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89 四天王ゼビアンテス、おっぱいを揉まれる

「ねーねー、ねーねーねーねーねー?」


 ゼビアンテスの小娘が、戻ってくるなり俺にまとわりつく。


 ……『戻ってくる』?


 いやダメだろ、コイツがいることが常態になっちゃ。


「ねーねー、ちょっと聞きたいことがあるのだわ? わたくしのためにアナタの時間を割くのだわ」

「やなこったい」


 なんで俺の時間が貴様なんぞのために浪費されなければならんのだ。


 ただでさえミスリル鉱山の復興で大忙しな今日この頃。

 なんとかスケジュールをやりくりして我が息グランくんと遊ぶ時間を捻出できたというのに。


 親子水入らずの時間に割り込んでくるな。


「そー言うなのだわ。わたくしも一緒にグランくんと遊んであげればいいのだわ」


 と言って女、俺の手からヒョイと我が子を抜き去る。


「あーッ!? マイサンッ!?」

「大丈夫なのだわ、この子わたくしにもよく懐いているのだわ。ねー?」


 事実、ゼビアンテスの胸に抱かれグランくんは健やかだった。


 我が子ながらちっとも人見知りしないグランの大物ぶりは将来を期待していいのか心配していいのか微妙。


「あんッ……。 この子抱っこするたびおっぱい揉んでくるのだわ。やんちゃさん」


 そして妙齢の女性に抱っこされると必ず胸を揉む癖は何なのか?

 たまにこの子の将来が本気で心配になる。


「あー……、で? 聞きたいことって何なのよ?」


 俺はヘタに抵抗するよりも早めに用件を済ませて追い払った方が全体的に浪費する時間は少なく済むと判断した。


 なので用件を言え。


「んーとね、今日久々にドロイエとベゼリアに会ってきたのだわ」

「あー」


 それは数日前のこと。

『四天王緊急会議が開かれるから出席してくれ!』と我が親友リゼートが泣いて頼みに来た。

 俺と違ってまだ魔王軍に籍を置いているアイツは、魔王軍存続のため身を粉にして働かねばならない。


 ゼビアンテスは現四天王の一員なのに職場放棄してウチに入り浸っているので、いい加減職場に顔を出してくれと土下座しに来た。


 しかし自分のことしか考えないゼビアンテスは拒否。


 俺が一緒に土下座してもなお応じてくれなかったので最後の手段としてマリーカにお願いし、トレイでボッコボコに殴ってやっと送り出した。

 そして今日帰って来た。


「ほーん、そうか、あの二人元気だった?」


 俺は特に興味もないけど付き合い程度の返しをする。

 自分を解雇してくれた元上司、いい話にしても悪い話にしてもリアクションが取りづらい。


「ドロイエが精神を病みつつあったのだわ」

「何があったの!?」


 タイミング的にはバシュバーザが死んだので、それに伴う方針転換でも話し合うんだろうと推測していた。


 ゼビアンテスの土産話を聞くところによると、案の定改めての一致団結を確認しあい、ラスパーダ要塞の警備をより万全とすることで方針が統一されたそうな。


「まー、地味だけど正しい戦略なんじゃない?」


 ラスパーダ要塞は、勇者が魔族領に侵攻するため絶対確保しておかなければならない要所。

 そこを死守するかぎり魔王軍に負けはない。

 勝ちもないけど。


 ここで名うての暗黒軍師でもいたら、要所を確保しつつ硬軟様々な手を織り交ぜて人間族側に揺さぶりをかけるだろうが、そうした知恵袋は当代の魔王軍にはないはず。


 無い知恵を絞るぐらいならできることを確実にこなしていった方が、効率がいい。


「……ドロイエ様は、よくやっている」


 俺が残したたった一つのアドバイスにしがみついて、要塞を堅守。

 一番重要な部分を見抜いて、そこだけに全力を注ぐのは、千の策を同時進行するよりも現実的で適切だ。


「んでー、わたくしも時々要塞の守備に入ることになったのだわ」

「うん、入りなさいよ」


 って言うか時々じゃなくて毎日入れよ。

 今までサボってた分、仲間に楽させてやれ。


「えー? 嫌なのだわ。勇者なんか攻めてくるわけないのに、なんで無駄な警備なんてしなきゃなのだわ?」


 うん、まあ、そうなんだけど。

 当の勇者があっちで素振りしてるもんねえ?


