宗也と奈夏
今日も学校に行かなければいけないのか。
五月蝿い目覚ましが鳴って目覚めるとすぐにそんなことを考えた。
高校二年生になった俺、市川宗也は布団から出て学校へ行く準備をした。
階段を降りてリビングへ出ると中学3年生の妹がご飯を用意してくれていた。
俺には親がいない。俺が小学一年生の時に交通事故で両親は他界してしまった。と言ってもその事故の時には俺は叔父の家にいて、まだ幼かったから事故の詳細はよく分からない。ただトラックに無残に轢かれ即死したというのだけは聞いた。
そこからはお金持ちの叔父さんがお金を出してくれて妹と俺二人で生活しているわけだ。
「お兄ちゃん、早くご飯食べないと遅刻しちゃうよ?」
妹の奈夏はにこやかに笑ってそう言った。
毎朝妹が作ってくれる朝ご飯はおいしい。
両親がいない中、本当によくやっていると思う。あと、俺が喋れる数少ない女子の一人である。
朝ご飯を食べて、家を出ようとすると奈夏が駆け足で玄関に来て言う。
「私もたまには一緒に乗せてよ!」
「二人乗りは危ねえぞ。父さんと母さんみたいになったらどうする」
「………」
ああ、またやってしまった。
俺は本当に話の振り方が下手くそだ。このことで何度今までの人生で失敗したことか。
「しょうがねえな、今日だけだぞ」
「本当?やった!」
奈夏は陽気な女の子だ。
4歳の時に両親が亡くなったというのに強い子だと思う。ただ無理をしてしまうことがよくある。俺が何もできない奴だからな。
妹と俺は同じ中高一貫校の学校に通っている。
15分ほどしてようやく学校に着いた。
「ありがとう、ここら辺でいいよ」
中等部の奈夏は高等部と校舎が違うのでここで下ろした。奈夏は本当に可愛いなあ…はっ、いかんいかん。
妹に見惚れていた。早く行かなければ遅刻してしまう。
汚れた自転車を停めて校舎に入ると陽気な学生の声が聞こえてくる。カップルで登校する者、友達と登校する者、朝練を終えてくる者、生徒数が多いこの学校は様々な生徒がいる。もちろん友達もいない俺は一人で教室に入った。嫌な一日の始まりだ。
昼まで授業を受けると俺はすぐに購買へパンを買いに行き屋上へ向かった。屋上は立ち入り禁止だが、バレることもない。屋上へ続く道のドアを開けるとそこには、
「いつになったら金返してくれるのかなぁ?そろそろ返してくれないと……ね」
金髪でピアスを左耳だけに付けた男と体格の良い強面の男がいた。そして脅されていたのは同じクラスの緒方だった。緒方は背が小さい暗めの男だ。成績には優れているが、運動はできない。いじめられるには格好の標的だろう。
すると、緒方が土下座をして
「明日まで待ってください。明日には返します」
と今にも消えてしまいそうな声で言った。
「明日まで待ってやるよ。その代わり返せなかったらここから飛び降りろ」
何だと?今のご時世そんなことが許されるのか?
俺は今にも飛び出しそうになったが怖くて動くことができない。ああ、やっぱり俺って弱いんだな。
そんなことを思っているとヤンキー二人は屋上から出て行った。
隠れていた俺は性に合わず緒方にこんなことを言った。
「大丈夫か?何があってこうなった。相談なら乗るぞ」