第二十三話 友人達の悲喜交々
「久しぶりメリッサ!!」
ひと月振りにメリッサが学園に登校すると、マークとマリアン達が温かく迎えてくれた。
その声に気付いたクラスメイトも、事情を知ったのか集まって来る。意外と好意的でメリッサは驚いたが、次の言葉には苦笑いが漏れてしまった。
「婚約おめでとう!!」
「アレク王子との白紙おめでとう!!」
「いや、俺達もあれはナイってずっと思ってたんだよ。だけど、いくら身分は関係ない学園だといったって、節度はあるし立場上苦言なんて言えないしさ」
「マーガレットさんの方にそれとなく言ったら、アレク王子が出て来るしでどうにもならなかったのよ」
「浮気なんて最低だし、婚約者がいる相手に言い寄るなんてもっと最低だったわ!!」
「だけど、アーシュレイ王弟殿下と婚約!? メリッサ様凄すぎて羨ましくて、私どうしてイイのか分からないわ」
「家にも改めて招待状が来ましたけど、是非出席させて頂きますわ」
「王弟殿下を間近に見られるなんて、眼福ものです。あ! 別に邪な気持ちではないですよ? 憧れと言うかファンというか」
「「「とにかく、結婚おめでとう!!」」」
メリッサが久々に来たものだから、話したい事聞きたい事が溢れて、ある意味モミクシャであった。
まだ婚約段階であって結婚はしていないのに、"結婚おめでとう"って……本人そっちのけで、どれだけ舞い上がっているのだろう。
だが、一通り話すと興奮が落ち着いたのか、皆が優しい言葉をかけてくれた。
どうやら、アレク王子との破談については、誰も言及はしないらしい。
メリッサを案じてというより、聞かなくても事情を知っているからだ。
学園内でアレク王子の浮気を知らぬ者は、モグリだと言われる程。
マーガレットも、婚約者候補に挙がった事は知れ渡っていた筈だが、彼女達へのお祝いムードは一部しかない様だ。
その一部も、マーガレットが王妃になるかもと思惑を持つ人達らしい。
「私、人の結婚式なんて初めてで、実はドキドキしているの!!」
「私もよ!! しかも、色んな方が来るでしょう? もう、なんか今から緊張して」
「ドレスの事なんだけど、宜しければ皆さん一緒に買いに行きませんか?」
「あ!! いいわね。なら、明後日家に来ない? デザインとかも相談したいし、ほら、皆と色も被りたくないし」
「確かに!! 皆、同じ色やデザインでは目立たないものね」
「やだ! 私達の結婚式じゃないのだから、目立ってはダメよ!!」
「「「そうよねーーっ!!」」」
メリッサをそっちのけで、皆は話に花を咲かせていた。
憧れの王弟殿下を間近に見られる好機。そして、各国の要人を迎えた結婚式に、出席出来る事がまずない。
婚約者がいない人は自分を売り込むチャンス。いたらいたで家を売り込むチャンスである。
何より、華やかなパーティーに参加出来る喜びが、彼女達をウキウキとさせていたのだ。
もはや、メリッサの結婚を祝うというより、そこへ出席出来る歓喜が上回っていたのである。
そんな女性達にマークは呆れていたが、婚約者マリアンは瞳をキラキラとさせていた。
「メリッサ。お願いだから、夜会で声を掛けて?」
「え?」
「アーシュレイ王弟殿下を一目見たいのよ!! お願い!!」
隣にマークがいるにも関わらず、マリアンは両手を重ねメリッサにお願いしてきたのだ。
憧れのアーシュレイ王弟殿下と、どうこうしたいと言う訳ではなく、1度近くで願うなら一声かけて欲しかったのである。
「えっと?」
メリッサは思わずマークをチラッと見てしまった。
浮気とは言わないけど、いいのかなと。
「お前、俺と結婚してからはやめろよ?」
仕方がないとばかりに、マークは肩を落として見せた。
今回だけだからなと。実に寛大な旦那様である。
