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鳥娘(トリコ)第3章「面会」

作者: てくろう

まだ朝暗かった空は、大イノシシとの激闘の末、太陽が当たりを照らし明るくなっていた。

大イノシシが目覚めるまで、森の中で休憩する4人の旅人達は、和気藹々と会話していた。


スーザン「それにしても、イノシシの脚に狙い討ちするとき凄まじいスピードと活気のある攻撃力でしたな。村一番にスピードに自信がある私でも、顔負けのレベルだ。流石はラミア様、実力の賜物です。」


ラミア「我は、大規模でも数々の貢献を果たしているからな。騎士としての実力は当然のこと、貴方方も、小規模でここまでよく実力を高められたな。電光石火の身のこなしと自分の体を盾にして襲い掛かる巨体を食い止める勇敢さと体幹力、騎士に任命したいくらいだ。」


騎士と兵士2人が互いを賞賛しあい、互いの気分が高揚し、話題は円滑に盛り上がっていた。

騎士と兵士2人が和気藹々としている中、少女はまだ目覚めない地面の上で横になっている大イノシシの傷を心配そうに眺めていた。

騎士と兵士2人は、心配そうに大イノシシを眺める少女の姿を見て、さっきまでの賑やかな雰囲気は一変し、静寂としていた。すると、一人の兵士が食料箱から取り出したパンを手に取り、少女に近づく。


デク「お嬢さん、これ召し上がりますか?」


ユキ「大丈夫」


少女に気遣う兵士を一瞥もせずに、即座に断る。

少女を気遣う兵士は、しょんぼりして、自分の居た席に戻る。

その時だった。大イノシシは、開眼し、それを見た少女は「起きた?」と少し高い声のトーンで話す。

騎士と兵士の3人は、少女の声に咄嗟に駆け付け、大イノシシの状態を確認する。

少女は、閉眼し大イノシシの体に触れ、心の中で何かを問いかけようとする。


ユキ「おはよう、お体は大丈夫かな?私ユキって言うの。何もしないから安心してね」


情けをかける少女に、大イノシシは、けん制することなく、細目で少女を見つめる。

そして、少女は、特殊能力を使い、大イノシシの脳内に語り掛ける。


大イノシシ「ハヤクナカマ二シラセネバヤラレテシマウ...」


少女は、何かを訴える大イノシシに耳を傾ける。


ユキ「殺られる?誰に殺られるの?」


大イノシシ「テン、テン二ヤラレル。ハヤクヒナンセネバ...」


ユキ「テン?人?」


少女と大イノシシの会話を目の前にしている2人の兵士は、不思議そうに首を傾げる。


スーザン「少女は、さっきから大イノシシの体に何をしているのでしょうか?」


2人の兵士は、少女の特殊能力に疑問を抱く。

少女の特殊能力を理解できていない2人の兵士に、騎士が少女の行動について詳しく説明する。


ラミア「ユキは、今大イノシシに問いかけてるんだ。これも神の子がもっている能力の一つらしい。確かテレパシーと呼ばれる能力だったな。読心術みたいなものだ」


少女の特殊能力に、2人の兵士は、驚きを隠せずに思わず「えーー!?」声を挙げてしまう。


デク「そのテレパシーって言うやつも、魔力か何かでゲスかね?」


リーサス村では、魔法使いは一人もいないので、間近で見る少女の珍しき魔力らしい能力に心を惹かせ、兵士は興味津々に騎士に質問をする。


ラミア「いや、魔力かどうかは分からないが、現時点で魔法使いにテレパシーを使える人は一人も見たことがない。また魔導書にも乗ってないらしい。おそらく魔力ではないだろう」


