第二十九話 それぞれの思惑
「マーガレット様。王太子妃教育はどうなの? やっぱり厳しいの?」
「王宮はどう? 豪華?」
「アーシュレイ様には会った? やっぱり素敵だった?」
「結婚式はいつやるの?」
「結婚したら宮はどこを貰えるの?」
学園の勉学もそこそこに、マーガレットは王城へ通う様になると、周りの女性達から羨望の的になった。
アレク王子と親しくしていた時より、それはさらに強くなり、マーガレットは気分が良かった。
「皆、落ち着いてよ。勿論、教育は大変だけど私は"王妃"になる訳だし仕方がないわ。あ、住む場所だけど、どうやらアレクと同じ王宮だと思う」
「「「きゃあぁっ!!」」」
マーガレットがペラペラと話せば、周りにいた一部の女性からは羨ましそうな声が上がっていた。
ただの下位貴族の少女が学園で王子に出会い愛を育んだシンデレラストーリーに、憧れと羨望の眼差しを寄せていたのだ。
あわよくば、王宮に招待され、自分達もその運に乗っかろうと企んでいるのである。
「馬鹿よね、あの人。何故かすでに結婚する気でいるけど、まだ決まった訳じゃないのよね?」
「そうそう。候補でしかないのでしょう?」
「隣のクラスのカリン様に、内々に打診があったらしいって耳にしましたわ」
「違うわよ。カード伯爵家のリリー様じゃなかったかしら」
「なんにせよ。もうそんな噂があるんじゃ、王太子妃教育なんて進んでないんじゃない? だって、中等部での彼女の成績知ってまして? 8位よ?」
「え? 8位? 別に悪くはないわよね」
「やだ、後ろからよ」
「「「プッ!!」」」
教室の片隅でそんな噂話をされている事に、マーガレットは全く気付いていなかった。
取り囲み羨ましそうな同級生の声や姿しか、今の彼女には見えなかったのである。
自分の言動次第で、王妃の座どころかアレク王子の立場さえ危うい事も。
同級生は祝福している陰で、自分より格下の人間が地位を得る事を妬んでいた。
マーガレットには今、アレク王子という強力な後ろ盾があるから手を出さないだけで、足を踏み外す姿を想像し嘲笑し、待っているのである。
確かにこの中には純粋に、成り上がっていくマーガレットを、祝福する者もいる。
だが、毎日のように自慢話しかしないマーガレットに、人は次第に嫌悪感を抱いていく。
マーガレットは内心、皆の事を鼻で笑っていたとしても、表向きは謙虚で頑張る姿を見せれば良かったのだ。
頑張る姿に絆され、味方は自然と多くなるモノ。
しかし、今の彼女は王妃になれると思い込み謙虚さを忘れ、傲慢とも取れる態度を取るようになってしまった。
万が二にも、彼女が王妃になれたとしても、社交場で席巻するのは、今ここにいる女性達なのである。
次第にマーガレットの愚痴がヒートアップしてきた女性達は、マーガレットには分からない言葉で嘲笑し始めていた。
『メリッサ様が王妃になれば良かったのに』
『次期王妃がアレでは、家は王弟のアーシュレイ殿下を推す事になりそうだわ』
『同じ、家もアレク殿下はないと言ってたわよ』
『アーシュレイ様とメリッサ様。絵に描いた様な夫婦だわ』
『あの2人が国王と王妃だなんて最高じゃない?』
『確かに最高だわ。絶対、アーシュレイ様に国王陛下になって頂きたいわ!!』
こうして、マーガレットの言動は様々な人の耳や口を介し、名のある貴族だけでなく、国民にも伝わっていくのであった。
エストール王立学園はただの学びや遊び場ではない。
貴族の社交場を担った、子供達の社会の場なのである。
その事は、入学式で学園長が真っ先に伝える恒例の言葉なのだが、楽しさにかまけ皆忘れていくのであった。




