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第123話 海渡、自分で確認してこい

〇1月7日(日)地球



 朝ごはんをすませた後、武研へとやってきた僕たちはいつものように武道場の掃除を始める。


「年末に大掃除してっから、たいして汚れてねえな」


「そりゃそうだよ。誰も武道場に入ってないもん」


 先生の働き方改革ってやつで、昨日まで部活動休止期間だったんだよね。今日からいくつかの部活が再開しているみたいだけど、実は武研自体は新学期始まるまでお休み。でも僕たちは、一日でも早く風花の術を会得しないといけないので集まったというわけ。


「あのー、先輩たちが来られるのは週に一度なんですよね。これも一回になるのでしょうか?」


「大丈夫じゃねえか。まだ学校始まってないからノーカウントだろう」


 始業式が始まったら僕たち三年生は、受験が終わるまで週に一度しか武研に来ることができない。そこで四人で話し合って毎週水曜日にしようと決めたんだ。同じ日にしとかないと意味がないからね。


 それにしても、


「竹下、今日は調子よさそうだね」


 昨日はこの世の終わりのような顔をしていたのに、掃除している姿も声色も今日はとても晴れやか。


「ああ、なんかさ、あっちでぐっすりと眠れた気がするんだ。それでじゃねえかな」


 ふふ、よかった。


「それで竹下先輩、タオルいかがでしたか。お使いになったのでしょう?」


「へ? タオル? 何の?」


 風花を見る。昨日出来上がったばかりのワッフル織りのタオルは、病気のユーリルのために使ってもらおうとリュザールに渡していたんだけど……


「ユーリルが寝汗をかいていたから、それで拭いてあげたよ。全身」


「マジか。それで気持ちよく眠れたんだ」


「風花、使い心地はどうだった?」


「吸水性もだけど、硬く絞ったらぐちゃぐちゃにならないのがいいね。みんな欲しがっていたよ」


 おぉー、男の人にも好評価だ。


「なあ、風花……みんなってみんなか?」


「そう、みんなでユーリルを拭いてあげたんだ。あそこの裏もね。蒸れて痒くなったら大変だから」


 あそこ?


「ちょっ、マジで恥ずかしいんだけど」


「反応しなかったから、安心して」


 反応……ああ、あそこか。清潔にしとかないと菌が繁殖するから仕方がない。


「……俺、もう病気にならねえ」


 ほんと、その方がよさそうだ。


「それでね、竹下。タオルを作るのにミシンがあった方が助かるんだけど、作る事ってできるかな?」


「ミシン。確か店の倉庫に古い足踏み式のやつがあったような……」


 お! さすがは老舗呉服店。


「パルフィにはもう話したのか? 部品を作ってもらわないといけないだろう」


「うん、すぐには無理だけど、時間をくれたら構わねえぜって」


「そっか……必要なのはいつだ?」


「綿花を収穫してからだから、秋以降だね」


「りょ! まずは作れそうかどうか調べてみるわ」


 よし、これでミシンの方は何とかなりそう。


「ところで、海渡、今日は由紀ちゃんは? 連絡したんでしょ」


「はい、今日は当番で学校にはおられるようなので、顔を出されるのではないでしょうか」


「OK、それじゃ、そろそろ始めようか」








 風花が見ている前で僕、竹下、海渡の三人が向き合う。

 見る練習なんだけど、僕たちの技術が上がったのでやり方も変わってきている。


 竹下の腕がピクリと……来る!

 よし!

 掴まれたら負けなので、動きを予想して避けないとね。


 次、海渡がこっちを狙っている。最小限の動きでそれを躱す。


「ほら、反撃」


 これまでは逃げるだけだったけど、防御側も攻撃に転じることができるというか攻撃しないと風花から怒られてしまう。

 体勢の整わない海渡を……あとちょい。


 ちょうどその時、武道場のドアが開いた。


「お、やってるな」


 由紀ちゃんだ。


「失礼します……」


 え!? 続いて入ってきたのは、青い瞳に茶色っぽい髪の色をした白い肌の女の子。今、確か日本語を……でも見た目は外国人そのもの。

 そういえば、この子の容姿は……

 慌てて海渡を見る。口をパクパクと……もしかして、去年の夏に海渡が言っていた子なのかな。


「おはよう、みんな。すまんがこいつに部活見学をさせてやってくれ。武道に興味があるらしい」


 由紀ちゃんと外国人の女の子の前に並ぶ。


「初めまして、藤本凪です」


 流ちょうな日本語だ。それに名前も日本人っぽい。


「凪は私のいとこで今度この学校に転校していることになったんだ。それはまあいいとして……これまで武道の武の字も知らなかったはずなのに、なぜか急に興味を持ってな……」


「それは、お姉ちゃんがこれまでちゃんと教えてくれなかったからじゃないかな」


「武道好きの女とか親戚の中でも浮いてるのに言えるか」


 ははは……


「あ、あのー、藤本さんは日本人ですか?」


「日本人だよ。でもね、おばあちゃんがドイツ人なの」


「凪はこんななりだが、日本で生まれ育って中身も日本人そのものだ。そう気を使わなくてもいいぞ」


「先輩方、よろしくお願いします」


 おぉー、礼儀正しい。


「そういうわけで、すまないが飽きるまで付き合ってやってくれないか」






 急遽、武研帰りに竹下の家に寄ることになった。もちろん凪ちゃんのことを話すため。


「風花は凪ちゃんはジャバトだって言ったよね」


「うん、たぶん間違いないと思う」


 あの後、予備の道着に着替えた凪ちゃんに、由紀ちゃんと風花が付きっきりで武道のお試し指導を行った。その時に、風花が凪ちゃんの首元に近づいて匂いを嗅いだみたい。


「どうやって伝える?」


「テラのことだろう。いきなり話しても変な奴だと思われるだけだぜ」


 だよね。風花は幼馴染だったし、暁はあっちからぐいぐい来たから話しやすかったけど、凪ちゃんはそんな感じはしないんだよな。

 親しくなるしかないか……


「海渡、凪ちゃんと仲良くなってきて」


「え! 僕がですか?」


「だって、僕たちは武研に行けないじゃん」


 週に一度しか会えない上級生より、放課後毎日顔を合わせる一個上の先輩の方が親しみやすいだろう。


「い、いやでも……あんな可愛い子が僕なんかに興味を持ってくれるでしょうか?」


「心配いらないんじゃないかな。武研に来た時に話しかけていたら、きっと大丈夫だよ」


 凪ちゃんがジャバトだとしたら、テラでルーミンに好意を寄せているんだから他の誰よりも海渡のことが気になると思う。


「も、もしですよ、すでに恋人さんがおられたら……」


 あー……


「その辺も含めて、海渡、自分で確認してこい」


「そうそう、そして凪ちゃんがフリーだったら、他の人に取られないうちに海渡くんのものにしちゃいなよ」


「僕だけで? 皆さんご協力を……」


 うーん、手伝ってもいいけど……


「まずは、海渡だけでやってみたら、どうしてもの時は助けるからさ」

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