表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王弟殿下の恋姫 〜王子と婚約を破棄したら、美麗な王弟に囚われました〜  作者: 神山 りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/35

第十七話 本当の婚約破棄





 ーーその後。





 アーシュレイ王弟殿下が提案した制約内容に、メリッサの胸は早鐘を打った。

 メリッサにとって悪くない話だったが、すぐに返事は出来なかった。

 その提案は、決して嫌という訳ではない。だが、その制約は彼のメリットが見えない。

 なのに、自分に好機を与えてくれるのは何故か。

 それを訊いたら、アーシュレイ王弟殿下は恥ずかしげもなく、こう言った。





『キミが大切だからだ』





 アレク王子にも言われた事がない台詞に、メリッサの心は揺らいだのであった。




 少し考えさせて欲しいとお願いすれば、勿論だと頷いてくれた。

 ただ、返事に期限は決められていなかったが、早めの方が良いと言って帰って行った。

 父フォレッド侯爵が、婚約相手を決めてしまうかもしれないし、アレク王子とマーガレットの事を精算される可能性もあるからだ。



 父が決めた婚約者に、メリッサは今更異論は告げられない。

 アレク王子とマーガレットのおままごとみたいな関係も、国王や王妃の出方次第ではすぐに終わりを告げるだろう。

 となれば、次の候補が出ない今、表立って白紙になっていないメリッサとの関係は、何事もなかった様に続く事になる。

 父の返答次第でメリッサは、すぐにでもアレク王子の婚約者に戻るのだ。



 もう、自分の人生を誰かに振り回されるのはゴメンだ。

 好きでもない人と、一生同じ道を歩むなんてウンザリする。

 メリッサは今まで流されるままで、考えなかった事、行動を起こさなかった事を後悔していたのである。






 ◇*◇*◇






 ーーその夜。





 父が屋敷に帰宅して早々に、メリッサは書斎に呼ばれた。

 アーシュレイが、自分の留守中に来訪した事を知ったからだ。




「彼は何しに来た?」

 侍女の持って来た紅茶には一切口を付けず、ソファに座った途端にそう言ったのである。

 当然、使用人達や母にも訊いたに違いない。

 だが、聞き耳さえ立てられない場所での会話だ。メリッサ達が何の話をしていたなんて、想像でしか出来ないのである。

 この父の言葉を聞いて、メリッサは感嘆してしまった。

 アーシュレイは、既に全ての可能性を考えた上で、あんな場所で話をしたのだ。

 屋敷からも見通しが良い場所。それは、逆にこちら側も人が来ればすぐに分かる場所だ。聞き耳しようにも近寄れば、すぐにバレてしまうのだ。

 



「少し話をしました」

 さて、どうしようか? とメリッサは考えた。

 ありのままを話しては何の意味もない。アーシュレイが、わざわざ父のいない時間を狙って来てくれた意味が無駄になる。

 だからといって、何も話さないで誤魔化せる訳もない。

「話とは?」

「自宅療養していると耳にしたらしく、お見舞いに」

 わざと困惑した様に答えておく。嘘は言ってはいないが、全てではない。それを今、悟られる訳にはいかない。

「お前に花を持って来たとか?」

「えぇ、王宮の薔薇園で栽培している薔薇でしたわ。アマンダローズではありませんでしたけど、綺麗ですわね?」

 アマンダローズとは、国王が王妃アマンダの何回目かの誕生日に合わせて、品種改良させた王妃だけの薔薇だ。

 数回見せてもらった事はあるけど、アマンダらしい情熱の赤。濃すぎて逆に、引くぐらいの赤さだったのを覚えている。




「アレク殿下がマーガレットさんに、アマンダローズを渡されたのを見た事はありましたが、流石にアーシュレイ殿下はそんな良識外れな方ではありませんよ」

 嫌味も混じりさせ、メリッサはココにはいない婚約者を揶揄ってあげた。

「そうそう、それで思い出しましたわ。つい先日の夜会でマーガレットさんは "エストールブルー" のドレスを着ていらしたわ。アレク殿下はマーガレットさん、いえマーガレット様をお披露目した様なものですわね」

