第121話 というか、女神じゃないってば
隣のレーンの年配のご夫婦が帰ったあと、もう1ゲームボウリングを楽しんで僕たちは帰路についた。
「わはは、散々だったな」
よかった、竹下が笑っている。気晴らしになったみたい。
「うん、思ったようにいかなかったね」
「途中で訳が分からなくなりましたが、たのしかったですぅ」
そうそう、ボールを変えたりフォームを変えたりして大忙しだったよ。
「ボクは最後の方いい感じにいってた気がする。多分次はすごい点数になるよ」
風花は今日初めてだったのに、2ゲーム目は4人の中で一番いいスコアを叩きだした。変な癖がついてない分あのご夫妻の話を上手く消化できたのかもしれない。
「なあ、みんな、ちょっと聞いてくれるか。俺さ、あっちと繋がって自分の役目は何だって真剣に考えたことがあってさ」
歩きながら竹下の話に耳を傾ける。
「人付き合いがうまい方でもないし、料理もできねえ。やれることと言ったら、こっちのものをあっちで再現するくらいだろ」
それがものすごいことなんだけど……
「ユーリルさんがいろいろ作ってくださるので、あちらでの暮らしが楽になってきましたよ」
「ありがとな。それで、俺は物を作ることでしかあっちの世界に貢献できねえなと思ってやってきたんだが……無理してたんかな」
ユーリルはオーバーワーク気味だったから何度か注意したんだけど、大丈夫だと言って聞かなかったんだよね。自分で自分のことって意外とわからないのかも。
「竹下くんの言うことわかるよ。ボクなんて、何を作るわけでもなくただ商売しているだけ。これって意味があるのかって思うことがあるもん」
風花まで……
「何言ってるんですか。リュザールさんがおられないと僕の作りたい料理ができなくなってしまいます」
「そうだった。ルーミンちゃんに香辛料を頼まれていたんだ」
「ですです。いつかはカレーを作ろうと思っていますので、しっかり探し出してください」
こちらの料理に必要な物が、あちらには全くと言っていいほどない状態だ。地球の知識を持ったリュザールがいないと見つけることも難しいと思う。
「へぇー、あっちでカレーが食えるようになんのか。もっと頑張れそうだな」
「張り切りすぎるのだけは勘弁してください。こちらの仕事が増えてしまいます」
「わかってるって。もう懲りた。ぼちぼちやることにするわ」
みんなそれぞれが繋がって、いいように影響を及ぼしていって……あ、あれ?
「僕の存在意義……」
僕こそ竹下がいないと糸車や荷馬車を作れないし、料理だって海渡から教えてもらった。もちろん行商だってできない。居てもいなくて……
「はぁ、まったく……竹下先輩、このにぶちんに言ってやってください」
にぶちん……
「あんな、樹。俺たちは自分のことで手一杯。目の前のことしかわからねえ。でもお前はいつでも俺たちのことを見守ってくれてて、うまいこと導いてくれる。子供のころから俺たちがそれにどれだけ助けられてきたことか……改めて礼を言うぜ」
竹下と海渡が頭を下げた。
「い、いや……」
そうだったんだ……
そんなこと意識したことないから、面と向かって言われると照れてしまう。
「それにね。樹があちらのボクと繋げてくれたおかげで今のリュザールはあるんだよ。あのままだったら気が狂っていたかもしれない」
盗賊の討伐に参加していた頃のリュザールは、目が虚ろで今にも壊れてしまいそうだった。何とかしてあげたいと思っていたら、こっちで風花が現れたんだよね。
「僕……じゃなくてルーミンが死なずに済んだのも、夢にソルさんが出てきて励ましてくれたからです。樹先輩は僕の女神様なんですよ」
海渡が僕の左腕に抱きついてきた。
「樹が女神様というのは同意」
風花が右腕に……
「それは僕ではなくてソルの方で……というか、女神じゃないってば」
二人はニコニコして何も言ってくれない。
「ま、とにかく、樹とソルは俺たちにとって無くてはならない存在だからな。これまで通り堂々と……は違うか。俺たちと仲良くしてくれたらいいんだって。お、ちょうど青、電停に渡ろうぜ」
横断歩道を渡り、その後すぐにやってきた電車に乗り込む。
「えーと、この後どうする?」
もし、僕の家に集まるのなら話題を変えてもらおう。
「俺は帰るわ。こっちでもゆっくりしてた方がいいだろう」
「うん、わかった」
病は気からというけど、こっちで落ち着いていたらきっとあっちにいい影響が出るはず。子供の頃に僕が病気になった時がそうだったもん。
「そういうことでしたら、僕たちだけで遊ぶと竹下先輩が気になってしまいますね。僕も帰ることにします」
「了解。ボクも帰るよ」
「気い使わせてすまねえな。それとしばらくの間あっちも頼むわ」
「もちろん!」
こういう時はお互い様。みんなでフォローしていこう。




