96 勇者、増える
見たことをありのままに言うぜ。
勇者が三人いる。
いや、元からウチにいたレーディを含めれば四人か。
「なんで?」
「いや、なんでって言われても……!?」
勇者、四人いる。
ホワイ何故に?
「勇者って一人だけのものじゃなかったのか?」
世界に一人。
一世代にたった一人しか存在しない。
それが勇者というシステム。
唯一無二の勇者が、限られた仲間と共に単身攻め上ってくるからこそ、魔王軍も正面から迎え撃ってきた。
その勇者が……、増殖してる……!?
まさに謎。
『勇者はたった一人だけ』という固定観念を持っていた俺だからこそ、なおさらこの状況に混乱せざるをえなかった。
正式な勇者は今、この世にレーディたった一人だけではないのか?
彼女以外で勇者と言えば、アランツィルさんが真っ先に浮かぶ。
だけど彼は先代勇者で、かつて勇者であったという実績があり、正確には今勇者ではない。
彼が引退したからこそ、新たにレーディが選び直されたのだ。
そのレーディが健在だというのに、なんでまたポコポコ勇者が増殖している!?
「……混乱しているようだな」
新登場した三人のうちの一人が言った。
声の低さや体格からして男のようだが、前髪がやらた長くて顔の半分が隠れているから、いまいち印象が掴みづらい。
「ここで怠け呆けている失格勇者に説明してやろう。センターギルドが新方針を打ち出してな」
あくまで話の相手はレーディなのですな。
俺は居合わせた一般民として引っ込んでいよう。
「たかだか一人の勇者では、魔王を倒すには足りない。だから勇者を増やせばいいのだと」
なんだその単純な発想は?
「そこで我々が選ばれた。かつてお前と共に勇者選抜の式に名乗りを上げ、惜しくも選から漏れたオレたちがな。……なあ?」
前髪長い男から目配せを受けて、他の二人が肯定の態度を返す。
「このゼスター、新たに『鎚』の勇者の称号を賜った」
三人のうちの一人、……二人目が言う。
一人目の前髪男とは打って変わって剛健な、いかにも男性的な印象の巨漢だった。
「一度は選から外れた我が身なれど、新たにチャンスを与えてもらったからには、全力で応じる所存、アランツィル様に恥じぬ働きをするつもりだ」
外見に見合った堅苦しい喋り方をする大男だった。
どこかセッシャさんに似てる気がする。
「アナタが悪いのよレーディ」
そして三人組の最後を飾るのは、これまた見目麗しい女性だった。
体つきの起伏が激しく、冒険者用の戦闘装束でなければ、どこぞの貴婦人と見間違えそう。
自分の身長より長い大弓を携えていた。
「アルタミル……!?」
レーディがその名を呼ぶのに対して……。
「そうよ、センターギルドから新たに『弓』の勇者の称号を賜ったアルタミルよ。……アナタがグズグズしてたせいでセンターギルドはしびれを切らしたの。だからアナタの尻を叩く意味も込めて私たちを送り出したのよ」
「お尻ならさっき叩かれたけど……?」
「えッ?」
「え?」
とにかく続きを。
「……こ、これからは私たち四人で競い合いながら魔王討伐を目指していくことになるのよ! 先を越されたくなかったら少しは慌てることね!」
「こんなところでのんびりだらけている暇はないということだ。ボヤボヤしていたら我らのうち誰かが魔王を倒してしまうことだってあり得るのだがな」
「そんな警告いらんだろう。脱落したいヤツには脱落させてやればいいのだ」
三者三様、様々に語る。
しかしまだ俺には事態を把握できなかった。
仕方ないので隣にいるレーディに耳打ち。
「彼らは……?」
「かつて勇者選抜式の出場者たちです。私は彼らと競い合って勇者の座を獲得しました」
「ほうー?」
「アランツィル様が引退を表明し、そのあとを担うために数百人という猛者たちが名乗りを上げました。……あの三人は、その中でも最終選にまで残った実力者です」
だから、新しい勇者として選び直されたと……?
ただ俺は、かつての勇者候補と聞いて思い出すことが一つ。
前にも、そんな風に名乗るヤツがラクス村を訪ねてきたことがあった。
ノルティヤ、だっけ?
