91 ダリエル、平和を満喫する
本日から連載再会です。またよろしくお願いいたします。
俺の名はダリエル。
色々あった男。
色々あった挙句、現在はラクス村という辺境の一村落にて長をしております。
つまり村長。
つい最近まで我が身辺を騒がせていたバシュバーザ騒動もやっと落着し、平穏も戻ってきたところだ。
アホのバシュバーザが壊滅させたミスリル鉱山復興作業も残っている。
しかし、概ね平穏さを取り戻したと言えよう。
俺も村長としての仕事に没頭し、日々を堅実に過ごして行こうではないか。
朝。
一日の始まりにして爽やかなる時間、俺は出勤する。
「アナタ、気を付けて行ってらっしゃいね」
玄関まで見送りに出てくれるのはマリーカ。
俺をこのラクス村まで導いてくれた女性だが、今では大事な愛妻だ。
「今日は早く帰ってきてくださいね。夕ごはんはアナタの好きなシチューですから」
「わかった。急いで帰るよ」
出がけに『行ってきます』のキスを交わす。
唇と唇で。
「……」
「…………………………」
そのまま無言で体勢を保つこと数十秒。
あまりにも長い口づけに、胸に抱かれた我が息グランくんが『もうよかろう』とばかりに父母の体を交互に叩く。
たしかにこのまま永遠でいるわけにもいかず、唇を離し……。
「じゃあ、行ってくるよー」
「行ってらっしゃーい」
こうして出かける俺だった。
こんな出勤風景を体験するたび、前職だった魔王軍時代を思い出す。
魔王軍に務めていた頃の俺は、『役職:四天王補佐』『階級:暗黒兵士』という非常にアンバランスな状態で、自室は階級の方に則して兵舎の一番粗末な部屋だった。
プライバシーすらないタコ部屋で、他の最下級兵士と共に寝起きして一人で朝食を取り、一人で出勤する。
あの頃に比べたら、今の生活のなんと満ち足りていることか。
誰かに見送ってもらえると言うことは、こんなにも温かいことだったんだな!
家族のいる素晴らしさを噛み締めて出勤。
つっても村長は職業柄、本来は毎日出勤しないんだがな。
主な仕事は、村人からの訴えを聞いて取りまとめることだし。
そんな村長が、たまに朝っぱらから出かけてどこに行くかというと……。
村の外れにある開墾農地へ、だった。
今日の予定は、開墾作業の進行状況を視察すること。
「おお、村長。来ていただいて有り難い……!」
「ご精が出ますねー」
開墾地で鍬を振るっているおじいさんと会話を交わす。
「どうですか進捗は?」
「土が大分育ってきましてなあ。この分なら次の春から種まきできますよー」
我がラクス村では、俺が村長に就任した辺りから農地を広めている。
村の生産量を増やすためだ。
自分で作り出す食物の量を増やす。食物の量が増えれば、より多くの住人を賄うことができる。
今、ラクス村は大いに発展拡大中なのだ。
我が村の先にあるミスリル鉱山。
つい最近まで魔族の支配下にあった重要施設が、故あって人間族の手に渡った。
産出されるミスリルを流通させるのに、ウチの村は重要な経路となって、これまで寂れていたのが急速に賑わってきたというわけ。
ミスリル流通及び加工のため、ここ一年で一気に増加した人口を支えるためにも、食料の確保は喫緊問題というわけだった。
実際、俺が新村長に就任してから滅茶苦茶忙しくなっているのは、ミスリル鉱山復活に伴う村の急速発展が理由と言える。
前の村長だったお義父さん(マリーカの父)も……。
『ワシが村長だった頃は昼寝しながらできる役職だったのにのー。ダリエルくんに代わってもらったのは、いいタイミングだった』
……と抜かしておられた。
ラクス村発展により村長が激務となっているのは仕方のないことで、第二の故郷となった村のために精一杯働こうと決めた俺なのである。
……。
まあ。
激務の原因となったミスリル鉱山の奪還自体、俺がきっかけになったフシもあるのだから。
自分で自分が忙しくなる原因を作っているというか……。
こないだ遊びに来た旧友のリゼートから『ダリエルって、常に忙しくしないと気が済まないの?』って指摘されたこともあったし。
……俺って結局、どこに行っても忙しくなる宿命の下に生まれたんだろうか。
まあ、いいや。
それならそれでラクス村を盛り立てるために忙しく立ち回ろうではないか。
俺に新しい居場所を与えてくれたラクス村に恩返しするためにも。
より豊かに、住みやすい村にするために。
「村長、村長……!」
一人、熱意に自己陶酔していたら、開墾作業中の村人から話しかけられた。
「せっかく視察に来ていただいたんで、よければ野菜でも持ってってくださいな」
「先に開墾した畑から、もう作物が取れるようになりまして。少しですが村長に食べていただこうと……!」
そう言って差し出される編み籠にたくさん詰め込まれたネギやジャガイモ、カブにほうれん草。
こんなに多種多様に量も豊富!?