デク「え?魔力ではないんですか?じゃあなんなんでしょうか?」


ラミア「神の能力。すなわち神力と呼ばれている特殊能力だ。まだ、神の能力には未知数が多く、不可解な事ばかりだが、魔力とは少し違うらしい。」


兵士の二人は、神の力と魔力が別物だということを理解し、満足気に納得する。


その一方で、大イノシシは少女から視線を逸らし、完治していない体で地面を精一杯踏ん張り、立ち上がろうとする。


ユキ「待って!まだ傷治ってないよ?どこ行くの!?」


少女は、大イノシシの傷を心配して大イノシシを引き止めようとする。

立ち上がった大イノシシは、少女を一瞥するも、すぐに視線を逸らし、去っていく。

少女は、このままではいられまいと大イノシシの後を追いかけようとするが、騎士に手を掴まれ、引き止められる。


ユキ「お父さん、何で止めるの?」


ラミア「これ以上は危険だ。放っておこう。」


ユキ「何か真相がつかめるかもしれないんだよ?いいの?放っておいて」


ラミア「真相よりも、ユキの命が最優先だ。そもそも、大イノシシと意思疎通を図る事が出来たのか?」


騎士は、彼女に疑問を投げると、彼女は、下を向き首を横に振る。


ラミア「相手はイノシシだ。イノシシはそこまで賢くないから、意思疎通を図るのが難しい。性格の愛称も最悪だ。一方的にイノシシの思考から読み込んで考察していくしかない。」


騎士は続けて言う。


ラミア「この先、聖獣と魔獣に出会う可能性だってあるんだ。奴らは、他の生き物と比べて賢い。そんなに慌てるな。」


少女は、父親の言葉に不満を抱きつつも、下を向いてゆっくり頷く。

兵士の二人も、少女に近づき話しかける。


スーザン「私らもお嬢さんの仲間なのですよ、困ったときはいつでもサポートします。」


デク「腹減ったら遠慮なくいってくれよな!腹いっぱい食わしてやるデゲス!」


その瞬間、一人の兵士のお腹からグ~と鈍い音がなる。


スーザン「デク!お前の方が腹空かせてどうんすんだよ!」


2人の兵士のボケと突っ込みに、騎士と少女はクスっと微笑みを浮かべる。

少女は、機嫌を取り戻し、二人の兵士に「ありがとう」と感謝を告げる。

2人の兵士が、初めて見せた少女の笑みに嬉しさを隠せず、2人仲良く小躍りをする。


ラミア「そろそろお昼だし、ここで飯にするか!」

騎士の提案に、少女と兵士は頷き、昼食の支度をするのであった。

少女は、少しだけ二人の兵士に心を開くのであった。


その一方で、リーサス村では訪問者がやってきていた。

一人の騎士が馬車を引いてリーサス村の入り口にやってくる。



村兵A「ここから先はリーサス村です。通行証か村長の許可以外、部外者が入る事を禁じられています。入りたければ、許可証か通行証をお見せください。」


リーサス村を見張る二人の村兵が、男性の前に立ちはだかり、証明書を要求する。


すると、馬車の中から貴族の礼服を身にまとった3人が姿を現す。

2人は金の首飾りをしていて、背が高く威厳がある。金髪のショートヘア―の女性と、青髪ロングヘア―で髪を結んでいる男性である。見る限り若々しい顔つきをしている。青髪と金髪の前に立つ1人の男性は、背は低いものの、いくつもの金やプラチナ鉱石で作られたアクセサリーを首や手首に身に着けており、光沢を出している。


