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第114話 茹でちゃいましょ!

〇(地球の暦では11月4日)テラ



「今日の作業はこれで終わりにします。後はそれぞれの担当の場所に行って準備をしてください」


 工房のみんながワイワイ言いながら外に出ていく。


「さてと、俺も行こうかな。リュザール、羊は?」


「三頭買ってる。井戸の近くに繋いで、テムスが見てくれているよ」


「わかった。んじゃ、さばいてくるわ。リュザール、手が空いてたら頼む」


「OK」


 村全体での収穫祭ができなかった代わりに、今日は工房のみんなとバーベキューを楽しむことにしたんだ。それで、その準備をこれから始めるんだけど、こちらには肉屋さんというものがないから自分たちで羊を肉にしないといけない。遊牧民出身のユーリルはそれが得意だから、任せることにしたというわけ。


「人手は足りる?」


 工房を出ていく二人に声を掛ける。


「もう一人いてくれた方が助かるけど、みんな忙しいだろう」


「一回りして、余裕ができたところがあったら頼んでみるよ」


 よろしくといって二人は、ユキヒョウのカァルを連れて井戸の方に向かって行った。


 さてと、まずはアラルクのところかな。


「そこの木材はこっちに」


 工房の先から声が聞こえてくる。

 工房と鍛冶工房の間は広場になっていて普段は糸車や荷馬車の材料を置いているんだけど、今日はバーベキュー会場にするために片付けてもらっている。


「あ、ソル。とりあえず場所を空けるようにしたけど、その後は?」


 こちらではバーベキュー自体をやることが初めてだから、みんなが要領を得なくても仕方がない。


「こことここ、それにここにコンロを置くから、こっち側に絨毯を敷いてもらえるかな」


「わかった。そうする。終わったら?」


「女の人は台所に行って料理の手伝いを、男の人はコンロが来たら炭を起こして。そしてアラルクはユーリルのところに行ってあげて、羊が三頭きているんだって」


「三頭も! それは大変だ。みんなに伝えてすぐにいってみるよ」


 ここはこれでいいかな。次は……


「お、おい、外が騒がしいぜ。もう時間なんじゃねえのか?」


 お、パルフィの声だ。


「パルフィ、どう?」


 鍛冶工房の中を覗き込み、声を掛ける。


「そ、ソル。すまん。すぐ準備するから待っててくれ」


 はは、作業に熱中してわかんなかったんだ。


「まだ大丈夫だよ。今、広場が片付いたところ」


「そうか、よかったぁ。いや、よかねえ。コンロがねえと始まらねえんだ。お前たち、火の番を残して早く運ぶぞ」


 鍛冶工房の職人さんたちが、できたばかりのバーベキューコンロと特製の鍋を運び始める。

 これは、バーベキューの計画を立てた時にパルフィに頼んで作ってもらっていたもの。こちらで肉と言ったら羊なので、鍋はもちろんジンギスカン用。コンロもそれに合わせた丸形だ。


「あ、そうだ。これから火起こしするから、種火もお願いできるかな?」


「任せとけ!」


 ここもよさそう。次は……


「押さえておくから一気にいけ! 苦しめないようにな」


 井戸と反対の家の向こう側から声が聞こえる。

 覗き込むとアラルクが押さえている羊の首にテムスが小刀をあてて……ヒュ! っと。

 おー、テムスが羊を捌くんだ。確か初めてだよね。手さばきがなかなかいい。


「教えてあげたの?」


 腕を組んで監督中のユーリルに尋ねる。


「ちょっとだけ。一頭終わらせたところでやりたそうにしてたからな。あ、テムス、血が出てしまうまでそのままにしてろ」


 一人で捌けるようになったらテムスも一人前だ。


 お、足元にカァルが……


「男前になったね」


 カァルは口の周りをペロペロとしているけど、白い毛が赤く染まっている。


「にゃおん!」


 おこぼれを食べさせてもらったのかな。満足した様子だ。


「ソル、手が空いてたらこれ運んで」


 リュザールの横の桶には切り分けられた肉の塊が置いてある。


「内臓は?」


「さっきミサフィさんが持ってった」


 母さんが持って行ったのなら、ちゃんと処理してくれるだろう。


「人手は足りてる?」


「うん、あとはあれだけだからね」


 リュザールは一生懸命に羊を小刀で捌いてるテムスの方を見る。

 はは、これは一頭捌き終わるまで見守るしかないやつだ。


「ここが終わったら広場に集まって」


 テムスのことはお兄さん三人に任せて……


 表に回り井戸まで向かう。


「そうそう、裏まできれいに洗うんだよ」


 こちらでは母さんたちが、工房に来ている子供たちに羊の内臓の洗い方を教えている。

 うんうん、今度村で結婚式がある時にはこの子たちも戦力になりそうだ。


 そして……


 母さんに桶に入った肉の塊を預けて台所の中を覗いてみると、ルーミンが大きなまな板の上で平たいものを切っていた。


「できた?」


「はい、ソルさん。何とか間に合いました」


 ほらといってルーミンが見せてくれた平かごの中には、今日の締めに欠かせないものが乗っていた。


「とうとう、麺まで作っちゃったね」


「冬になるのを待っておうどんを作ろうと思っていたのですが、バーベキューをやるとなったらこれは外せません!」


 そうそう、肉の脂を使って残った肉と野菜と一緒に炒める。これがまた美味しいんだよね。


 あ、でも、


「これだけ?」


「はい、あえて少なめにしました。井戸でテムスくんが三頭の羊を見張ってましたので……」


 今日参加してくれるのは、工房と鍛冶工房の職人さんたちとタリュフ家の合計25人。羊一頭でだいたい10人分だから、三頭分で30人分。その他に野菜もたくさん用意しているから、麺まで手が伸びないかもしれない。

 まあ、残ったら残ったで明日のスープにでもいれよう。


「ルーミン、もう、茹でちゃう? やるよ」


「そうですね。こちらでバーベキュー自体初めてですから、麺は締めに食べると決めつけるのはよくないかもです。茹でちゃいましょ!」


 そうそう。地球の習慣に合わせることは無いからね。

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