第118話 一緒の星、一緒の時代なのに存在は別々……※
〇(地球の暦では12月26日)テラ
「パルフィ。昨日、地球のパルフィが見つかったよ」
朝、顔を洗ってすっきりした表情のパルフィに声を掛ける。
昨日の夜、竹下から連絡があったのだ。穂乃花さんはパルフィで間違いないと……ただ、どうやって匂いを嗅いだのかは、まだわからない。
「お、マジか。どんな奴だ?」
「名前は穂乃花さんといって、さっぱりとした性格の女の人。まさにパルフィって感じかな」
「なんだそりゃ。で、そいつもあたいと繋がるのを了解したんだろうな」
うんと頷く。
「へへ、それじゃ、今晩早速繋がるってわけだ」
「うーん、試してみてもいいけど、たぶん、繋がるのは5日後だと思うよ」
これまでの経験からすると、片方で手を繋いで寝た日に別の世界でもできるだけ近くにいた方がいいみたい。樹の家と風花の家、同じ町にあると言っても直線距離で1キロくらいあるから離れすぎなんじゃないかな。
「5日後は何があるんだ?」
「あっちで穂乃花さん家族と一緒に旅行に行くんだ」
〇1月1日(月)地球
朝だ。鳥のさえずりが聞こえる。
「うーん、もう食べれない……」
ふふ、兄ちゃん寝ぼけてる。
えっと、時間は……もう開いてる。
家族を起こさないように静かに身支度を整える。
お正月を一緒に過ごすため、僕の家と風花の家は隣の県の温泉までやってきた。
昨日の夜はテラでパルフィと手を繋いで寝たし、穂乃花さんは隣の部屋で風花たちと一緒だ。
これで、繋がるための条件はクリアしてるはず。
穂乃花さんのことは気になるけど……
タオルを抱え、そっと廊下に出る。
ん? 隣の部屋から物音が……
「樹も……」
風花の声だ。
そのまま待っているとドアが開き、同じくタオルを持った風花と穂乃花さんが出てきた。
「あ、樹。今からお風呂?」
うんと頷くと、風花が穂乃花さんに『ね』と呟く。
はは、行動がバレてる。
「えっと、どうだった?」
「おう」
Vサイン。繋がったってことかな。
「それでよ、ちょっと話がしてえから付き合ってもらえるか」
三人で大浴場近くの休憩所まで向かう。今の時間なら、誰もいないだろう。
休憩所は地階の大浴場に下りる階段の上のところにあって、そこに細長いベッドのような台がいくつか並んでいる。
階段から離れたところに、僕と風花は穂乃花さんと向かい合わせで座る。
「で、だ。お前がソルでこっちがリュザールというわけだな」
赤い色のクッションを抱えた穂乃花さんは、僕そして風花の順で指さした。
「僕と風花はそうだけど、穂乃花さんはパルフィで間違いない?」
「おうよ。正真正銘あたいだぜ」
やっぱりそうだった。
「それでよ、剛とユーリルは一緒だろ。他には誰がいるんだ」
海渡とルーミン、それに暁とエキムが繋がる可能性があることを告げる。
「なるほどな。他にも増える可能性があるというこった。あと、お前たちはあっちのことをテラと読んでるだろう。テラと言ったら地球の別の呼び方だ。それは何か意味があるのか?」
地球とテラが同じ地形の可能性が高いことを話す。
「同じ……時間軸は?」
星の動きのことも伝える。
「一緒の星、一緒の時代なのに存在は別々……」
ブツブツと呟く穂乃花さんを邪魔しないように風花と二人でじっと見守る。
「平行……いや、並行世界ということか……一度枝分かれしちまって、二度と交わることがねえはずなのに、あたいたちは繋がっちまった。本来なら同時に時間が進むはずなのに、それが交互にやってくる。おかげであたいたちは混乱せずにすんでいるんだが……樹、おめえがやってんのか?」
慌てて首を振る。
「まさか、生まれた時からこうだもん」
穂乃花さんからジッと見られる。
「まあ、いい。それでよう、せっかくこっちの知識が使えるんだから、早速あっちに風呂作るか」
お、お風呂!
「お姉ちゃん、お風呂作れるの? ユーリルは春は厳しくてたぶん夏頃だろうって」
そうそう、早く作ってもらいたいのに、なかなか進まないんだ。
「あたいがそう言ったからな」
「どうして?」
「そりゃあ、風呂に対する優先度が低かったからだ。こっちと繋がってわかった。風呂をおろそかにしちゃいけねえ。特に妊婦はキレイにしとかなきゃな。カインにも何人かいるだろう」
「うん、春に出産予定の人が一人、それとユティ姉も夏前の予定だよ」
ジュト兄とユティ姉の初めての子供。無事生まれてきたら、ソルは早くもおばさんだ。
「な、早く準備しねえと助かる命も助からねえかもしれねえ」
テラはお世辞にも清潔とは言えない。生まれてきた赤ちゃんが長く生きられないことがあるのも、そういうことが原因の一つだというのはわかっている。お風呂ができたら感染症とかの予防ができるはずだ。
「で、だ。風花、早速風呂のことを調べてえから、付き合ってくれ」
そう言って、穂乃花さんは風花を連れて大浴場の方へ下りて行った。
僕も……おっと、いけない。
スマホを操作して、竹下と海渡に穂乃花さんとパルフィが繋がったことを知らせる。
これでよし。さてと、お風呂に入ってこよう。
ここのお湯は日本三大美肌の湯と言われるだけあって、ヌルヌルしてて気持ちがいいんだ。
あとがきです。
「ねえ、穂乃花さん、さっき平行を並行って言いなおしていたでしょう。聞いてた時は同じ言葉なのになぜって思ってたけど、漢字が違ってたんだね」
「樹、よく聞いてくれた。平行世界はあたいたちがいる世界とよく似た世界のことだ。そこには地球とよく似た星があって、自分と似た人物もいると言われることもあるが、あたいはそんなものは眉唾だと考えている。今あたいたちがいる世界は過去の様々な事象や人々の選択の結果だ。平行世界にいくら同じ物質で組成された星があったとしても、同じように生命が誕生し、人類が生まれ、ましてや同じ人間ができるなんてことはどれだけの確率になるか想像もつかねえ」
「へ、並行世界と言うのは?」
「並行世界は途中までは一つの世界だったのが、ある一点から別れちまった世界のことだな。たぶん、地球とテラは人類が生まれるまでは一緒でそれから何らかの理由で分離したんだと思う」
「何らかの?」
「樹はシュレーディンガーの猫って知ってっか?」
「何とかの猫って言葉だけは聞いたことがあります」
「詳しくは長くなるから言わねえが、二つの別々の状態が同時に存在している状態があって……」
「?」
「通常観測者は一つの事象しか見ることができない……」
「???」
「お、お姉ちゃん、樹の頭から湯気が出そう」
「はは、すまねえ。まあ、違う結果になった状態をそれぞれ誰かが観測しちまって、そしたらもうそれで確定しちまうから、結果として地球がある世界とテラがある世界に別れちまったということだろうな」
「その観測をしたのは誰ですか?」
「さあ、どこかの星の知的生命体か、もしくは神と呼ばれる存在じゃねえのか」
「宇宙人? それに神様ですか?」
「まあ、調べようは無いさ。おっと、いけねえ長々と喋っちまったぜ。次回の案内をするんだったな。樹、次は何日だ?」
「えーと、次回は1/28の予定です」
「ちゅうことだ。みんな楽しみに待ってってくれな」