オルテナ「わしはトデット城の国王に次ぐ大臣、ロバート・オルテナと申す。これが何よりの証拠じゃ、」


大臣の護衛につく貴族の二人が、通行証を見せつける。

大臣は、おごり高ぶって自分のちょび髭を伸ばしながら村兵を見下すような表情で視線を合わせる。

村兵の二人は、それを見て大臣の通行を許可する。


村兵「確かに、これは正真正銘の通行証ですね。お通りください。」


オルテナ「一つお願いがあるのじゃが、村長と顔合わせを願いたいのじゃが、案内してくれるかの?」


村兵は、躊躇いなく、大臣の要求に従い、大臣らを連れて村長の所へ案内する。

村長の場へ案内すると、村兵が村長の許可を得るため、大臣らをその場で待機させる。

貴族の珍しい衣装に、村民は目を焼き付ける。

大臣と貴族の2人は、退屈そうに周囲を見渡しながら話す。


オルテナ「それにしても、村というものは貧乏臭くてたまらんのう。衣装が腐ってしまいそうだわい」

大臣は、当たりを見渡し不機嫌そうな表情で陰口を吐く。


青髪「お気持ちはわかりますが、我ら貴族がそのようなお言葉を吐くのは性に合いませんぞ。国王の命令なのですから、最低限の我慢は必要です。」


オルテナ「ちっ、代わりはいくらでもいるというのに、何故わしが平民とかかわらなければならないのだ」

大臣は、青髪の指摘をスルーして、お構いなく陰口を吐く。

大臣の愚痴を聞かされる二人の貴族は、やれやれと飽きれた表情をして、適当に聞き逃す。

貴族の3人は少し待つと、2人の村兵が戻ってきた。


村兵「村長から許可を得ました。こちらへどうぞ」

村兵は、村長の住む屋敷に案内する。

屋敷といっても、木造建築であり、朽ち果てそうなくらいボロボロである。屋敷は、2階建てであり、村長は2階に居る。

貴族らが、村兵と共に土足で階段をかけあがり、階段も吊り橋のように「ギーギー」と音が鳴りながら駆け上る。

大臣は、裕福な屋敷で育ったため、慣れない貧乏くさい屋敷に不満が溜まり、ついに本音が漏れる。


オルテナ「ええい、なんだこの貧相な家は、海までわたってここまで足を運んできたわしが何故嫌な思いをせねばならぬ!」


大臣は、愚痴を漏らすが、理性を保って小声にとどめる。

しかし、大臣は一度本音を漏らすと止まらない。大臣が次々と愚痴を吐こうとしたその時、青紙貴族が咄嗟に大臣の口を手で覆い被さり口封じをする。

村兵は、後ろが騒がしいため貴族の方へ振り返る。


村兵「どうかしましたか?」


青髪「いえ、なんでもありません。そのまま進んで下され。」


青髪の行動のおかげで、事を丸く抑える事ができ、村兵達は青髪の言葉に了解して先へ進む。

村兵の後に続いて、貴族らも階段を駆け上る。

大臣は、理性を取り戻し、怒りを抑えながらも村長の元へ向かう。

そして、階段を上り切り、村長の部屋に入る。


村兵「こちらが村長の部屋になります。どうぞ」


オルテナ「ふむ、やっと着いたか」

狭い階段を登り切った大臣は、怒りのボルテージが少し下がり一安心する。

村兵が村長の名を呼び、入室の合図をして、扉を開ける。

扉を開けたその先には、村長が待ち受けていて、テーブルには食物の葉っぱで作ったお茶と色鮮やかにならんだ木の実が準備されていた。


村長「お貴族様の急な訪問に驚いた。お会いするなら先に連絡がほしかったのう、まあ腰掛ください。」


オルテナ「いえ、急だったのでくつろぐのも申し訳ないですぞ、この場で少しお話したら帰りますから」

大臣は、自分の本心は出さずに、大臣らしく気遣い取り繕う。

大臣にとって平民が座るような腰掛は、地面の上を高価なズボンで座るようなもので、ズボンが汚れるのが嫌だったのだ。


村長は、真顔で「そうですか」とうなずき、用件を尋ねる。


オルテナ「早速本題に入るわけだが、率直に言う。この村ある書物を全て買い取りたい。」


村長「え?書物を買い取りたいと仰いましたか?」


村長は、パチパチと瞬きを2階し、もう一度聞き返す。


オルテナ「ああそうだ。」


余命宣告でも告げられたかのように愕然とした表情をする。

如何にも、リーサス村を支えてきた書物でありこの村の宝庫であるため、簡単に引き渡しすることはできないのである。


村長「急に言われましても、この村にある書物は、先祖代々から受け継がれた大事なものなのです。他所の国に簡単に引き渡しするわけにはいきませぬ。ですが、何故このちっぽけな村にある書物が必要なのですか?」


