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第101話 神社は留守なの?

〇(地球の暦では10月8日)テラ



「このあたりがいいんじゃない。新しい井戸も近いし」


 鍛冶工房の東側をユーリルとジャバトと一緒に歩く。

 父さんから了解が得られたので、新しい寮を建てる場所を決めているのだ。


「その井戸はどこに掘るんだって?」


 そういえば、ユーリルはコルカに行っていていなかったんだ。

 父さんに寮のことを話したら、『今ある井戸では水が足りなくなるから新しく掘る必要がある。村の井戸掘りの職人に頼みなさい』って言われたんだよね。


「ついてきて」


 ユーリルに井戸掘り職人さんが指示した場所を案内する。


「ここを掘るって言ってたよ」


「ここか……何人分?」


 えーと……ジャバトを見る。


「30人くらいまでだって」


 そうそう、そう言ってた。


「じゃあ、余裕はあるな」


 寮は真ん中に食事や話をするための場所として居間と台所を作り、その周りに男女別で部屋を作る予定。


「ね、やっぱりこのあたりがいいでしょ」


 さっきの場所に戻る。


「だな、台所がここで居間がここ。その両脇に男部屋と女部屋を……えっと、とりあえず二つずつにしとくか?」


 3~4人部屋の予定だから、二つずつだと最大で男8人に女8人……


「そんなに来るのかな……」


 今はアーウスとニサンだけ、ジャバトは二人が慣れたら家に戻る予定だし、部屋をたくさん作っても人が来なかったらそれはそれで何とも言えない気持ちになりそう。


「この前コルカに行ったじゃん。その時に町を回ってみたら、避難民の中に俺みたいな孤児がまだ結構残ってんだわ。男のほうはそのうち仕事が見つかるからいいんだけどさ、女の子の方は何とかしてやった方がいいと思うぜ」


 確かにテラには女の子が働く場所があまり無い。

 ならどうしているかというと、人が少ないこちらの世界では、女の人は結婚し家庭に入って子供を産むことが大切な役割という考え方がある。だから、嫁ぎ先が見つかるのならそれでその子たちの将来は(幸せかどうかは別として)一応安泰なんだけど、相手を探してくれるはずのお父さんがいないんだから、不安に思っているに違いない。


「その子たちはどうしているの?」


「俺がいた頃は孤児は他の避難民の家族に厄介になっていたけど、今はコルカの町長まちおさがそういう子だけを集めて面倒見ているみたいだぜ」


 町長さんが……


「費用も町長さんが?」


「いや、コルカに集まる隊商にお願いして補助してもらっているんだって」


 ということは、すぐにどうにかしないといけないって事もないのかな。かといって、町長さんも女の子たちの結婚相手を探すような余裕はないだろうし……


「ユーリル、何人くらいいた?」


「そうだな、全部で十人くらいかな」


 十人。二部屋ずつで全員来たとしても足りそうだけど……


「ユーリル、ジャバト。男部屋、女部屋をそれぞれ三つずつ作ろう」


 行き先がない孤児が他の町にもいるかも。その子たちは不安に思っているはずだ。でも、もしどこかでカイン村の工房のことを聞いて、そこに行ったら暮らしていけるとわかったら、きっと安心するんじゃないかな。


「六部屋か……全部が埋まったとしても24人。井戸の容量にもまだ余裕があるな。でも、大丈夫か?」


「た、たぶん……」


 そろそろ綿花の収穫が始まるし、機織り機を作るのにも人手は必要だ。仕事はたくさんあるからいけると思うけど……


「ソルがそういうのなら俺はかまわないぜ」


「僕も賛成するけど。ねえ、ソル。タリュフさんに聞かなくてもいいの?」


「あ、」


 私たちは診療所に向かい、父さんにこのことを話すことにした。


「――というわけで、もしかしたら24~5人に増えるかも……」


 工房については、ある程度のこと(何を作るとか、どれだけ作るとか)は自分たちで決めていいことになっている。でも、村に人を増やすことに関しては村長である父さんの許しを得ないといけなくて、最初に寮を作ってもいいかと聞いた時に10人くらいと言っているから増えたことを話しておかないといけないんだ。


「なるほど……ふむ、その様子だとコルカの町長も困っているだろう。ソルの工房で余裕があるのなら引き受けても構わないよ。ただし、大変かもしれないが、子供たち一人ひとりをちゃんと見ることを忘れないように」


「わ、わかった」


「まあ、私も心がけておくから、何かあったら相談しなさい」


 ありがとう、父さん。





〇10月8日(土)地球



「今日は港の方に行くんだね」


 雨上がりの朝食後いつもの集合場所に集まった僕たちは、すぐに川沿いの道を下流に向かって歩き出した。


「はい、昨日は人が多くて近寄れなかったので、お参りに行かなくてはならないのです」


 今年はお祭りの初日が土曜日と重なっていて港の方が人で溢れかえっていたから、昨日は予定を変更して街なかを練り歩く踊町の出し物の追っかけをしていたんだ。


「お参りって……あの辺りに神社とかあったかな?」


 そういえば、風花に話してなかった。


「昨日お神輿を見たでしょう。あの中に神社のご神体が入っていらして、明日のお昼までは港の御旅所おたびしょってところにおられるんだ」


「え、それじゃ、神社は留守なの?」


 留守と言えば確かにそうかも。


「はい、なので、この町の人は期間中に御旅所でお参りするのがしきたりになっているのです」


「しきたりか、それなら仕方がないね」


 しきたりというのは言い過ぎだけど、御旅所の周りにはたくさんの出店があるからそれを見るだけでも楽しいはずだよ。

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