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第110話 おばあさんはよしとくれ

「……本当にここなの?」


「うん、この先におばあちゃんちがあるんだ」


 都営地下鉄の浅草駅を降りて10分ほど歩くと、和風の古い家が集まった一角にたどり着いた。


「下町とはいえ東京のど真ん中だろう。よくこんな街並みが残っていたよな」


「こういうの映画で見たことがあります。ざ、昭和って感じです!」


 周囲にはマンションやビルが建ち並んでいるんだけど、ほんとここだけは時代に取り残されているみたい。


「あれ、そういえば、東京って空襲の被害に遭ったんじゃありませんでしたか?」


「うん、このあたりもひどくやられたらしくて、ひいおじいちゃんが自分の土地にいくつか家を建てて、そこに焼け出された人たちを住まわせたんだって」


 へぇー、それはみんな喜んだはずだ。

 ん……住まわせた?


「もしかして、この家って風花の?」


「ぼ、ボクじゃないよ。おじいちゃんが亡くなった後はおばあちゃんの名義になっているから」


「へ? もしかして、この一角全部ですか?」


「う……うん」


 ちょ、待って。家が14~5軒はありそう……


「今も住まわせてんのか?」


「ううん、立ち直った人たちが出て行ってからは貸してるって、おじさんが言ってた」


「東京の一戸建て、平屋とは言えお家賃は高そうです」


「そうでもないんじゃないかな。おばあちゃんの気に入った人しか入れてないみたいだから」


 気に入った人しか……もしかして、風花のおばあちゃんって、気難しい人なんじゃ。


「あ、ここだよ」


 風花が指さした先には、周りの家よりもちょっと大きな平屋の和風家屋が建っていた。






「おばあちゃん、ただいまー」


 インターフォンを鳴らした後、風花が声を掛ける。


『開けるから、入っておいで』


 インターフォン越しに声が聞こえ、すぐにカチャリと音がした。

 風花がドアに手をかけるとスッとドアが横に開く。

 玄関には誰もいない。遠隔で開いたの? 建物は古いのに、なんか新しい。


「みんな、入って。おばあちゃんは居間にいるから」


 風花を先頭に、板張りの廊下を奥へと進んでいく。


 風花は灯りが漏れている障子を開け、「おばあちゃん!」と言って、こたつに座っている女性に抱きついた。


 この人が風花のおばあちゃんなんだ。髪は全体的に白いんだけど、ワンポイントにパープルが入っていておしゃれだ。


「よく来たね。さあ、みんなを紹介しておくれ」


 おばあさんに背中をポンポンと叩かれ、風花が立ち上がる。


「紹介するね! 私の大切な仲間の――」







「ほら、お腹減っているだろう。たんとお食べ」


 挨拶をした僕たちに、風花のおばあさんは昼食を出してくれた。


「あ、あの、おばあさん、ありがとうございます」


「おばあさんはよしとくれ。せっかく若い男性に呼ばれるんなら、名前の方がいいと思わないかい?」


 名前……さっき立花夏って言ってたから。


「夏さん?」


「そうそう、これからはそれで頼むよ」


 風花のおばあさん、あ、いや、夏さんって、思ったよりも気さくな方だった。


「早く食べておしまい。次の予定があるんだろう」


 食事を終えた僕たちは、時間まで今晩泊まる予定の客間で過ごすことにした。


「ふぅ、お腹いっぱい。風花はこれから武術を見せるよな。大丈夫か?」


「あ、うん、一時間くらい後だから平気なはず」


 風花も久しぶりのおばあ……夏さんの料理が美味しかったようで、お代わりして食べてたからね。


「それにしても、この部屋ってなんだか落ち着きますね」


「うん、ほんと」


 障子越しに入ってくる淡い光が暖かくて、それに畳敷きだしなんだか眠くなってしまいそう。


「ふあぁ、風花、教授のところまではどれくらいかかるの?」


「10分くらいかな」


 10分か……今は午後の2時、5分前に到着するとして、あと45分はゆっくり……




「お前たち、行かなくていいのかい?」


 突然の声に体を起こす。部屋の入口から夏さんが覗いている。

 寝てた……

 時間は?


 2時50分!

 なんで?


「ん、うーん」

「ふわぁ、朝ですか?」

「た、大変、みんな急いで」


 どうやら、僕だけじゃなくてみんな寝ていたいみたい。







「はぁ、はぁ、はぁ……風花、ここ?」


 時計を見る。2時58分。信号待ち以外は駆け足だったけど何とか間に合った。


「う、うん。たぶん、住所はここ」


 確か自宅兼道場って言ってたよね?

 コンクリート造りの三階建て、普通の一軒家だよな。表札は確かに遠野って出ているけど、道場がありそうには……


「とりあえず、呼び鈴鳴らしてみようぜ」


 竹下が代表してインターフォンを押す。


『はい』


 あれ? 若い声だ。


「あ、あの、遠野先生に呼ばれてきた。立花風花とその連れです」


 ……僕たちは風花のおまけだ。


『聞いてるよ。今開けるから、ちょっと待って』


 すぐにカチャリと音がしてドアが開き、そこには僕たちと同じくらいの少年が立っていた。


「ゴメン、おやじ今出てるんだ。入って」


「お邪魔します……!」


 竹下のあとに続いて……ん?


「どうしたの?」


 竹下が止まって中に入れない。

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