村長は、冷静さを取り戻し大臣の願いを断り、念のために理由も尋ねる。

大臣は、億劫そうに説明の代理を頼もうと護衛の青髪に一瞥し合図をする。

青髪は、当然のように大臣の合図を受け入れ、説明をする。


青髪「自国をより強大にするためにも、知恵が必要なのです。その知恵を得るためには、リーサス村の書物が必須という事です。勿論ただでとはいいません。そなた達の望む値段で買い取りますぞ。」


青髪貴族は、代理で村長に買収の交渉をする。


村長「そもそも、書物にはわしらの先祖が他所のものに奪われぬように頑丈な結界を貼り巡り、結界の範囲内でしか本を持ち込めないようになっています。結界の外に持ち込めば、体中に電撃が巡り生きて返れなくなるという言い伝えが書物の最後のページに記されています。結界の解き方は、このリーサス村で知ってる人は一人もいなく、村長であるわしでも結界を解くのは不可能なのです。」


村長の発言に大臣は、困った表情は見せる事はなく余裕綽々とした表情で自分の自慢の黒ひげを指で伸ばしながら話す。


オルテナ「結界が解けないのであれば破ればいいのではないか?」


大臣の思わぬ発言に雲行が怪しくなり、村長は即座に否定する。


村長「結界を破るですと?そこまで書物を欲するのですか?結界を破るということは断じてわれら先祖に抗う行為ですぞ、値段はどうあれ書物を国に引き渡しすることはできませぬ。どうかご理解ください。」


書物の取引の交渉に自信があった大臣は、上手く事を運べない状況と窮屈な場所にいらだちを感じながらも理性を保つ。


オルテナ「ふむ、どうしても買い取れないのかね?」


村長「はい、遥々遠い国から足を運んでくださったのですが、この件に関してはどうしても同意は出来ませぬ」


オルテナ「ふむ、そうか。これは国王に報告せねばならないな。折角我ら国王の良心でこの村を生かす選択肢を与えたというのに、我ら国王の望みを拒否することはどうなることかお分かりですな?」


大臣は、等々村長に牙をむき出す。

村長は、思わぬ大臣の言葉に驚愕する。


村長「まさか、この村を武力行使なさるつもりですか!?」


当然のように大臣は頷き、青髪と金髪も知っていたかのように冷酷さを醸し出す。


オルテナ「まあいい、そなたらに1週間の猶予を与えてやろう、1週間後にまた来るからな、この村を守るか、それとも我らの餌食となるか考えなくともわかるだろう?村長さんよ」


苦渋な選択肢を告げられ驚愕する村長を見て機嫌を取り戻した村長は、その場を立ち去ろうとする。


そして、金髪貴族も大臣の後をついていく。青髪貴族は、大臣の後についていく前に村長に問いかける。


青髪「そういえば、この村に銀の首飾りをした騎士がやってこなかったか?」


村長は、銀の首飾りと騎士という言葉にすぐさま気づき、返答する。


村長「はい、先ほどこの村を出て行かれましたが...」


村長は、先日この村を訪れた騎士も、トデット城の貴族であることに脳裏をよぎらせる。そして村長は凍り付く。


青髪貴族は凍り付く村長を見て、二っと笑みを浮かべ話す。


青髪「彼もこの村の書物を狙っているに違いないな」


青髪貴族は、大臣に連続して疑わせざるおえない捨て台詞を吐き、この場を立ち去るのであった。



















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