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第122話 ほつれないように始末する

〇(地球の暦では1月7日)テラ



「ユーリルの様子は?」


 工房にやってきたリュザールに尋ねる。

 朝からまだ熱が引いてないということだったので、パン粥(温めた羊のお乳にパンを浸したもの)を持って行ってもらっている。


「全部食べて、ぐっすり寝てるよ。顔色が少し良くなっていたから、昨日よりも楽になっているみたい」


 昨日の息抜きが効いたかな。


「それで、今日はボクがユーリルの代わりをやるから……えーと」


 建物の基礎はすんだから……


「パルフィのところに行ってくれるかな。釜を置くための耐熱煉瓦を作るって言ってたんだ」


 リュザールはOKと言って鍛冶工房の方へと向かって行った。


 さてと私たちは……


「ソル?」


 コペルが、たった今リュザールが出ていったドアから覗きこんできた。


「どうしたの?」


「機織り機はもう大丈夫。そろそろ頼まれていたものを作る」


 お、いよいよだ。

 ルーミンと二人で隣の織物部屋へと向かう。




 工房には作業用の部屋が二つ作られている。一つは糸車を組み立てるためのスペースで、普段私たちが使っているところ。もう一つは寮ができるまでの間、臨時の宿舎として使っているけど将来は織物部屋として使う予定の場所だ。


 その壁側の、新しく置かれた機織り機の前にコペルが座っている。


「横糸二本は途中で、三本目だけ打ち込む?」


「はい、元の横糸と一本目の横糸の間隔の分だけ縦糸が飛び出してくるはずです」


「こう?」


 コペルはルーミンが教えた通りの手順でおさ(横糸を縦糸に打ち込むときに使う道具)を動かし、三回目だけをがしゃんと音を立てて押し込んだ。


「おぉー!」


 縦糸がぴょこんと飛び出たよ。


「これでいい?」


 ルーミンと二人でブンブンと首を縦に振る。

 このぴょこんをずっと作っていったら、ふわふわのタオルになるに違いない。


「とりあえず作る。でも、これかなり大変」


 そ、そうなんだ。

 コペルは、ぴょこんと飛び出たパイルを作るには毎回横糸の位置を調整する必要があって、機織り機を使ったとしても誰でもが作れるわけではないと言った。パイル織りは量産には向かないのかな……もう少し見てみないと判断がつかない。もしコペルの言う通りなら、行商の商材にするというリュザールとの約束が守れなくなってしまう。


 コペルが再び機織り機を動かす。

 足元のペダルを踏むと縦糸が上下に開き、横糸をその間に通す。それをおさで元の横糸から数ミリほど手前まで一直線に整え、縦糸の上下を入れ替える。その後再び横糸を通して今度は一本目の横糸のすぐ近くまで筬で持ってきてから縦糸の上下を入れ替え、再度横糸をその間に通して三本まとめて筬で縦糸に打ち込む。すると、さっきと同じようにぴょこんとパイルが飛び出た状態で生地が出来上がった。


 それから同じ作業を何回か繰り返してもらったところで、コペルに織るのを止めてもらった。

 これはダメだ。パイル織りでは時間がかかりすぎる。


「ごめんね。次はこれを試してくれるかな」


 真新しい紙に書き上げたワッフル織りの組織図をコペルに見せる。


「黒く塗っているところは縦糸が手前なんだ」


「白は横が手前……」


「わかる?」


 コペルはうんと頷き、機織り機の調整を始めた。


「よし。やる」


 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン


 織物部屋に小気味いい音が響く。


「そ、ソルさん。すごいです! ほんとにワッフルの形が出来上がりました」


 機織り機の筬の手前には、地球で見たワッフル織りのタオルと同じ模様が出来上がりつつある。


「ワッフル……意味が分からない」


 おっと、いけない。

 コペルに地球にはワッフルというお菓子があることを教える。


「こんな形……それ、おいしい?」


 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン


「はい。甘くてとても! 考えただけでもよだれが出てきちゃいそうです」


 私も口元が……こちらで甘いものと言ったら果物くらい。収穫の時期にしか食べることができないから、つい体が求めてしまうんだね。


「早く、私に食べさせる」


 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン


 話しながらでもコペルの手は止まらない。


「型はパルフィに頼んだら作ってもらえそうだけど、砂糖がないからしばらくは無理だよね。ルーミン」


「はい。砂糖の代わりにハチミツがあったらいいのですが、こちらも高級品なのでなかなか手に入りません」


「ハチミツ……長いこと食べてない」


 コペルは食べたことあるんだ。こちらの世界では養蜂をやっている人がいないみたいだから、ハチミツは自分たちで蜂の巣を見つけ出して蜂に刺されないように気を付けながら採るしかない。


「地球の他のおいしいものを話す」


 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン

 シュ、トントン、カシャーン


「そうですね……これからいくつか話しますので、コペルさん、どれが食べたいか教えてください」


 ルーミンはケーキやらクッキーやらお饅頭やらせんべいやらをコペルに話した。


「魚のやつ」


 魚の……たい焼きか。これも型がいるな、それに……


「ルーミン、あんこはどうしよう」


「リュザールさんに小豆あずきを見つけ出してもらわないといけないですね。それと、ソルさんあんこを作ったことありますか? 私はお赤飯しかないです」


「私もない」


 あんこを炊くのって、確か面倒くさくなかったかな。


「できた」


 お!

 ルーミンと一緒に機織り機の手前を覗き込む。


 そこには、1センチほどのワッフル模様がたくさん並んだ、1メートル弱の生地がぶら下がっていた。


「すごい、話しながらできちゃった」


「ほつれないように始末する」


 コペルは、出来上がったばかりのワッフル織りのタオルを機織り機から切り出し、端っこを折り返して針と糸で縫い始める。


「こ、これは……ソルさん、大変です。ここから手作業になりました……そうだ、ミシンを作りましょう」


「そうだね。ユーリル……いや、竹下に相談してみよう」


 せっかく機織り機でタオルがあっという間にできたのに、始末するのが手縫いじゃたくさん作れなくなっちゃうよ。

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