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75 バシュバーザ、袋叩きにされる

 その時だった。

 俺たちのいるこの場に、一陣の突風が吹きこんできた。


 力強く踏ん張っていないと吹き飛ばされそうな強風。

 その風に乗って飛び込んできた二つの人影。


「グランバーザ様、ゼビアンテス……!!」


 バシュバーザ様を問い詰めるため魔王城に戻ったはずの二人が今再び舞い戻ってきた。


「チッ、もう追いついてきたか……!?」

「四属性最速の風魔法を舐めるのではないのだわ!!」


 自分とグランバーザ様を乗せてここまで風を吹かせたのはゼビアンテス。

 四天王にて『華風』の称号を得ている根拠を見せつける。


 またそれとは別に……。


「やはりここだったか……!」


 グランバーザ様は緊迫した表情で御子息に向かい合う。


「グランバーザ様……!」

「見ての通りだダリエル。この一連の災厄を引き起こしたのはアイツだ。我が不肖の息子。私の恥だ……!」


 心の底から悔いるように搾り出されるグランバーザ様の声。

 これだけ偉大な御方を、ここまで沈痛に落とし込むとは。


「バシュバーザ様、親不孝が過ぎますぞ」


 俺は厳しく放蕩息子に向かい合う。

 しかし相手は聞く耳持たなかった。


「煩い! どうせ父上も殺すべき罪人だ! ダリエル、お前を殺したあとで、ここにいる全員を殺してやるううううッ!!」

「……ッ!」


 ここまで堕ちていたとは。

 俺は舌打ちを堪えることができなかった。


「さっきから殺す殺すと言っているが……!」


 もはや戦いは避けられないのだろう。

 その前に問いただしたいことがあった。


「何故そんなにも俺を殺したいのです? アナタから殺したくなるほどの恨みを買った覚えはないはずですが?」


 むしろ恨むのなら俺の方ではないか? とすら思う。


 元々魔王軍に務めていたのを、ある日突然クビにされたのだから。

 俺は実行しないし実行する気も起きないけれど、復讐の動機にだって充分なるのではないか。


 なのに何故、解雇した方が解雇された側に復讐しようというのか?

 理不尽を感じる。


「当たり前だ! お前が全部悪いのだ……! ミスリル鉱山が歯向かったのもお前のせいだ……!」

「それは……!」


 アナタが鉱山で働くノッカーたちに無茶苦茶なノルマを押し付けたからでしょう。

 どんな者でも極限まで追い詰められれば歯向かう、それを知らないアナタの迂闊さが元凶だ。


「このミスリル鉱山にお前がいる……! それがすべてを物語っている! サラマンドラの目を通してお前の姿を確認した時、すべてが腑に落ちたのだ!」

「何が?」

「ミスリル鉱山の反乱を起こしたのはお前だ! お前が裏で糸を引いていたのだろう!! お前が暗躍して、鉱山の下等種族どもを誑かして反乱するよう仕向けたのだ!!」

「んー!?」


 ……なんて言えばいいだろう。

 ノッカーたちによる反乱は、たしかに俺が関わっていないと言ったらウソになる。


 怒り心頭で暴動起こした彼らを助けたのも俺だし、そのあと彼らと人間族との渡りをつけたのも俺だ。


 しかし根源的な原因はそこまでノッカーたちを追い込んだことにあり、俺はたまたま通りすがって義のある方に加勢した。ただそれだけに過ぎない。


「ダリエル……、どうせ解雇された腹いせに陰謀を巡らせて、ボクに嫌がらせでもしたかったのだろう……! なんと卑劣、なんと陰湿な行為……!」


 でもご本人は聞く耳持ってる様子がない。


「たしかにボクはお前をクビにしたが、それまではお前を雇っていた! お前の主だった! 忠誠心も恩義もあるはずだ!! それを忘れてボクに盾突くなど、なんて恩知らずなヤツだ!!」

