことを話せたんだ。
「僕も早く皆さんの話についていきたいです」
「ちょっと待ってて、あっちでもこっちでも準備が必要なんだ」
ジャバトが楽しみにしているのは分かるし、凪ちゃんもこっちと繋がりたいと言ってたからすぐにでも繋げてあげたい。ただ、凪ちゃんの家では外泊の許可がなかなか下りないらしくて、実行に移せないんだよな。可愛くてあの容姿だから仕方がないのかもしれないけど、どうしたらいいんだろう。
朝食をすませた後、ルーミンと一緒に鍛冶工房の横へと向かう。そこでは、ジャバトと一緒にユーリルが荷馬車にレンガを積み込んでいた。
「寮は間に合いそう?」
一週間ほど前、セムトおじさんの率いるカインの隊商はコルカに向けて旅立った。もちろんリュザールも一緒で、帰りには工房で働いてくれることになる避難民の子供たちを数人連れて来るはずだ。
「あと10日くらいだろ。たぶんいけそうだぜ」
よし、予定通りって風花に伝えなきゃ。
「よかったですぅ。これで村の人の抜けた穴が埋まります」
暖かくなってきて、工房を手伝ってくれていた村の人たちが自分の仕事に戻っちゃったんだよね。
「でもよ、これからどんどん人が増えるとなると、この先工房が狭くなるんじゃねえのか?」
「僕、村の皆さんから今度の冬もよろしくなって言われましたよ」
寒い時期に仕事があって助かったってみんな喜んでいたから、場所が無いからごめんなさいって言いにくい。
「工房を拡張する?」
工房はレンガ造りだから、増築するのは難しくはないはず。
「いや、部屋を広くすると崩れやすくなるからやめといた方がいい。だから、やるとしたら別棟で建てるしかねえな」
さすがだ。図書館で建築の勉強をしてきただけのことはある。
「それならですよ。今ある工房は糸を紡いだり織物をしたりする専用の工房にして、新しく木工用の工房を作ったらどうですか?」
「糸車とか機織り機とか荷馬車とかの製造はそっちでやるのか?」
「はい。今は糸車を作りながら子供たちの面倒を見ていますが、ノコギリやノミ、それに木くずなんかがあるので目が離せないんですよ。いっそのこと織物と分けていただいた方が助かります」
確かに、織物だったらそんなに危険なものはない。針はまだあまり使わないから、ハサミくらいかな。
職人さんが増えてきたらたぶん子供たちも増えてくるから、用心のためにそうした方がいいかも。
「なるほどな。寮が終わったらアラルクたちと相談してみるわ」
〇3月23日(土)地球
「寮母さんを引き受けてくれる人が見つかったよ」
受験が終わってから再開した朝の散歩。いつもの場所に集まった僕たちに対して、風花が今回の一番の関心事を報告してくれた。
「マジか。ギリギリだったな」
カインの隊商は、数人の子供たちを連れて昨日コルカを出発したはずだ。もし見つからなかったら、寮生のご飯をソルたちが作らないといけないところだった。
「避難民の中に候補の人は何人かいたんだけどさ、たくさんの子供たちの母親代わりとなると難しくて……」
料理や掃除ができたらいいというわけじゃないもんね。工房に来るのはみんな親を亡くした子供たちばかりだから、そういうフォローができる人の方がいいと話していたんだ。
「リュザール……いやセムトさんが選んだのか?」
「ううん、ボクもセムトさんも子育てのことに関してはよくわからないから、コルカの町長の奥さんに聞いてみたんだ。そしたらすぐに推薦してくれたんだ」
なるほど、町長さんたちは避難民の世話をしていると言ってた。その時に人となりを見ていたのかもしれない。
「すごい! こうやって皆さんで相談なさっているのですね」
声のする方を見ると、海渡の隣を歩く明るい茶色の髪の女の子が青い瞳を輝かせていた。