雪だるまの国の女王さま
誰も来ないような寒い寒い場所に、雪だるまの国がありました。
雪だるまの国のほとんどは氷と雪で出来ています。
ご飯は雪で作った雪おにぎり、ベッドは氷で出来ていました。
皆が静かで穏やかだったので、国の中はいつもゆっくりとした時間が流れていました。
そんな雪だるまの国には女王さまがいます。
女王さまは雪を丸めて雪だるま達を作っていました。
出来た雪だるまには命が宿ります。
「女王さま、命を与えてくださってありがとう!」
雪だるま達から女王さまはとっても尊敬されていました。
だって、自分たちを作ってくれたのですから。
でも、女王さまはそれを嬉しいと思う心を持っていませんでした。
嬉しいと思う心だけでなく、悲しみや楽しさなどの他の感情全てを。
なぜなら、女王さまは自分の感情を雪だるまに込める事で命を与えていたからです。
1体、また1体と雪だるまが増え、国と呼べるほどに雪だるま達が増えた時には女王さまは笑うことも泣くことも怒ることもしなくなっていました。
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女王さまは、昔はただの女の子でした。
でも皆と違う不思議な力を持っていたので、皆に怖がられ国から追い出されてしまったのです。
色んな国へ行っては追い出されて、追いかけられる事もありました。
ようやく誰もいない北の寒くて雪と氷しかない場所に辿り着き、やっと落ち着いたのです。
でも女王さまはとっても寂しかったので、雪を丸めて雪だるまを作りました。
"私の話し相手になってね"
「はい、分かりました。女王さま」
ただの独り言に、なんと雪だるまが返事をしたのです。
女王さまはとても喜んで寂しくなっては雪だるまを作り、何か困った事がおこると雪だるまを作って相談しました。
そうして少しずつ少しずつ雪だるまは増えて、女王さまの感情はゆっくりゆっくり無くなっていったのです。
女王さま自信も気付くことなく。
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ある日、怪我をして動けなくなった馬が雪だるまの国に捨てられました。
おそらく旅の途中で怪我をしたので扱いに困り、こっそり捨てたのでしょう。
女王さまは、雪だるま達と一緒に懸命に看病しました。
しかし、とても高い熱が出てしまい苦しそうです。
「女王さま、ここは寒いので馬のために暖かくしましょう」
「駄目よ、そんな事をしてはあなた達が溶けてしまうわ」
「いいえ、女王さま。きっと私達はこの馬を救うために命を与えられたのです」
「女王さまが与えてくださったこの命を、この馬に繋げたいのです」
雪だるま達は女王さまの優しい感情も守ってあげたいという感情も持っていたので、馬を救うために何の迷いもありませんでした。
雪だるま達はせっせと薪を集めると、どんどん火を焚いて暖かくしていきました。
火は三日三晩焚き続けられたので国中が暖かくなり、雪だるま達は段々と小さくなって、やがて溶けて消えてしまいました。
その頃には馬の熱も落ち着いていて、女王さまは疲れて眠ってしまいました。
「女王さま、起きてください」
誰かに起こされて女王さまが目を覚ますと、そこにはとても凛々しい顔つきの男の人が立っていました。
「私はあなた達に助けてもらった馬です。ある国の王子でしたが、呪いをかけられて馬へと変えられていたのです。しかし、あなたと雪だるま達が命をかけて私を助けてくれたので呪いがとけました。ありがとうございます」
王子だった彼はとても感謝して、雪だるま達のために花を植えました。
雪だるま達が燃やし続けたので、雪はすっかり溶けてなくなっていました。
そして女王さまは雪だるま達が溶けたので全ての感情を取り戻しました。
感情が戻り、雪だるま達がいなくなったことをとても悲しみましたが、今度は自分の感情ではなく雪だるま達が幸せになるようにと願いを込めて花を植えました。
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「ねぇ、知ってる?ここから北にいった遠い国には花がいっぱいの暖かい国に雪だるまが暮らしているんだって!」
小さな女の子は興奮気味に兄に話しかけますが、信じてもらえません。
「嘘だ。雪がなければ雪だるまなんて作れないよ!」
「だって、あそこの旅の人が言ってたもん!」
「本当か〜?・・・っ!?」
少年が疑わしそうに目を向けると、女性のローブからひょっこり顔を出していた小さな雪だるまと目が合いました。
雪だるまは幼い兄妹にシーッと合図をするとすぐにローブの中に引っ込んで隠れてしまいました。
「ホントだった・・・」
それからまたさらに何年かたち、花と雪だるまの国は皆の憧れの地となりましたとさ。
おしまい。