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第115話 ちゃんとテラで生きていけんの?

〇11月4日(土)地球



「改めて確認だけど、お前たちは昨日の夜のうちにテラで一日を過ごしたということだよな」


「そういうことになるね」


 今日は東京見物の予定だったんだけど、暁がもっとテラのことを聞きたいと言うので、ゆっくりと話すために途中で切り上げて夏さんの家に帰って来たんだ。今回の東京行き自体が降って湧いたようなものだから、特別に行きたい場所とかもなかったからね。


「俺が寝ている間に別の世界で一日を……時間を二倍使えるってことか?」


 暁もなかなか察しがいい。


「でもね、暁くん。テラに持っていけるのは記憶だけなんだ」


「記憶=経験だろう。すげえじゃん。樹たちのことを初心者にしては筋がよかったっておやじが言ってたけど、テラでも修行してたんなら納得いくわ」


「はい、リュザールさんにしごかれています」


 竹下がうんうんと頷いている。ほんと、スパルタなんだよ。


「ならさ、おやじからの伝言を伝えても良さそうだな」


 伝言?


「大学は俺んところに来い。その方が面倒見やすいからって」


 遠野教授の大学って……


「「「東大!」」」


「そうそう、そこ。記憶が残っているのならテラでも勉強できるってことだよな。俺も目指しているからさ。一緒に頑張ろうぜ」


 東大は竹下ならいけそうだけど、僕たちもか……たくさん勉強をしなきゃ。


「それで、暁さんはどの学部を目指されているのですか」


 海渡がスマホを見ながら聞いている。東大のホームページを見てるっぽい。


「俺はおやじがいる教育学部」


 へぇ、遠野教授って教育学部なんだ。


「暁さんは先生を目指されているのですか?」


「一応な」


 先生か……


「僕はどうしようかな。せっかくなら料理に関係するようなところがいいのですが……」


「それなら農学部がいいんじゃねえのか。確か発酵とか研究してるんだろう」


 竹下もスマホを眺めている。


「なるほど。うまくいったらテラで醤油とか味噌を作れるようになるかもですね」


 醤油!


「え? ……もしかして、テラに醤油がないとか?」


「暁さん、覚悟してくださいね。テラの食事と言ったら、基本塩味、それもかなりの薄味です。砂糖のような高級品は存在しないと思ってください」


「Oh!」


 暁がハンバーガーとかドーナツとか言っているけど、そういったものは地球で食べたらいいんだから……


「樹はどこに行こうと思う?」


 竹下がそう言ってスマホの画面を見せてくれる。

 法学部、経済学部、文学部、教育学部が文系で、工学部、理学部、農学部、薬学部、医学部が理系か……


「まだ決められないよ。竹下は?」


「俺も……海渡の言う通りテラで役立つことを勉強したいけど、何がいいんだろうな」


 うーん、難しい。


「風花は?」


 僕と一緒に竹下のスマホを覗き込んでいる風花に尋ねる。


「ボクは経済学部かな? 行商に役立つかも」


 おー、確かにそれっぽい。


「そういえば、風花先輩のお姉さんはかなり頭が良かったのではありませんでしたか? 東大を目指しておられるような気がします」


「うん、お姉ちゃんは東大の理学部を目指しているよ。世界の真理を探求するんだって」


 世界の真理……


穂乃花ほのかさんは理学部なんだ……」


 竹下に有力な情報が与えられてしまった。


「何、風花にはお姉さんがいるの? 紹介して」


 そういえば、ここにも年上好きがいたんだ。


「お前! 穂乃花さんは俺んだぞ!」


 竹下、俺のってまだ会ったことすらないくせに……


「なんだ、もう、竹下と付き合ってんだ」


「い、いや、これからお付き合いする予定で……」


「これから……風花、お姉さんはフリー?」


「フリーのはずだけど、恋愛とかに興味はないと思うよ」


理系女子りけじょで、恋愛に疎い……先は険しそうだな。竹下、頑張れよ」


「お、おう」


 あれ?

