表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/35

第八話 豆菓子



「メリッサも1度同じ事やってみれば? 反面教師的な?」

 そうすれば、もしかしたらサーチみたいに嫉妬してメリッサの大切さに気付くかも……とマークは窓の外を見た。

「コレ幸いと、婚約を破棄する未来しか見えないけど?」

 メリッサは腰に手を当て、呆れていた。

 残念な事にあのアレク王子。自分が浮気をしていながら、非がないと公に云える様に、メリッサの弱味を探している様子が窺えた。マーガレットとの正当な結婚を模索しているのだ。

 万が一にでもメリッサに何かがあれば、喜んで断罪するに違いない。

「それな……っ痛ぇ!」

「 "それな"じゃないわよバカ」

 マークの頭を軽く叩いたマリアン。

 親友の未来を潰さないで欲しいと、婚約者マークをひと睨み。マークは肩を落としていた。



「マーガレットさんは、そんなに魅力的なのかしらね?」

 アレク王子がそんなに熱を上げる程に。

 メリッサは溜め息混じりに呟くと、気分転換にテラスに向かった。少し風にあたれば気分も変わると思ったのだ。

「あっ」

 そんなメリッサを止める様な声が、背後から聞こえた。



「アレクさまぁ。こんな所でダメですよぉ」

「ならば、どんな所なら良いんだ? マーガレット」

 テラスから見えない聞こえないと思っているのか、少し離れた木陰から声が聞こえた。恋人の密会の様な、甘い声がだ。

 相変わらず、人目を憚らずそこでデートを重ねている様子だった。

 背後から聞こえたのはそこにいるだろうと、薄々気付いていたマークが止め様とした声だった。

 メリッサは2人の姿を確認すると、無意識にスカートの裾をギュッと握っていた。

 それは、嫉妬からなのか、婚約者としての(プライド)りを傷つけられた悔しさなのか、本人さえも分からなかった。

 ただただ、無意識に掴んでいたのだ。


「メリッサ」

 マークとマリアンは言葉を掛けていいのかさえ、憚られた。

 安易な慰めは、余計に彼女の心を傷つける恐れもあるからである。

「もぉ、やだぁ~」

「逃げるなマーガレット」

 見られている事を気付かないのか、見せつけているのか。アレク王子達は、気にもせずイチャイチャしていた。

 そして、抱き合うと――




 ――キスをしていたのである。




「……っ!」

 その瞬間、メリッサの頬が瞬間的に熱を帯びた。

 2人の浮気に対して、怒りや嫉妬から顔が熱を帯びた――

 ――のではない。



 何故かアーシュレイ王弟殿下の顔が浮かんだからだ。

 あの時の掠める様なキスが急に、しかも妙に鮮明に頭に思い出したのだ。



 メリッサは感触までもさえ思い出し、恥ずかしさに堪らず扉に走り出していた。絶対に今、頬が紅いに違いない。そんな姿を見られたくなかったのだ。

「「メリッサ!!」」

 顔を覆って走り出したメリッサを、マーク達は慌てて呼んだ。

 顔を覆っていた事で泣いていたのではと、勘違いしていたのだ。

 あの気丈な彼女が、涙を見せた。その事が心配で仕方がなかったし、同時にバカ王子とマーガレットに怒りを覚えたのだ。


 マークとマリアンは目配せすると、マリアンはメリッサの後を追って生徒会室から出て行った。


 残ったマークは、苛立ちを隠さず舌打ちをしていた。

 メリッサに対する仕打ちは許せない。マーガレットと婚姻を結びたいのなら順序がある。節度を守り、順を追って婚約を解消すればいいだけの話だ。

 王子だからといってこんな形で不誠実に、彼女を傷つける権利はない筈だ。

 将来あんなヤツの下に就くのかと思うと、マークはヘドが出ていたのだ。


 マークは今までの所業をも思い出し、さらに苛立っていた。そして、テーブルの上の皿にあった豆菓子を見つけると、アレク王子とマーガレットのいる木陰に、迷わず向かって振りかぶった。

 木陰の上、木に向かって豆菓子を思いっきり、日頃の恨みを込めて投げつけたのだ。



 バシッと豆菓子が木に命中すると。



「きゃあぁぁぁァァ~~っ!!」

「うわぁぁァァ~っ!!」

 マークの耳には心地良い悲鳴が聞こえていた。

「いやぁァ~。なんなの~!!」

 あの2人の頭上からバサバサと鳥の羽音が聞こえた瞬間、無数の毛虫や鳥の糞が落ちてきたのだ。

 そして、騒ぐ2人の足元に向かって、無数の鳥が我先にと突っついている。落ちた豆菓子や毛虫を探して突っついているのだ。

 あの木の周りは毎日の様に、鳥の集会所と化しているのを知っていた。だから、マークは鳥に裁きを任せたとばかりに、豆菓子を投げつけたのだ。



「アハハハハ!!」

 マークは毛虫や糞まみれになって泣き叫ぶマーガレットと、アレク王子の様子を見て腹を抱えて笑っていた。

 そして、親友の心を傷つけた事を少しは後悔すればイイと叫んだ。




「ざまをみろ!!」

 








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