第112話 ボクはもっと強くなりたい!
「君にしては珍しく簡単に倒されていたね」
服を着替えてこちらに戻ってきた遠野教授に、鈴木教授が声をかけている。
「珍しくどころか、初めてかもしれん」
は、初めて?
暁の方を見る。
うんと頷いた。それで、あの時終わりの声を掛けるのが遅れたんだ。
「でも、手を抜いていたのだろう」
「ああ、かといって、簡単にやられるとは思っていなかったんだが……うーん、やはりかなりの実践を積んでいるとしか思えんな」
リュザールはコルカでの盗賊の討伐の時に、常に命のやり取りをしていたはず。当然その時の記憶は、風花にもあるから……
風花も戻ってきた。
「お疲れ様。どうだった?」
「先生が手を抜いてくれたから何とか中に入り込めたけど、あれが無かったらやられてた」
やっぱり、ギリギリのところで戦っていたんだ。
「それで、鈴木。どうだ?」
「結論から言うと九幻流で間違いないね」
やっぱり……
「ただ、伝承では暗殺の術となっていたのだが、風花くんの技は守りを主体としているように感じた。遠野、どう思った?」
あ、暗殺?
「どうも、攻撃を仕掛けるように教わってないみたいだな」
「それで受けてから返してたんだ。風花君、この技を誰から習ったんだい?」
「育ててくれたおじいちゃんが教えてくれました」
「え? 育てて……風花君は養子だったのか? いや、確か立花さんのところの先代は武術とは縁がなかったはず……」
あれ、遠野教授って風花の家のことを知っているの?
というか、二人の頭に?が浮かんでいるのがわかるよ。
「あのー、風花のことは僕たちのことを話したらわかると思うので聞いてもらえますか?」
「つまり、君たちは地球とは別の世界にも存在しているということ?」
「にわかには信じられん」
二階の居間に移った僕たちは、暁が入れてくれたコーヒーを飲みながらテラのことを話した。
「それが本当なら、歴史の舞台から失われていたはずの九幻流が突然現れたのも納得いく。あちらの世界で脈々と受け継がれていたんだ! これは大発見だよ」
だ、大発見……
「あ、あの、僕たちはあまり騒がれても困ります」
「ああ、心配しなくてもいいよ。僕だって友人の子供を奇異の目に晒すようなことはしないって。それにしても暁君もか……もしかして、僕もあちらの世界にいたりするのかな?」
鈴木教授がテラに……
「匂いを嗅がせてもらっていいですか?」
せっかくなので、遠野教授も含めてみんなで二人の首元まで近づく。
「うっ、おやじ、加齢臭がキツイ!」
「ちょ、おま、それ、気にしてんだから……」
ま、まあ、それはこれまで頑張ってきた証だから。
「で、どう?」
「わかりません。ただ、これまで大人の人で気になる匂いの人は一人もいなくて……」
こちらのお父さんやお母さん、あちらの父さんに母さん。それに、風花や竹下たちも自分の親の匂いを嗅いでみたことがあるみたいだけど、あっ、と思うことは無かったと言っていた。
「うーん、子供たちだけのギフトなのかな……残念」
「信じてくれますか?」
「信じるも何も九幻流を見せつけられて、中学生にしては落ち着きはらった君たちの様子。普通ではない何かが起こっているのは確かだね」
「普通ではないか……で、お前たち、あちらで何人殺った?」
僕たちはこれまで殺めてきた人数を伝える。
「立花君が一人、竹下君はいなくて、中山君が二人、そして風花君がわからないくらい。そして、これからも増える可能性がある……これは、遠野お前のところで預かるしかないんじゃないか?」
「そうだな、これほどとは思っていなかった」
預かる……遠野教授に?
暁を見る。うんと頷いた。任せておけば安心ということかな。
「預かると言っても、これまでの生活を変える必要はないし、監視もつかない。ただ、困った時には相談してほしい。特に精神面。一人で思い悩むことが無いように。あ、それと俺の武術も教えよう。今はネットがあるから遠隔でもできるだろう」
それは助かるけど……
「教授たちはどうしてそこまでしてくれるのですか?」
仮に暁がテラの仲間だとしても、知らない振りだってできるはず。
「僕たちはとある組織に属していてね」
「お、おい!」
「言わないって。えーと、君たちと繋がりを持つのは僕たちにとってもメリットがあって、将来もしかしたら頼みごとをするかも……あ、もちろんそれは断ることだってできるよ。どうかな、僕たちに君たちのフォローをさせてくれないか。もちろん、答えは急がなくてもいいから」
えーと……
「みんなと相談してもいいですか?」
暁を呼んで部屋の隅に集まる。
「ここでは言えないけど、悪いようにはならないと思う」
ここではということは、違うところで教えてくれるのかな。
「みんなどう思う?」
「樹に任せる」
任せるって……
「僕は先輩たちに従います」
海渡まで……
「ボクはもっと強くなりたい!」
まあ、風花はそうだよね。
どうしよう。
でも、もう僕たちのこと話しちゃっているし、困った時に相談できるのはありがたいかも。それにいざというときは暁が何とかしてくれそうな気がする。
新年最初の投稿でした。
今年もよろしくお願いします。