表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/218

第108話 みんな無理したらダメだよ

〇(地球の暦では10月18日)テラ



「ありがとう。これでこの冬も何とか持ちこたえられそうだ。春になったら工房に職人を派遣するからよろしく頼むな」


 翌日、雪が降り始める前にエキムたちタルブク隊は、持てるだけの麦を馬に積み込み東の山に向けて旅立って行った。


「地球のエキムは誰なのかな? 山下くんじゃないんでしょ?」


「心配されなくても、樹先輩が引き寄せてくれますよ」


「だな」


 あはは、そう簡単にいったらいいけどね。


「それで、リュザールたちはいつ出発だって?」


 さっきセムトおじさんと話していたから、たぶんそのことだと思う。


「3日後。今度もコルカだけど、テンサイとトロロアオイの種も手に入るはずだよ」


 おおー、これで予定通り春には栽培を開始できそうだ。





〇(地球の暦では10月19日)テラ



「うわぁ、すごい。見てください。まるで白い絨毯みたいです」


 薬草畑の一角で、ここまで大切に育ててきた綿花がようやく収穫の時期を迎えたのだ。


「そこ、尖っているから注意ですよ」


 ルーミンが綿わたを興味深そうに眺めているジャバトに声を掛けると、ジャバトがうんと頷く。最近は二人でよく話しているし、なんかいい感じ。地球のジャバトが見つかったらもっと仲良くなるかな。


「それじゃ、始めようか」


 今日は工房での作業を中止にして、リュザール、ルーミン、ジャバトと一緒に薬草畑の綿花の収穫にやって来た。ちなみにユーリルやパルフィそれにそのほかの職人さんたちは、村の綿花畑の収穫の手伝いだ。


「ソル、こんな感じでいいの?」


 リュザールったら、殻ごと千切ろうとしてるよ。


「見てて。こうやって、引っ張るんだ」


 左手で殻を押さえて、弾け出た綿わたを……


「わっ! スポッと取れた」


「ね、簡単でしょ」


 私とルーミンは去年地球で収穫の手伝いをしたことがあるけど、リュザールというか風花はまだいなかったからやり方がわからなくても仕方がないよね。


「あれ?」


 リュザールが収穫した綿わたを手に思案顔……


「あ、中にあった」


 なるほど、種を探していたんだ。


「種は後からまとめて取るから、先に収穫しちゃおう」


 薬草畑にはだいだい10メートル四方の畑が四つあって、そのうちの一つの3分の1くらいに綿花を植えている。見ただけでもかなりの量の綿わたができているから、どんどんやらないと日が暮れてしまいそう。


 四人で協力して殻から弾けた綿わたを摘み取り、次々にかごの中に入れていく。中腰での作業、畑仕事は慣れているとはいえ、なかなか堪える。


「ソルさん、そろそろ」


 ルーミンに促され、空を見上げる。

 太陽の位置は……ちょうどお昼くらいかな。腰も痛くなってきてたし、


「みんな、ちょっと休もうか」


 畑のそばの大きな木のところで腰を下ろす。


「はい、リュザールさん。はい、ジャバト」


 ルーミンが、昼食用に持って来た一切れのパンとチーズを配ってくれる。

 元々こちらではお昼を食べる習慣は無かったけど、糸車が普及しだして女の人に時間の余裕が出て来たので、パンとかチーズとかを余分に作れるようになったんだ。それで、ちょっとだけどお昼を食べられるようになったというわけ。


 さてと、お腹も膨れ一息ついたことだしそろそろ……


「ひっ!」

「わっ!」


 突然、冷たい風が私たちのそばを通り過ぎていった。あー、もうそんな時期か……


「大丈夫?」


 身震いしているみんなに尋ねる。


「はい。思ったよりもヒヤッとして驚きましたが平気です。やっぱりここはビントよりも寒いかもですね」


「僕がいたところももう少し暖かかったような気がします」


 ここは標高が高いから、秋が短くて突然冬がやってくるんだ。


「カインの冬は厳しいから、覚悟しててね」


 あはは、みんな身構えてるよ。


「それじゃ、残りを片付けてしまおうか」


 収穫も3分の2ほどすんでいるから、あと少し頑張れば終わりそう。






 よし、これくらいかな。


 殻から弾けている綿わたはあらかた収穫できたみたい。あとちょっと弾けてないのがあるけど、それは水かけ当番の人に回収してもらおう。

 荷馬車の荷台に綿わたの入ったかごを乗せ、その横にリュザール、ルーミンと一緒に座る。


「いきますよ。ハイっ!」


 御者のジャバトが鞭を振るい、荷馬車が動き出す。


「この綿わただけど、何を作るつもりなの? 次の行商に持っていくことはできるのかな?」


 リュザールはもう仕事モードだ。


「まずは、綿めんの生地を作るでしょ。その後、その生地で村の人たちの肌着とか赤ちゃん用のおしめとか作るつもりなんだ。もし、綿わたが余ったらコペルにタオルを織ってもらおうと思っているから、他の村に売る分は無いんじゃないかな」


「そうか、残念。でも、来年はたくさんとれるんだよね」


「種を集めてみないと何とも言えないけど、たぶんね」


 天候のせいなのか土地のせいなのかわからないけど、村の人に頼んだ綿花も含めて思いのほか生育がよかった。収穫した綿わたの中にはたくさんの種が入っているはずだ。


「あのー、ソルさん。綿めんも織るんですか? 糸車も作らないといけないし、機織り機も今作っています。それに荷馬車はたくさんの受注残があるようです。人は増えてますが、全部を工房でやるには無理があるのではないですか?」


 あ……確かにそうだ。寮の建設も進めているし、お風呂も作らないといけなかった。職人さんに無理をさせられない。


「わかった。綿めんは村の人に頼もう」


 タオルの分の綿わたを最初にとって、あとは村の人に綿生地めんきじにしてもらって工房で買い取るようにしよう。


「ボクは明後日からコルカに向かうけど、みんな無理したらダメだよ」


 みんなが繋がっていろんなことができるからって、一度にやりすぎてたかも。反省しなきゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