「じゃあ何? 結局お前は俺に何が聞きたいの? サボりの上手い口実?」

「そんなの必要ないのだわ。この四天王『華風』のゼビアンテス。サボる時は堂々と理由もなくサボってみせるのだわ!」


 ちなみに我が息グランくんは、この間もずっとゼビアンテスにだっこされて彼女のおっぱいを揉みまくっていた。


「…………じゃあ、何?」


 何が聞きたいの?


「ラスパーダ要塞の上手い守り方を教えてほしいのだわ!」


 ……。

 うん?


「アナタ、先代から補佐としてあの要塞の警備に就いていたのだわ! 効率的な守備兵の運営法とか、思わぬ裏ワザとか知ってるはずなのだわ!!」


 ……。

 ええはい。

 そりゃ知ってますが……!?


「なんか悪いもんでも食ったの!?」

「物凄い失礼な言われようだわ!!」


 いや、だってそう思うでしょうよ!?

 ゼビアンテスが効率のいい仕事のサボり方ではなく効率のいい仕事の進め方を学ばんとするとは!?

 マリーカのトレイで頭叩かれ過ぎたか!?

 大丈夫? 治癒術師に診てもらう!?


「正気を疑うのも仕方ないのだわ。ここは詳しく話を聞くのだわ」


 おう説明してくれ。

 でないと俺はお前の正気を疑うしかない。


「最近気づいてきたんだけど、ドロイエとベゼリアの二人……」

「うん?」

「わたくしのことをアホだと思ってるみたいなのだわ」


 やっと気づいたのか。


「これを屈辱に感じないほどわたくしの頭はハッピーではないのだわ。そこで今の状況をチャンスに変えて、わたくしのインテリジェンスなところをアピールしていきたいのだわ」


 あー、それで。


 俺直伝の用兵術とか要塞の裏の裏まで知り尽くした水も漏らさぬ守備を披露して……。

 ドロイエ様やベゼリア様から見直してもらおうと……。


「カンニングじゃねーか!?」


 俺の知恵を拝借してるから、お前自身の実力じゃ全然ねえじゃねーか!?


「ダメだよ、他人の力を自分の力のようにして振る舞ったらバシュバーザみたいになっちゃうよ……!」

「うっぐ、ボディブローのように腹に響く言葉なのだわ……! でも大丈夫! わたくしは二人をおちょくるために力を借りるのだから、セーフなのだわ!」


 何がセーフアウトの基準なのかわからない。


 まあ、話を聞けばドロイエ様も要塞警護に相当負担がかかっているようだし、このアホを通じて策を授けて、いくらか楽をさせてあげたいなあとも……。


「でもなあ……」


 別の観点から、俺は危惧を感じる。

 俺は既にラクス村に居着いて所属は人間側になっている。それなのに魔族陣営に肩入れして問題ありはしないかと。


「できれば俺は、勇者にも魔王軍にも肩入れすることなく静観していたいんだよなあ。それが双方への義理立てにもなる」

「そういうことなら安心なのだわ! ちゃんと人間側にも配慮できるのだわ!」


 え? どういうこと?


「ここでこの子も一緒に聞くんだから」

「え? 何です?」


 気づけば素振りを終えたレーディもこっちに来ていた。

 ……。

 たしかにさあ、守り手だけじゃなく攻め手まで一緒に聞いてれば手の内丸わかりでどっちにもプラスにもマイナスにもならない気がするけど……。


「だったら最初からやらなくていいんじゃ……」


 って気もする。

 だがドロイエ様の精神的負担を軽くしてあげるためにも、効率のいい守り方はゼビアンテスを通じて授けておくか。


 というわけで。

 急きょゼビアンテスとレーディを並べて緊急講座『俺流』攻城&守城戦の極意(ラスパーダ要塞編)を伝授してあげた。


 途中で二人とも泣き出してきたけど徹底して叩きこんだ。

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