「いやいや、悪いですよ。こんなに頂いて……!?」
俺は戸惑い辞退しようとしたが……。
「貰ってくだせえ。村長には、いくらお礼してもし足りんので……」
「近いうちになくなるかと思っていた村が、こんなにも賑わうようになったのは村長のお陰ですから……!」
「出稼ぎに行っておった息子も、最近戻ってきましてな。村でも充分稼げるようになりましたから……」
「すべて村長のお陰ですじゃあああ……」
と、開墾作業に従事していたおじいさんおばあさんたちから群がられる。
「……わ、わかりました。じゃあ野菜は遠慮なくいただいていくことにします」
村のみんなが喜んでくれるなら俺もまた嬉しい。
この贈り物は、皆の喜びを共有する証としておこう。
「ああ、村長……」
俺が野菜入り籠を持ち上げると、さらにおじいさんが追加するように。
「これも持っていってくださいませ」
と言って手渡してきたのは……。
「ニンニク?」
「精が尽きますでな。まだまだお若い村長には必要でしょう」
いや、俺ももう三十過ぎましたから、そろそろ体力も陰りが見えてきたというか……。
……だからこそ摂取物による補強が必要なのか?
「ありがとうございます。こちらも頂いていきます」
ニンニクを受け取ると、さらに別の人から……。
「村長! これも持っていきやんせ!」
と押し付けられるように渡される。
何を渡されたのかと思ったら、藤蔓で編まれた魚籠だった。
なんか内側がガサゴソ動いている?
「ってことは……!?」
中を覗くと、魚が入っていた。
魚籠だから魚が入っているのは当然だけど、コイツが中で暴れていたのか……。
しかも、中に入っている魚は……!?
「ウナギ?」
「ウナギは一番精のつく魚ですけえ。夕食にでも食べてください!」
「あ、ありがとうございます……!」
既に受け取っておいて、さらなるものを受け取らないわけにはいかないので貰う。
……でも。
なんか贈り物に法則性出てないか?
ニンニク。ウナギ。
いずれも勢力増強で謳われるものというか…!?
「村長、こっちも受け取ってください!!」
「山芋です! 山から掘ってきました!!」
「スッポン捕まえてきたんですよ! 生き血もありますよ!!」
「蒸留酒拵えたんですよ! 村長是非寝る前に飲んで!!」
「村長のために、イモリを黒焼きにしました!!」
何と言うか……!
皆さん、俺の精力を倍増させようとしていませんか?
贈り物のレパートリーを見るにそういう傾向があるとしか思えない。
一体何故に?
「何戸惑っとるんですか村長、まだ一人目が生まれたばっかりでしょう?」
「まだまだ新婚みたいなもんですから、一息つくには早いですぞ?」
「村の人口を増やすためにも、村長夫妻には率先して頑張ってもらわんと……!」
そう言って村人たちは、何やら下賤な微笑みを浮かべた。
……コイツら、俺とマリーカに早速二人目を作製せよと催促している!?
暗に!?
そんな村人たちの期待に応えるためにも、今夜辺りから頑張ろうかなあと思うのだった。
平和。






