第十九話 プロポーズの真相
なんかずっとしっくりこなかったので、タイトル変えました。
タイトル付けるの苦手なんですよ。すみません。
(・∀・)
「な、け……」
父が帰宅し早々、奇妙な声を上げていた。
自分の屋敷のサロンに王弟アーシュレイがいる事に、驚愕したと思えば次はワナワナと震えていた。
それもそうだ。
アーシュレイは帰宅した父に向かい、突然頭を下げたと思えば、爽やかに微笑みこう言ったのだ。
「娘さんを、私に下さい」
ーーと。
「断固お断り申し上げる!!」
珍しく父が、叫んだ。
絶叫とも言ってもイイ。
「何故かな? ニール侯爵」
父の目の前に座るアーシュレイは、怯みも諦めもせずニコリと微笑み返した。
「何故も何もない!! 王太子との婚約が破談になって、貴方との結婚だなんて世間がなんて言うか!!」
だが、父は怒りの余り敬語も忘れ、さらに返していた。
王太子との婚約が破談になるだけでなく、すぐに王弟との結婚だ。他の貴族どころか、世論が妙な勘繰りをすると青筋を立てていた。
「娘の幸せより、世間体か」
「当たり前だろうが!! 娘が醜聞に晒されるんだぞ!?」
「なら、払拭すれば良いのかね?」
「……!」
「甥に愛する人を取られてしまった憐れな王弟が、取り戻した【真実の愛】なんてどうかな?」
「何が【真実の愛】なんだ!!」
アーシュレイがにこやかに躱せば、父は王弟相手だという事も忘れ、声を荒げていた。
それ程に、娘メリッサとアーシュレイの結婚は寝耳に水で、許せないらしい。
「ん、お気に召さない? なら、甥の浮気を慰めそこから始まった【純愛】なんて如何だろう?」
「ふざけるな!!」
アーシュレイがにこやかに言えば、とうとう父はテーブルをドンと叩いた。
アーシュレイがふざけている様に見えたのだ。
「ふざけているのはどちらかなニール侯爵」
アーシュレイは微笑む様子はそのままに、声色だけを低くくした。
「……っ!」
父は、その妙な圧に思わず屈していた。
「親というものは、娘の幸せを願うのが当然ではないのか?」
「私がメリッサの幸せを考えていないとでも?」
「浮気男や知らない相手との結婚が幸せだと?」
妻ローズのいる手前、余計な口は開けないのか、父は押し黙っていた。
「上辺しか知らぬ男、行った事のない土地、見知らぬ家令達、そんな所へ嫁いだ娘が、幸せになると本気で思っているのか? ニール侯爵」
「貴族とはそういうものだ」
ローズとメリッサから目を逸らし、父は無表情にそう言った。
妻や娘が何と言おうと、貴族の結婚なんてそんなモノだと冷たく返したのだ。
「それを言うなら私との結婚の打診なんて、貴族ならあって当然ではないかな?」
アーシュレイは口端を上げて見せた。
メリッサは侯爵令嬢と身分が高い。王子との結婚がある様に、王弟の結婚の打診はあり得る話である。
「それとこれとは!!」
だが、引き下がらない父。
どうしても、アーシュレイとメリッサの結婚は嫌の様だ。
「それ程までに、私とメリッサとの結婚を承諾出来ない理由が? ならば、その明確な理由をご教示願いたい」
「……」
アーシュレイに、そこまで言われると遂に父もグッと押し黙っていた。
強く言えないのか、言いたくないのか。
アーシュレイはそんな父を見て肩を落として見せると、紅茶を一口飲んだ。
「まぁ、落ち着きたまえ、この結婚はただの"制約" に過ぎないのだから」
「は?」
項垂れた父が僅かに顔を上げ、アーシュレイの言葉に眉を寄せた。
彼との結婚が制約に過ぎないのなら、アレク王子との結婚も制約で構わないではないのかと。
フォレッド侯爵は妻や娘がいるのに、思わずそう言いかける所だった。
「アレクとの婚約が白紙になれば、他家はこぞってメリッサとの結婚の打診をして来るだろう。その中にしろ外部にしろ、貴方は早急に彼女と誰かの結婚を承諾するに決まっている」
「……だから、何ですか?」
「そこに、メリッサの幸せはあるのか?」
「……」
そこまでハッキリと言われると、フォレッド侯爵はアリと言いきれなかった。
政略から始まる愛もある。
だが、結果、親愛や家族愛で終わる者も多い。最悪、啀み合いの末に離縁だ。それが幸せかと言われたら、さすがのフォレッド侯爵も疑問が残る。
「制約というのは?」
フォレッド侯爵は、頭を一旦冷やしアーシュレイを見た。
なら、彼の言う制約とやらに愛があると言うのか?
「メリッサ自身が、結婚相手を探すまでの防波堤になる制約だ」
アーシュレイは、父を見据え微笑んだ。
アーシュレイがメリッサに提示した制約とは、この事だったのだ。




