98 『鎚』の勇者ゼスター、アランツィルを尊敬する
ほら、面倒なことになった。
訪問した三勇者のうち、もっともいいガタイをした『鎚』の勇者ゼスター。
その彼が血相変えて、得物のハンマーを振りかざしている。
「ちょっと! 落ち着きなさいゼスター! 相手は見るからにフツーのオッサンなのよ!?」
「フツーではない! アランツィル様をも上回る猛者だというのであれば、それがしの本気をも受けて立つであろう!」
『弓』の勇者だったかな女性が慌てて止めるものの、取り付く島もない。
「いいではないか」
面白そうにクツクツ笑うのは『剣』の勇者ピガロだった。
「レーディの言うことがデタラメなのかホラなのか、たしかめる絶好のチャンスだ。いいからその筋肉ダルマをけしかけて、何秒耐えられるか計ってみろよ?」
「ピガロ! アナタ他人事のように……!」
まあ、挑まれた俺としては堪ったものじゃないんだけど。
面倒くさくて。
「仕方ない」
「ダリエルさん!?」
「受けて立ちましょう。そうしないと彼も納得できないだろうし」
売られたケンカを俺が買ったので、本格的に勝負が成立する。
「ダリエルさん本当にいいんですか?」
レーディが俺に取りすがる。自分から煽ぎ出しておいて。
「こりゃもう一戦交えないと収まらないだろう。だからやるしかない」
「そうかもしれませんが……、でもダリエルさん普段はこういうの極力避けようとしません? どうして今日に限って前向きな……?」
レーディの指摘は正しい。
いつもの俺なら、全力で争いを避けるだろう。もう自分一人の体じゃないんだしマリーカやグランのためにもくだらない理由で怪我したくない。
「でも今回のこれは頼まれごとだからなあ」
「え?」
「アランツィルさんが何故条件を出したと思う?」
この三人の新しい勇者へ『レーディに会いに行け』などという指示を出したのか。
その意味がわからず困惑するレーディを置いて、俺は巨漢勇者と対峙した。
「始める前に聞いておくが……」
戦いをね。
「キミはアランツィルさんに一際思い入れが深いようだな。何か理由でも?」
「それがしは、アランツィル様に憧れて勇者を目指した。アランツィル様こそそれがしが追い求めし勇者の理想形なのだ」
もはや制止も振り切って『鎚』の勇者ゼスターがかまえる。
ガチガチの戦闘態勢。
「誰よりも強く、魔族を滅ぼさんとする強い意志を持つ。その決断を止めることはセンターギルドにすら叶わぬ。その苛烈すぎる闘志に、それがしは畏怖と尊敬を禁じ得ぬ……!!」
そのコメント。
「一度だけ聞いたことがある……! アランツィル様があれほどまでに魔族を恨むようになった理由。生まれたばかりの御子息を奪われたとか。その深い悲痛、憤り。それを知ってそれがしこそ失われた御子息の代わりとなってアランツィル様の支えになりたいと、ひたすら鍛錬してきた」
ふぇー。
……俺これにどうコメント返したらいいの?
