第七話 ヤキモチ
「え? 結局、誰も手伝わなかったの?」
次の日、生徒会室に来たメリッサは、皆の話を聞いて驚いていた。
後はどうにかするから、帰ってイイと言われ帰路に着いたけれど、まさか本気で誰も手伝わないとは思わなかった。
「マーガレット嬢とやればイイと思って、気を利かせてみた」
マークは微塵も思っていない事を白々しく口にする。
浮気相手とされるマーガレットは、一般の部の生徒だ。いわゆる爵位があれば入れる部類。その中でも真面目に勉学に励む者達も勿論いる。だが、アレク王子と四六時中ラブラブしていて、勉学を学んでいる気配はなさそうだった。
そんな彼女が、生徒会の仕事を手伝える訳がない。マークは適当かつ嫌味を交えて言ったに違いない。
「それで? 出来ていたの?」
やってやれない事もないだろうけど、いつもブラブラ遊んでいる彼が真面目にやったのだろうか?
「出来てたわよ。一応」
友人とは云え普段はなるべく敬語を使うマリアンが、敬語も忘れ苦笑していた。
出来ていなかったら文句の1つや2つ、言ってやろうと意気込んで来ただけに、何処か肩透かしみたいでガッカリだった。
「やれば出来るんだよなぁ」
だから、余計にイラっとする。マークはそんな声が混じっていた。
「それで、当の殿下は?」
相変わらずいる様には見えないが、メリッサは一応辺りをキョロキョロ。うん、安定していらっしゃいません。
「いる方が奇跡。"使えない輩め" って書類を放ってマーガ……じゃねぇや中に……えっと」
「構わないわよ。事実を」
口を濁すマークの小さな優しさに笑いつつ、メリッサは訊いた。
嘘を吐かないのも、ある意味優しさだ。
「マーガレットさんの所?」
「安定しているわね」
もはや、呆れを通り越して感服する。
かつて、自分の所にここまで通ってくれただろうか?
考えても通って来てくれた覚えが全くない。それはもう、悲しいくらいに。
「ところでサーチとリースは?」
あの2人もここにはいない。書記であるサーチの手伝いに良く来ていたのだが、最近見ていない。
あれから、何もなかった事を祈るのみ。
「あ~」
訊いた途端にマークは遠い目をしていた。
何かがあったのは確かな様である。
「マリアンは知っているの?」
婚約者のマークから聞いているのかと、メリッサは訊いた。
「私もまだ、聞いてないのよ」
そう言ってチラリと婚約者を見た。丁度訊こうとしていた処だった。
「教えてくれるかしら?」
これでも友人として、サーチもリースも心配しているのだ。
なるべくなら円満に解決して貰いたい。
「ナンか大変?」
「「マーク」」
肩を落としておどけたマークに、メリッサ、マリアンはハッキリ言えと詰め寄った。
大変? とアバウトな答えは待っていないのだ。
こっわと1つ声を上げ、マークは渋々口を開いた。
「結論から言うと、リースが一緒にいた相手は、ただの同級生だった」
「あぁ。やっぱり同級生」
メリッサとマリアンは、やはりそうだったかと安堵した。
あのリースに限ってとは思っていたが、話を聞く限りやはり浮気ではなさそうだ。同級生とたまたまいただけで、何の問題もないだろう。では、何処が大変なのか。
「サーチっていつもあぁだろ? だから、構って欲しくてわざと見せつけてたんだってさ」
マークは両手に頭を乗せ、ソファにもたれ掛かった。
聞いてみれば実にアホらしい話だった。
「何ソレ。ヤキモチを焼かせたかったって事?」
「そういう事」
「あ~」
マリアンは思わず呆れた様な声を出してしまった。
だけど、くだらないとは言えなかった。考えてみるとサーチは、いつも妙に生真面目で真っ直ぐだ。だから、わざとこの生徒会から見える処で見せつけ、自分を本当に好きか試したかったのかもしれない。
「それの何が大変なの?」
「サーチの嫉妬深さが半端なくなった」
「半端ない?」
メリッサとマリアンが顔を見合わせた。
「彼女の周りに男が近付いていると、どういう理由で近付いたのだと身分を調べられ関係を調べられ……排除みたいな?」
「「あ~」」
「俺も例外なく近寄れない」
マリアンが疑問を口にしてみると、マークがお手上げとばかりに両手を挙げ苦笑していた。
どうやら、無関心から超絶な束縛に変わった様だ。極端過ぎる。親友でもあるマークでさえも、ことごとく調査されたとの事だった。
「ちなみに、お前等も調べられているからな?」
他人事の様にしているメリッサとマリアンに、マークは半笑いを浮かべた。
「「は?」」
女である自分達が、何故調査されなければならないのかが分からない。そもそも今更、身分を調査する必要性が見出だせない。
「男はゴミ屑。使えない女は塵」
「……何ソレ」
メリッサは押し黙り、マリアンは唖然としていた。
サーチ曰く、リースに近付く男は問答無用で排除。リースに要らぬ情報や知識を、与える可能性のある女は不利益。どちらももれなく排除だそうである。
「え? リースはそれでいいのかしら?」
「しらねぇ」
マリアンが心配そうに訊いてみれば、マークは空笑いしていた。