「嫉妬?」
「あのなぁ、逆の立場なら、どうなんだよ?」
とマークはマリアンのおでこをピンと指で弾いた。
「……ぃゃ」
マリアンはポソリと呟いた。
そう言われたマリアンは、マークが他の女性に言い寄るシーンを想像した。
マークが相手を好きかはともかく、他の女性の事を嬉しそうに話すのは嫌だなと思ったのだ。
「な? 憧れにしろ本気にしろそんな事をされたら、あんまイイ気分じゃないだろ?」
「うん」
「だから、結婚したらヤメてくれ」
素直にマリアンが頷くものだから、マークは結婚前なら、その程度はイイよと笑っていた。
「え? 結婚前ならイイの!?」
マークの言い方は、そういう事だ。
自分ならそんな寛大な事は言えない。だから、許してくれる婚約者に、マリアンは驚いてしまったのである。
「だって、ただの憧れだろ? イイんじゃね。俺がサマリー先生ーー」
「サマリー先生!? マーク、サマリー先生の事が好きなの!?」
マークが自分と同じなんだろうから……と例えを出したのだが、それがいけなかった。
マリアンは、思わずマークの胸ぐら掴んで詰め寄った。
「お前と同じだってば」
余りの剣幕にマークは、頬が引き攣っていた。
何故、例えを出して許可したのに、こんな事になっているのだと。
「同じ!? 絶対違う!!」
「なんでだよ。違わないだろうよ」
「だって、サマリー先生、ボンキュッボンじゃない!! あ、マークは本当はそういうのが好みなの? だから、私には何もしてこないの!? 本当はあぁいう人が良かったの?」
「お前、落ち着けって」
マーク、タジタジである。
確かに、サマリー先生のスタイルはエロい。口調も色っぽくて、大抵の男子が色んな意味で憧れる先生である。
だからこそ、例えとして出したのだが、例えた相手が不味かった様である。
マリアンは良い言い方で言えば、スレンダー。悪く言うと、真っ平らなのだ。本人も気にしていたらしく、真逆のタイプを例えに出した事でショックだった様だ。
「マークがサマリー先生を好きだなんて知らなかった」
とうとう俯いて泣き始めてしまったマリアン。
マークは、頭をガシガシ掻いていた。何故、こうなるのか。
「好きじゃねぇよ」
「だって、今好きだって!」
憧れの対象の例えを出して、婚約者の事を寛容に許したつもりなのに、方向が変わっていた。
マークは、盛大に溜め息を吐いた。
「言ってねぇし、あーもう面倒くせぇな」
「め、面倒くさいって!! 私との事をそんな風に思ってたの!? 私はーー」
「お前、少し黙っとけ」
「「「きゃあぁーーっ!!」」」
話が全く違う方向に変わり、弁解するのも面倒くさくなったマークは、マリアンの唇に掠める様なキスをしていた。
メリッサの結婚式の話をしていたクラスメイト達は、急に始まったマーク達の喧嘩に視線を向けていたので、バッチリ目撃した。
何故、喧嘩をしているのかと思っていたら、マークがマリアンにキスを落としたのだ。それも、目と鼻の先で。
もはや、女子生徒は悲鳴みたいな声を上げていた。
普段から恋人らしい仕草をしないあのマークが、そんな事をすると思わなかったのだ。
「マ、マ、マーク!?」
突然のキスに呆然としていたマリアンは、皆の悲鳴に現実に戻り、顔を真っ赤にさせていた。
皆の目の前で何をされたのか、唇に残る僅かな感触に徐々に理解し始めたのだ。
そして、恥ずかし過ぎてどうしていいのか分からなかった。
「ホラホラ、見せ物じゃねぇんだ。お前等、席に着けよ」
マークは恥ずかしがるマリアンを、自分のジャケットで隠し、皆を追い払う仕草を見せていた。
「クッソ! このリア充め!!」
「爆ぜろ!!」
独り身の男達は、嘆きながら罵るのであった。




