88 ゼビアンテス、久々に他の四天王と会見する(四天王side)
四天王『沃地』のドロイエ。
四天王『濁水』のベゼリア。
四天王『華風』のゼビアンテス。
当代四天王が勢揃いするのは実に久々のことだった。
何ヶ月ぶりであろう。
本来これにもう一人加わってこそ真の勢揃いになるのだが、その一人はもう永遠に現れることはない。
だから三人で勢揃いなのだ。
「……バシュバーザは本当に気の毒だった」
まずドロイエが口火を切る。
「ヤツは、けっしてつきあい易い相手とは言えなかったが、それでも同じ四天王の同志だった。ヤツの冥福を皆で祈ろうではないか」
バシュバーザの死亡は、速やかに魔族領全土に亘って発表された。
ただ死因が今一つハッキリしない。
病死なのか、事故死なのか、敵と戦い名誉の戦死を遂げたのか、よくわからない。
晩年は四天王の責務も放棄して部屋にこもっているような輩だったので、どうせ不名誉な死に様だったからあえて伏せられているのだろうと誰もが察した。
「……はッ、あんなヤツ死んで当然なのだわ」
それこそ久々に会合に出席したゼビアンテスが言った。
故バシュバーザ同様、当代四天王の問題児とされる一人である。
「ゼビアンテス! 故人に対して、その口ぶりはあんまりだろう! 慎め!」
四天王ドロイエが色を成して窘める。
昨今の活躍ぶりから、当代四天王リーダー格の地位を盤石としている彼女であった。
今日の会合も、彼女が主体となって進められている。
「あのアホがやらかしたことを思えば罵られて当然なのだわ。アイツは多くの者たちの殺したいヤツリスト、ナンバーワンの座に輝いているのだわ」
対してゼビアンテスは、今なお当代四天王の問題児として認識されている。
重大な任務を賜る四天王だというのに勤勉ではなく、いつもどこかで遊び呆けている。
酷い時はどこにいるかすらまったく不明で、緊急時の意思疎通すらままならない。
「随分とのん気だねえ。自分の置かれている立場がわかってるのかいサボり魔さん?」
ベゼリアが久々に皮肉屋の本領を発揮する。
「キミだってバシュバーザ同様、『役立たずの四天王』という烙印を押されているんだぜ? バシュバーザが死んだついでにキミのことも処分しよう、って話になるかも、とか考えないのかな?」
「それならそれで別にかまわないのだわ」
かねてからの持論を繰り返すゼビアンテス。
「わたくしは元々なりたくて四天王になったんじゃないから、クビにされてもいいのだわ。それよかベゼリア、アナタこそ立ち回りがダサいんじゃないかしら?」
「私かい?」
「四天王の評価が落ちた途端ドロイエに付いて真面目ぶるなんて、皮肉屋の看板には似合わないのだわ」
「私は元から真面目なつもりだったんだがね。それにキミと違って四天王の座に執着があるんだ、私は」
「器のちっちゃいヤツだわ」
やはり一堂に会すると、皮肉や嫌味の飛び交う緊迫した場になってしまう。
二者の舌戦を眺め溜め息をつくのは、今や四天王の正式なリーダー格ドロイエ。
「そこまでにしろ」
とはいえ、まだリーダーの風格を発揮するほどには慣れていない。
「ベゼリアの協力には大変助かっている。彼の援護なくしてラスパーダ要塞の防衛はありえなかっただろう。ゼビアンテス、お前の力も貸してほしい」
「そしてどうするのだわ?」
「無論、ラスパーダ要塞を完全防衛するのだ。現在勇者の動向は不明であるが、いずれ再び姿を現し、攻めかかってくるは必定。今こそ四天王の力を結集し、完全無欠の迎撃態勢を整えるのだ!!」
「なんで?」
「なんでって……!?」
「レーディちゃんは、しばらく要塞には来ないのだわ」
「は?」
その発言に、ドロイエだけでなくベゼリアも眉を寄せた。
「ゼビアンテス……、それはどういう意味だ?」
「へ?」
「レーディとは、当代の勇者の名だろう? 何故勇者が要塞に来ないと言い切れる? まるで勇者の動向を把握しているかのようではないか?」
「…………」
尋ねてられて、ゼビアンテスはハッと気づいた。
ここ最近ゼビアンテスが入り浸っているラクス村には、問題の勇者レーディも修行のために滞在している。
ダリエルの強さに感銘を受けたレーディは、まだしばらく修行を続けると言っていた。
修行完了するまで魔王討伐に動くこともないだろうから、それまでは安心だと確信しているゼビアンテスなのである。
「………………」
そこで彼女はふと思った。
レーディとの交流を含めたラクス村での出来事を、眼の前の二人に話せばきっと驚くであろう。
凄く驚くであろう。
勇者の所在も判明し、今すぐ要塞へ攻めてこない確信も取れるので余裕も生まれるはずだ。
