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08 ダリエル、駆けつける

 依頼書で外見特徴は確認してあったので、一目見ただけで確信できた。


 あれがブレイズデスサイズ。


 目撃情報があっただけで、当該エリアだけでなく周辺にまで警告が発せられる危険モンスター。


 でも、あれが出没したのは隣街の担当エリアじゃなかったのか!?

 何故こっちにいる?


 俺もう、マリーカから教わって地理把握してるからわかるぞ。

 ここはまだラクス村の担当エリアじゃないか!


「ひぃいうううーーーーーッッ!?」


 しかも大蛇が進む先には、これまた見覚えのある男の姿。

 ガシタだ。


 無謀にも挑みかかったのか、それとも不幸に遭遇しただけか。

 どちらにせよ今のアイツは大蛇に狙われた哀れな獲物以上のものではなかった。


「……ッ!? 怪我しているのかッ?」


 そう思うほど、ガシタの逃げ足は遅い。

 あれでは俊敏な大蛇から見撃ることなど到底不可能だろう。


「おおおいバカ蛇! こっちだ!! こっちに来いッッ!!」


 大声でこちらの存在を知らせるが、注意を向ける素振りもない。

 弱った獲物だけをひたすら追い続ける蛇。


「脇目もふらずか! 判断正しいな!!」


 蛇なんか褒めてもしょうがないけど。


 俺も一目散に駆け出した。

 一瞬でも早く追いつこうとするが、ガシタは怪我しながらも必死で逃げ、蛇がそれを追い、俺がさらに追いかける形なので簡単に追いつけない!


「あぐッ!?」


 ガシタがこけた!?

 これで追いつけるけど、蛇もガシタに追いつく!?


 ざざざざ……ッ、と不気味な音を立てて、地を這い迫る大蛇。


「来るな! 来るなああッ!?」


 ガシタの得意武器は弓矢らしい。


 手持ちの限りの矢を飛ばすが、転んだ体勢からの射撃では、まともに狙いがつくわけない。

 ほとんどの矢があらぬ方向へ飛んでいく


「きゃああーーーッ!?」


 それでも一射程度のまぐれ当たりはあった。

 蛇の体表に命中した鏃は、瞬時に弾き飛ばされ何の意味もなさなかった。


「鱗が硬い……!?」


 俺は全力疾走しながら、つぶさに観察する。


 ガシタの矢もオーラで強化されていたはずだが、それすら通じないほど蛇の防御は堅い。

 それがあの蛇が最大限警戒されてる理由。


「いやああーーーッ!? 助けてえええーーッ!?」


 万策尽きたガシタは身を丸め、縮こまることしかできなかった。

 怯えたひな鳥になったガシタへ、大蛇は牙を剥いて襲い掛かる。


 だが……!


「待てぇーッ!!」


 間に合った。

 一生懸命走った結果、蛇の牙が突き立てられるより前に追いつくことができた。


 以前の俺なら、そこで終わりだった。

 魔王軍にいたのに魔法も使えない俺では、モンスターに対抗する手段など何もない。


 しかし今の俺には剣がある。

 オーラによる攻撃がある。


 しっかりとスラッシュ(斬)のオーラをまとわせた剣で、大蛇のウロコを斬り裂いた。


「よしッ、斬れた!」


 ガシタのオーラでは足りなかったが、俺の剣なら通じた。

 でも浅い。

 即死させるにはまだ足りない……!


「シャアアアアアアッ!?」


 大蛇は喉を鳴らしながら身をくねらせる。

 反撃はすぐに来た。

 うなる尾が、俺に迫る。

 丸太のように太い。

 直撃。


 が。


「効かないぞ……!」


 右手で尾を受け止める。

 俺の腕には、マリーカが用意してくれた手甲がある。

 これを極小の盾と見立てれば、ガード(守)のオーラを通して防御することができる。


 本当なら即死の威力だろうが、完全に受け止めることができた。


 しかし相手も引き下がりはしない。


「シャアアアッ!!」


 尾の次は頭が襲ってくる。


 一撃目で動きを止めたところに、より強力な牙でとどめを刺す気か。


 剣を持っている右腕は、尾を防ぐために動かせない。

 残るは左腕。

 左手が握るものがあった。


「どんなものでも武器になるんだぜ……!」


 石。

 蛇やガシタを追いかける時、咄嗟に拾ったものだ。


 硬い石は、振り下ろせば鈍器になろう。

 ヒット(打)のオーラを通して硬度を上げる。そして飛び道具をブーストするスティング(突)のオーラも混ぜ合わせて……。

 投げた。


 投石は、迫る蛇の頭部に命中。

 左目を破って頭内部に入り込む。

 貫通することはなかったが充分だった。脳にまで届いたろう。

 それが致命傷となった大蛇は、すぐさま力を失って崩れ落ちた。


「やった……!」


 まだ気を緩められない。

 縮こまるガシタへ駆け寄る。


「大丈夫か!? 怪我は……!?」


 やはり足に傷を負っている。

 その傷の形を見ると……!?


「ッ!? 噛まれたのか!?」

「ダメだあああ……!? もうオレ死んじまうよおおお……ッ!?」


 ブレイズデスサイズは、大蛇であると同時に毒蛇だ。

 その牙を通して毒を注入し、焼けつく痛みによって獲物を絶命させる。


「毒が、毒が回る……!? 死にたくない、死にたくないいいい……ッ!?」


 日頃の威勢はどこへやら。ガシタは子どものように情けなく泣きじゃくるばかりだった。


「もうダメだよお……! 解毒剤もないし、村に戻ってる時間もねえ……! その前に毒が回っちまううう……!」

「安心しろ、解毒剤ならある」

「へ!?」


 出る時にマリーカが持たせてくれた小さな薬箱。

 その中に入っているのは毒消しの妙薬だった。


「相手が蛇だって聞いて、マリーカ気を利かせてくれたんだ」


 丸薬をガシタの口に押し込む。


「うぇ……、苦い……、助かる? 助かる……!?」

「この薬はな。森で摘んだ薬草を材料にして作ったものだ。お前が受けるのを拒否したクエストで摘んだ」


 マリーカがこの場にいたら『こんなヤツに飲ませる薬なんてない』とか言うかもしれない。

 いや、さすがに言わないか命がかかってるんだし。


「お前が侮っていたクエストで得たものが、お前の命を救ったんだ。この世に無駄な仕事なんてないんだぞ」


 ……はっ? いかんな?

 説教臭い口調になってしまっている。

 またオッサンとか罵られてしまうか? と警戒したが。


「ううう……! うううううう……!?」


 ガシタも、さすがに余裕がないのか泣きじゃくるばかりだった。

 悔しさの涙か、命を得た安堵で嬉し泣きか、それともただ痛いだけなのか。

 とにかく若い生意気男は嗚咽に呻くばかりだった。



 それから数日後。


「お疲れ様ですアニキ!!」


 ガシタから懐かれた。


 森から彼を背負って連れ帰り、治療をして安静に。

 完治にはまだ至らぬが、治療に専念すれば早くに復帰できるらしい。


「いや、挨拶はいいから。安静にして早く傷を治してね?」

「はいッ!! アニキは恩人です! 一日も早く全快してアニキの下で働きたく思います! よろしくお願いしますアニキ!!」


 どういう心境の変化?

 生命の危機を体験したとなれば、多少は思うところもあるのだろうが。


 この騒動を経て、村の乱暴者を改心させたと俺の評価も上がり、皆からの信頼も上がった。


 魔王軍を追い出されて彷徨うままにたどり着いた村だが、段々と新たな故郷になりつつある。

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