 もしかして、暁には他に好きな人がいたりするのかな。年上好きっぽいのに、穂乃花さんの話題にあまり食いついてこない。


「それでさ、昨日は何かいいことあったんだろう。みんな朝から嬉しそうだったからさ」


 暁自身が話題を変えるということは、そういうことなのかな……

 それならということで、暁にカインでの出来事を伝える。


「へぇ、バーベキューでそんなに喜ぶんだ」


 昨日のバーベキュー大会は大盛況。余るかと思っていたお肉や麺も、みんなの胃袋の中に吸い込まれてしまった。


「元々娯楽がねえのもあるが、これまではそういうことをする余裕すらなかったからな」


「それじゃ、俺がテラと繋がっても、そういうイベントをすぐにはできないかもしれないってこと?」


「タルブクにそれだけの余裕があるかどうかだと思う」


 カインの工房にはちょっとだけど蓄えがあったから、思い立つことができたんだよね。


「来年からは俺の村でも糸車を作るようになるから、生活に余裕ができると考えていいのかな」


「はい、紡錘車ぼうすいしゃでの糸紡ぎは時間がかかって仕方がありませんでした。その点糸車なら何倍もの速度で糸を紡げますので、女の人に余裕が生まれます。余った時間で織物や畑仕事ができるはずです」


「なるほど、それで多少無理してでも糸車を欲しがるわけだ」


「うん、だからどこの町でも順番待ちになっているよ」


 大量生産ができたらいいんだけど、テラには人力しかないから少しずつしか作ることができないんだ。


「人気商品なんだ。あ、それで、テラの俺が住むタルブク村でも作ってほしいってことか……でも、独占しようとは思わなかったのか?」


「そんなことしたら争いになっちゃうよ」


「争い? あ、そうか。力任せに奪い取りに来る連中がいるんだ。武術を学んでいるのもそのためだったな」


 そういうこと。それに、自分たちだけが裕福になってもぜんぜん嬉しくないしね。


「ちゅうかさ、テラにはまだ国がないんだよな。お前たちよくそんな世界で生活できるな。想像がつかないぜ」


「お気持ちは分かります。僕も樹先輩からお話を聞いた時にはそんな世紀末漫画みたいな世界があるのかと思っていましたが、繋がってみてわかりました。そんなこと気にする余裕はありません。生きていくのに精一杯です」


 ルーミンの場合は餓死してもおかしくなかったから、特にそう思うだろう。


「……俺、繋がって、ちゃんとテラで生きていけんの?」


「心配しなくても大丈夫。暁が突然テラに行くわけじゃなくて、テラのエキムが暁の記憶を思い出すだけだから、普段と変わらないように生活するはずだぜ」


「なるほど、テラの俺は俺のままってことだな」


 僕は最初からソルと一緒だったから気にならなかったけど、途中から繋がるのはそういう感じなんだ。


「さてと、そろそろ失礼するよ。今日は夕食を家で食べるように厳命を受けてんだ。みんな明日帰るんだろう。送りに行けないけど大丈夫か?」


 そう言って暁は立ち上がる。


「平気平気、空港までは俺たちだけで行けるから、心配すんなって」


 心配されているのは竹下だけで……


「何?」


「何でもー」


 慌てて竹下から目をそらす。


「ゴールデンウイークにはそっちいくから、よろしく頼むな」


「うん、その頃ソルとエキムが会えるようにしておくよ」


 これはリュザールたちに任せよう。

次回本編の更新は1/16の予定です。また、ソルのファンアート頂きましたので、明日登場人物等設定紹介を投稿しそちらに挿絵として掲載いたします。


※新作投稿しております。1万字弱の短めの作品です。

『神の学び舎 ~思いの力が集まって神となった少年と少女。獣人の少年と心を通わせ育んだ友情は時空を越えて永遠となる~』

https://ncode.syosetu.com/n8460io/

ソルたちとも関係があるとかないとか……

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