「一度は勇者の選から漏れ、アランツィル様のお役に立てぬ我が身を呪い続けた末にやっと再びチャンスを掴んだ。晴れて勇者として戦う第一歩を貴殿との勝負で飾ろう」
ゼスターは、『鎚』の勇者と名乗るだけあって得物はハンマー。
得意なオーラ特性はヒット(打)といったところか。
「そういえば、ハンマー使いと手合わせするのは何気に初めてだなあ」
ゼスターの持つ鉄槌は小振りで、柄も短く片手用といった大きさだった。
勇者として魔王様の下を目指し遠征するぐらいだから、あまりデカいハンマーだと重くて辛いだろうしな。
「参る!」
ゼスターはまず、ハンマーを掌中にて思い切り回転させる。
ブンブンと音が鳴るほど激しく回し、充分に遠心力を付けたところで……。
「食らえぇッ!!」
俺の脳天目掛けて振り落とした。
もちろんそれと同時に俺の体は横にずれ、ハンマーは虚しく地面に衝突。
俺の代わりに直撃を受けた地面の土が吹き飛び、大きな穴を抉り空ける。
「……凄い威力だなッ!?」
背筋がゾッとした。
こんなの生身で直接受ければ体がひしゃげて弾け飛ぶだろうし、仮にガード(守)オーラをまとわせた盾で防いだとしても無傷では免れまい。
勇者に選ばれるだけの実力はあるってことか。
「ゼスター! いい加減にしなさい!!」
『弓』の勇者アルタミルが金切り声を上げる。
「丸腰の一般人にオーラ攻撃を浴びせるなんて気はたしか!? 完全な暴挙よ! せっかく与えられた勇者の称号を剥奪されるわよ」
「そうなってくれれば万々歳だ」
横で『剣』の勇者ピガロが言う。
「あっちの村人も、みっともない逃げ方だな。へっぴり腰が実に滑稽だ。あんなクズをアランツィル級などと誤認するレーディも、勇者にあるまじき粗忽さだ」
と言ってクツクツ笑う。
試す者は同時に試され、選ぶ者は同時に選ばれているとも言う。
俺をクズと評するピガロとやらも、自分の下した評価によって自分の値打ちをさらけ出す。
「愚かなりピガロ」
「何ッ!?」
そんなピガロを真っ先に窘めたのは戦いの場に立つゼスター本人だった。
「仮にも勇者なら、他者の一挙手一投足にて力量を見抜くのはできて当然。その上で彼をクズというならお前の目は節穴だ」
「何だとッ!?」
色をなすピガロ。
それに対してゼスターは見抜いたって言うのか?
今の一合で、俺の実力を……。
「そしてアルタミル、お前も見当外れだ。丸腰の男がこれほど密な闘気を孕むものか」
「えッ!?」
「まるで水を吸った真綿のごとく重い闘気。レーディの見る目はたしかだったようだな。さすがは最初の勇者というべきか……」
……いや。
この人もなんか凄くない?
初手でここまで見抜いてくる人なんて、それこそアランツィルさん以外いなかったんだが。
充分な注意を払って、懐に隠していたヘルメス刀を出す。
伸ばして剣形態にする。
「なんと……」
「ヘルメス刀と言ってな。この近くで採掘されるミスリルで作った武器だ。込められたオーラに反応して形を変える」
「それは珍しい。しかし、その件一振りで我が鉄槌とまともに打ち合えるかな!?」
ハンマーを振り上げ殴りかかってくるゼスター。
たしかに彼の言う通りで、剣とハンマーが正面からぶつかり合えば間違いなく剣の方がへし折られるだろう。
俺は衝突を避け、素早く回避しながら背後へ回り込むとヘルメス刀に込めるオーラの性質を変える。
同時にヘルメス刀の鋭利な刃がふにゃりと溶け、柔らかくしなる鞭へと変わる。
ヘルメス刀、鞭形態。
ヒット(打)特性をもっともよく活かす形態に変わりながら、その鞭打がゼスターの背後へ。
だが……。
「かわした!?」
巨体に似合わず素早いな。
しかし、これで諦めるかと追撃。
また刀身に込めるオーラの特性を変えて、先端鋭いストック形態に。
刀身を伸ばし、矢のような速さで刺突する。
それも防がれた。
重いハンマーの頭部を盾代わりにされれば、か細い刺突は止まるしかない。
「凄いな、ここまで凌がれるとは……」
「いや、貴殿の猛攻も恐ろしいものだ。心底恐ろしい……」
油断なくハンマーをかまえてゼスター言う。
「その武器、オーラ四性質すべてを十全に活かすための武具とお見受けした。最初の剣がスラッシュ(斬)、次の鞭でヒット(打)、さらにサーベルのような形態でスティング(突)を担う」
「素晴らしい分析だ」
って言うか二、三打ち合っただけでヘルメス刀の機能を看破しないでください。
「しかしそれは持ち主自体がすべてのオーラ性質に完全適合していなければ無意味な武器。それを余すことなく駆使する貴殿が得意とするオーラ特性は、斬突打守すべて……!!」
「……」
「世にも珍しき全適性者。……アランツィル様と同じタイプとは」
見抜きすぎじゃね?
なんでこんな人がレーディに負けて勇者になれなかったんだ?
「相手にとって不足なしと心得た。ならばそれがしも、長く秘蔵していた奥の手を出すとしよう」
「えー?」
「アランツィル様の『凄皇裂空』に倣わんと、血の滲む研鑽の末に編み出した必殺技。貴殿はそれを叩きつけるに相応しい。受けてみよ!!」