こんな有用な情報を提供したゼビアンテス本人の評価も上がり、皆から見直されることであろう。
そこで、彼女は言った。
「いや、知らないのだわ」
「えー?」
「何となくそう思っただけなのだわ。勘弁なのだわ」
『今はまだ黙っていた方が面白い』。
ただそれだけの理由で、ラクス村で遭遇したすべてのことを秘匿することにしたゼビアンテスであった。
「ゼビアンテス! 貴様! 憶測だけでものを言うなよ会議の場で!!」
「ここで決まったことが魔王軍全体の方針に関わることだってあるんだからね! あくまで! 確定したことだけを! 言って!!」
「あはははは、ボロクソに言われ放題なのだわー」
自分が知ってることを他の者は知らない。
この状況が案外優越感を発生させて愉快であったので、ゼビアンテスはまだまだ口を閉ざすことにした。
「まあ、迂闊なことを言ってしまって、ごめんちゃいなのだわ」
「なんだい、キミも素直に謝罪が言えるんだねえ。いつもそれだけ可愛げがあればいいのに」
「はッ」
ドロイエもベゼリアも『なんでコイツこんなに勝ち誇った表情なんだろう?』と疑問に思うのだった。
「それよりも、これからどうするのだわ? 具体的な方針が聞きたいのだわ」
「程なく、魔王様の名の下にバシュバーザの後任が選び出されるだろう。その者も加え、四天王一丸となってラスパーダ要塞を堅守する」
「堅守? 守るだけなのだわ?」
「仕方なかろう。私には、勇者対策において他に妙案が浮かばないのだ」
ドロイエが忸怩たる表情で言った。
「情けないことだ。結局四天王と言えど策略面でこの程度の見識しかない。私たちは魔法の強さのみで集められ、軍隊をいかように運営するか、どのように敵の裏をかくか、その知識に欠けている。それをこの一年、嫌と言うほど味わった」
「元々四天王は絶大な魔法力を基準に選ばれるんだから、それでいいじゃない。専門外のことまで期待されても困るんだわ」
「それでも頑張っちゃうのがドロイエのいいところであり悪いところなんだ」
四天王三人、口々に思ったままを言う。
「……いや、この我々の欠点についても本当はちゃんとフォローがなされていたはずなんだ。ダリエルだ」
「あー」
「あの有能な補佐官が戦略面政治面を完璧にサポートし、私たちが充分に実力を発揮できる状況を作り出す。それが最初に想定されていた最新四天王の理想形だった」
しかしその理想の形をいきなりぶち壊しにした人物がいる。
バシュバーザ。
彼がダリエルを独断で解雇したことが、歯車が噛み合わなくなった始まりではなかったか。
「ダリエルの解雇にはキミも賛成したよね」
「はぁー? それならアンタだって同じなのだわベゼリア。まずバシュバーザのアホが言い出して。次にアンタが賛成したから、わたくしも同じ側に回っただけだわ」
「多数派の意見についただけかよ」
「あのあと宝石商が宝石を見せに来る予定だったので、早めに会議を切り上げたかったのだわ」
「解雇に賛同した理由それだけ!?」
この場にダリエルがいたら泣き出しそうな内容であったが、過ぎ去ったことを問い返しても不毛である。
新リーダー、ドロイエは結論を下す。
「私は、再びダリエルを四天王補佐として迎えようと思う」
「えー?」
「皮肉にもバシュバーザが死んだことで、彼に否定的な意見はなくなった。今こそダリエルを四天王補佐に戻し、完璧なサポートを実現してもらおう」
「ダリエルと話はできるのだわ?」
ゼビアンテス、一応聞いてみる。
「いや……、実のところ随分前から探させているのだが、行方が知れない。お前たちからも私財を出して捜索に協力してくれないか?」
「仕方ないね、リーダーの指示とあっちゃ逆らうわけにもいかない」
意外と素直に同意するベゼリア。
その横でゼビアンテスが難しい顔つきをした。
改めて確認するが、ゼビアンテスはダリエルの居場所を知っている。
というか彼の住居から、ここ四天王の会議場へとやってきたのだ。
ここで『ダリエルの居場所なら知っているのだわ』と言えば私財を投げ出すまでもなく、すぐさま問題解決する。
しかし、やはりそれでは面白くない。
既に正解を知っている自分が、まだ何も知らない者たちがまったく見当違いを探している様を眺めるのは、とても楽しいだろうと思うゼビアンテスなのである。
「それでいいなゼビアンテス!? お前も四天王に残りたいなら協力してもらうぞ!!」
「……わかったのだわ」
「なんで半笑い!?」
大体の者はもう気づくことだろうが……。
ゼビアンテス、相当性格が悪かった。