そんな名前のヤツが、オレ様は勇者候補だと傍若無人を働くのでボコボコにしてやったらことがある。
心も強さも三下であったが、今になってまた同じ肩書きを持つヤツが、今度は団体さんで押しかけて……?
「勘違いしないで」
俺の嫌そうな表情に気づいたのか、三人のうちの美女な人が弁明する。
「ノルティヤのことは私たちも聞いています。彼がこの村で行った狼藉は許されざること。私たちからも重ねてお詫び申し上げます」
お?
「ヤツは、勇者となるには未成熟でありすぎた。勇者の名を汚した罪で投獄され、向こう数年は娑婆に出られぬという、安心してくれ」
と筋肉質な大男も言う。
「だからこそあの無能を一緒にされるのはお門違いだ。ノルティヤはあくまで勇者候補、それより上へは進めなかった男。対してオレたちは正式に勇者になった」
前髪がやたら長い不気味な男が威勢よく言う。
「我が名はピガロ。『剣』の勇者の称号を賜ったピガロだ。オレの使うこの剣に、魔王の血がこびりついて錆と化すだろう」
そう言って腰に差した剣を引き抜く。
「レーディ、貴様が勇者に選ばれたのは運がよかっただけ。本来はこのオレこそが勇者に選ばれるはずだった」
「……ッ!?」
「その証拠にお前は、四天王ごとき突破することもできず攻めあぐね停滞してしまった。挙句こんな田舎村に引きこもっている。修行などと称して体裁を保っているが、本当のところはわかっているぞ」
「何がです?」
ノルティヤとは違うと言いつつ、いつかのノルティヤみたいだなこの前髪男。
「お前は自信を喪失したのだ。お前ごとき不才者では勇者の使命を果たせないと気づき、かと言って音を上げることもできない。だからこんな田舎村に逃げ込んだのだろう!?」
また『田舎村』って言った。
俺の村のことを……!
「やめなさいピガロ、はしたないわよ」
得意げに口撃する前髪男を、弓の美女が制する。
「勇者は品格も一流でなければならない、その教えを忘れたの? 今のアナタ、とっても下品よ」
「勇者を名乗るからには、先任者の名声もまた我らが担うことになる。お前の不品行がアランツィル様の名に泥を塗れば、それがしがお前を罰する」
巨漢の人まで注意に回り、少数派に追いやられた前髪男はつまらなそうに鼻を鳴らす。
「ふんッ、品行がなんだ。勇者の使命は魔王を倒すこと。魔王さえ倒せば勇者の意義は示されるのだ……!」
「アナタたちの言うことは……」
仲間内で言い争いが始まりかけ、制止したのはレーディだった。
話を本筋に戻そうと健気に気遣う。
「……大体理解しました。センターギルドは、私が魔王討伐をなかなか進めないのに苛立っている。それでアナタたちを新たに勇者に任命して派遣した」
「そうだ。現状を理解する頭はあるらしいな」
「しかしわからないことがあります」
前髪男……、ピガロという名だったか?
ソイツの挑発を無視してレーディは続ける。
「アナタたちが勇者になって、正式に魔王討伐の任を受けたなら、何故揃いも揃ってここに来ているのです? それこそ魔王を倒すため、真っ直ぐラスパーダ要塞でも攻めればいいではないですか?」
レーディの言うことももっともで、彼女を出し抜いて手柄を独占したければ、それこそ何も言わずに魔王様の下まで突撃した方がいいだろう。
まあ、絶対倒せやしないだろうけどね。
「それは……ッ!?」
前髪男が不満そうに視線を逸らした。
代わって美女の人が言う。
「もちろん、競争に公平を期すためよ」
「公平?」
「アナタがこんな田舎で燻って、何も知らない間に魔王を倒してしまうなんてフェアじゃない。私たちは正々堂々競い合って、誰が最初に魔王を倒すかを決めるのよ!」
絶対倒せませんけどね。
「さあレーディ、休暇は終わったのよ。アナタも今再び勇者として立ち上がり、魔王討伐に駆け出しなさい。私たちと共に。こんな田舎村から飛び出して!」
また田舎村って言いやがったコイツ。