「……」

 アーシュレイとの会話を訊いたのだが、余りにも酷いアレク王子の行動に話が移り、父は渋い顔をしていた。

 アマンダローズを渡した事も、エストールブルーのドレスを贈った事も、調書には載っていた。

 だが、やはり娘メリッサも知っていたのだ。

 エストールブルーを贈るなんて論外だ。しかも、夜会でお披露目したなんてあり得ない。

 父フォレッド侯爵もそれについては憤りを感じたぐらいだ。

 メリッサは夜会でどれだけ恥を掻かされたか想像に難くない。

 だがーー。

 だが、である。




「アレク殿下とは、やはりやり直せそうもないか?」

 マーガレットは王妃には迎えられない。

 次もいない。そう思うと、国を憂いてフォレッド侯爵は聞いてしまった。

「……」

 アーシュレイの言った通りだと、メリッサは思った。

 父である前に、この国の宰相なのだ。

「婚前の浮気の1つ、許してやる事は出来ないか?」

 父のこの言葉に、メリッサは一気に幻滅してしまった。

 アレク王子自身から1度も謝罪の言葉がないのに、何故自分が許さねばならないのだ。我慢する事は美徳ではない。



「お母様に1度、相談しても宜しいですか?」

「何をだ?」

「婚前の浮気を、妻としてどうお思いになられるのか」

 メリッサが提案した途端に、父の声色が変わった。

 怒っているのか、何かあるのか、読めない声色だ。

「訊いてどうする」

「同じ女として、何をお感じになられるのか、1度お聞きしたいのですわ」

 首を傾げて可愛らしく言ってみた。

 母がどう答えたとしても、自分が許せるかは別だけど。

「……」

 メリッサがそう言うと、父は押し黙ってしまった。

 母に訊いて、浮気を許せなんて言う訳がないと、知っているからだろう。

 



「婚前だろうと後だろうと、婚約までしているのであれば、許せませんわよ」

 書斎のドアが、ノックもなくいきなり開いた。

 立ち聞きでもしていたのか、母ローズが意味深な笑いをしている。

「立ち聞きとは非常識だぞ」

 父が不機嫌そうな顔をして母を諫めた。

 だが、母はそんな父などお構いなしにツカツカと書斎に入って来た。

「娘の人生が掛かっているのに、黙っていられますか」

「……」

「メリッサ。浮気は許さなくて宜しい。アレク殿下とは破談で決定です」

「お前、何を勝手に」

 母ローズの満面の笑みに、父は何故かたじろいでいた。

 確かに、満面の笑みだが妙に迫力があって怖いが。




「何故、キチンとアレク殿下とは終わったと公表致しませんの?」

「時期を見てーー」

「時期? 一体なんの?」

「色々あるんだ」

「何が色々ですの? メリッサはその間もずっと好奇な目や、蔑みの目で見られるのですよ!?」

「い、いや、しかしだな」

 父、母ローズの剣幕にタジタジである。

 国を憂うる宰相様も、妻には勝てないらしい。



「わたくしも、あなたがマーシャ? アリス? そんな名前のどこぞの令嬢と浮気していた時は、好奇な目で見られましたわ。そんな辛い思いをーー」

「お、お前!? サーシャの事をーー」

「あら、サーシャでしたの。勿論知ってましてよ? あぁ、踊り子の方も知っていましたけど?」

「なっ!!」

 雲行きはガラリと変わった。

 母はメリッサの事で、思い出したくもない過去と重ねてしまい、ペラペラと話し始めていたのだ。

 聞いている限り、父は母との結婚前に浮気をしていたらしい。しかも、1人ではないとか。

 それも、父はまだ相手の事をしっかり覚えているとか、メリッサは色々とドン引きである。

 母は今までずっと黙っていたのだが、メリッサに自分を重ね苛立ちが復活した様子だった。積年の恨みとばかりに、父に鬱憤をぶつけ始めている。




「……」

 そんな話を聞きたくなかったと、メリッサは衝撃を受けていた。

 政略結婚とはいえ、父はずっと妻一筋だと信じていたのだ。

 その虚像が崩れた瞬間であった。




「大体、何故わたくしが知らないと、お思いになられていたのかしら?」

「……」

「箱入り娘だから分かる訳がない? 甘いにも程がありましてよ?」

 母が睨めば、父が愕然としていた。

 今の今まで、バレていないと信じていたのだろう。瞬きさえ忘れているのだ。

 母は黙っていただけで、許していた訳ではない。

 なんなら、ずっとフツフツと燻り続けていたのだろう。たまたまきっかけがなかっただけで、マグマの様に静かに静かに煮え滾っていたのだ。

 それが、今、沸き出てしまった。鎮火出来るかは、父の言動次第である。




「夜会に行けば、彼女はわたくしに突っかかって来るし、観劇に行けば好奇な目で見られるし、あの頃は本当に殺してやろうかと思いましたわ」

「……コロ」

 父、顔面蒼白、唖然茫然である。

 いつもにこやかな母に、そんな苛烈な一面を見たのだ。

 ちなみに、どちらを殺そうと考えたのかは聞きたくない。



「メリッサ、浮気なんかする男は屑、塵、カスよ」

「……はい」

「ね? あなた?」

「……はい」

 父はもう何も言い返せない様だった。









 フォレッド侯爵は平静を装いつつ、余計な事を言わなければ良かったと後悔していた。

 国王夫妻に言及した時は、父として意見を言ったのだ。だから、浮気は不貞で許せないと強調したが、実は内心は一回くらい……と思っていた。

 だが、今、それを言ったら地雷だ。離縁もある。



 昔はともかく、今は妻一筋。

 フォレッド侯爵は妻に何も言えず、ただただハイハイと頷くしかなかったのであった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