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第100話 わかっているって、ユーリル兄

〇(地球の暦では9月30日)テラ



 馬に乗った十数人の男たちが村の北を流れる川を渡っていく。東の街道へと向かうにはそこを通るしかないのだ。


「行っちゃいましたね。大丈夫でしょうか?」


 セムトおじさんの隊商の人たちと村の腕自慢の男たちが、盗賊の残党がいないか調べに向かったのだ。その中にはリュザールとアラルク、そして、先日東の集落からカインに逃げてきた二人のご主人さんたちも含まれている。


「おじさんは心配いらないって言っていたけど……」


 セムトおじさんはあの場所で盗賊が出たことを不思議がっていた。牧草地はあるけどまばらにしか人が住んでいないらしくて、変な言い方だけど盗賊で生計を立てようにもそれができないはずだって。もしかしたら、討伐した盗賊たちもそれですぐにカインまで来たのかも。


「ま、ここでやきもきしてもしょうがねえ。俺たちは俺たちの仕事をやっとこうぜ。あいつらにも仕事を教えないといけねえしさ」


 ユーリルが見ている先には、ジャバトと話している二人の男の子がいる。

 二人ともセムトおじさんがコルカから連れて来た孤児で、一昨日から工房の空き部屋で寝てもらっているんだけど、寂しかったらいけないと部屋を移ったジャバトと早速仲良くなったみたい。


「何を話してたの?」


 工房までの帰り道、キョロキョロとあたりを見回している二人の男の子に近寄り、声を掛ける。


「あ、ソルさん、ここで盗賊をやっつけたんだって!」


 あの時のことかな。この子の名前はアーウス。一つ年下なんだけどすでに背がリュザールくらいあって、横幅もあるから先々はアラルクくらいの大きさになりそう。


「うん、村に入られたら大変だからね」


「ジャバトさんから、ソルさんがここで戦うって決めたと聞きました」


 この子はニサン、二つ年下でちょっと小柄、茶色のクセっ毛が可愛らしくてって……どうしてそんな話に……


「決めたのは父さんだよ」


 ただ、村の入り口で迎え撃とうとしていたのを、誰かの家に逃げ込まれたら大変だと言ってこっちにしたらと提案したのは確かだ。でもそれは私が考えたわけではなく、地球でみんなとどこで戦ったほうがいいか話し合った結果を伝えただけ。


「それにしてもすげぇぜ、盗賊相手に誰も死ななかったって、なあ、ニサン」


「うん、僕たちいいところに来たかも」


 村が盗賊に襲われたら死を覚悟するのが当たり前。カイン村なら安全だと思ったのかな……


「お前たち、次盗賊が来たら俺たちも戦わないといけないんだぞ。仕事の合間に武術の練習もするんだから、しっかりと頼むな」


「わかっているって、ユーリル兄」


 ユーリル兄……


「うん、リュザールさんの武術を覚えられるの楽しみ」


 ふふ、この様子なら二人ともカインになじめそうだ。





〇10月4日(木)地球



「ひどかった……」


 朝の散歩の時間、風花にいつもの元気がない。昨日襲われた村に到着したら、あまりにも無残な有様だったらしい。


「ご主人さんたちは?」


「亡骸を弔っている間は一言も……」


 そうなんだ……


「口惜しかったのかな」


「それだけじゃなさそう。もしかしたら、自分たちだけ生き残って申し訳ないって思っているのかも」


 そこにいたのは、家族同然の人たちだったんだよね。辛かっただろうな……


「どうするのかな?」


「戻るかどうか聞いてみたら、二人ともこのままカインでお世話になりたいって。やっぱりあそこに住むのは怖いんだと思う」


 そうだよね。いつ盗賊が襲ってくるかわからないし、亡くなった人たちとのいろんな思い出もあるはず。戻ろうと思うようになるには時間がかかるはずだ。


「それで、近くに盗賊はいそうか?」


「それらしい気配はないね。セムトさんもやっぱり不思議がってたよ。なぜこんなところに盗賊がって」


 リュザールによると、周りには同じように数家族が集まってできた集落がいくつかあるにはあるらしい。でも、村と言ったら西のカインか東のタルブクにいくしかなくて、どちらも馬で3日から4日かかるみたい。


「干ばつの影響かな」


「干ばつか……だとしたら、タルブクの北にシュルトという大きな町があるんだけど、そこで避難民を吸収できてないってことになるんだよね」


 初めてコルカに行った時は町の外にまで避難民のユルト(テント)が建っていた、シュルトでも同じようなことが起こっているのかもしれない。


「シュルトと言ったら、地球のビシュケクあたりだろう」


 ビシュケクか……確かキルギスの首都だ。


「うん、東から来る隊商の中継地になっているみたいだね」


 東ということは地球でいったら中国あたりかな。


「隊商宿にいた時に、シュルトはコルカよりも大きいって聞いたことがあるぜ。それなのに避難民で溢れかえっているって事なのか?」


「セムトさんはその可能性はあると言っていた。確認するためにも、タルブクで話を聞かなくちゃいけないんだ」


 タルブクならシュルトに隊商を出しているはずだから、何か情報を持っているはず。


「ということは、リュザールさんたちはしばらく帰って来れませんね……大丈夫ですか?」


 リュザールたち隊商の人たちは、コルカから帰ってきた翌日に出発して行った。盗賊が出た理由がわからないと安心できないとはいえ、無理をしてほしくない。


「体のこと? 平気平気。隊商のみんなは鍛えているからね。あ、でも、少し寂しいかも。こっちで遊んでもらえるかな」


「もちろん! 風花は明後日のお祭りには来れるんでしょ?」


「うん、子供の頃に見た以来だから楽しみにしてるよ」


 よかった、毎年10月の7日、8日、9日は地元で盛大に開催されるお祭り。でも、リュザールたちの状況次第では見に行けないかもって思っていたんだ。

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