「だから殺すと?」

「そうだ! これは報復ではない! 正統な裁きであり刑罰だ! ボクはお前の元主としてお前の悪事を裁くのだ! 死という最大の罰をもって!」


『勝手な物言いだなあ』としか思えないが、それを言ったところで通じる相手ではないだろう。

 ずっと前からそうだった。それこそ俺が四天王補佐として魔王軍に務めていた時から。


 この人は自分の言うことだけが正しいと信じ込んで、俺の助言など耳に入れたりしなかった。

 あの日の徒労感が思い出される。

 何を言っても受け入れられない。意味のないことに一生懸命にならなければならないあの日々を……。


「戯言もそこまでにするのだわ」


 そこに、斬り裂くように割って入る声がした。

 この声は。


「バシュバーザ、アンタの言ってることは子どもの我がまま以下なのだわ」

「ゼビアンテス!? いきなり何を言い出す!?」


 風の四天王にして、バシュバーザ様の同僚であるはずのゼビアンテス。

 彼女からの口撃は、それこそまさかの予想しがたいものだったろう。


「ダリエルはよくやってくれていたのだわ。言うことはすべて的確で、気配りも行き届いていたとドロイエが言っていたのだわ」

「何を言うゼビアンテス!? キミとてダリエルの解雇に賛成したではないか!?」

「それが間違いだと、今ならわかるのだわ。そして間違いを認めないバシュバーザ、アンタは愚か者なのだわ!!」


 俺のことを擁護してくれる声はたしかに嬉しいが、それを言うのがよりにもよってゼビアンテスだと『なんだかなあ……』って感じになってしまう。

 手の平返すタイミングが神懸ってるよね!?


「私は部外者ですが……」


 次に言うのはレーディ。


「……アナタの言っていることが子どもじみていることだけはわかります。自分勝手で道理のない。アナタのような人が宿敵である四天王の中にいるなんて、落胆を覚えます」


 宿敵勇者からも呆れられ、立つ瀬のないバシュバーザ様。


「そうだそうだ! なんだかよく知らねえが、アニキはお前みたいなクソガキに見下されるような安っぽい御方じゃねえぞ!」


 ガシタまで!?


「村長は偉いんだ!」

「優しい上に頼りがいがあるんだぞ!!」

「お前よりもいっぱい有能なんだ!」


 勢いに乗って他の冒険者たちまで声を上げる。

 俺とバシュバーザ様の因縁についてよくわかってないだろうに、気分で乗っかってる。


「……もうわかったろうバシュバーザ」


 極めつけに声を上げたのは実父たるグランバーザ様。


「他者の目から見て、お前がどれほど見苦しく映っているか。苦言を聞けぬようになれば、上に立つ者としていよいよ終わりだぞ?」

「それ以前に、これだけの数に囲まれてまさか勝つ気ではいるまいな?」


 アランツィルさん続いて言う。


「ここに集った誰もがお前に敵意を持っている。お前がどれだけ狂った殺意を持っていようと実行など叶わぬ。大人しく降参するんだな」


 俺を始め、レーディと勇者パーティ、ガシタ率いる地元の冒険者たち、伝説を築き上げた両雄グランバーザ様とアランツィルさん。


 これだけの戦力を敵に回して、勝てると思うならそれはたしかに狂人だろう。

 しかし目の前にいる人の、正気は怪しい。


「くく、くくくく……」


 その証拠にバシュバーザ様は不敵に笑いだす。


「お前たちこそわかっているのか? お前たちが何を敵としているのか? ……なあッ、炎魔獣サラマンドラ!!」


 バシュバーザ様の呼びかけに応えて、空に待機していた火竜が雄たけびを上げる。


「まさか忘れていたか!? ボクが最強最悪の魔獣を従えていることに! サラマンドラがいる限りボクは最強で敵はない!!」

「バシュバーザ! やめるのだ! それ以上魔獣と意識が混ざりあえば……!!」


 グランバーザ様の呼びかけも、炎魔獣の吐き出す炎にかき消されて届かない。


 攻撃を解禁され暴れる炎魔獣に、現場は一気に混沌へと突き落とされる。


「アハハハハハハ! そうだたしかにダリエル、お前を簡単に殺してはつまらない。お前はゴミだ! 最悪の罪人だ! それに見合った最高の苦しみを味あわせてから殺さねば!!」


 バシュバーザ様は右手を突き出す。

 それに呼応するように、数いるラクス村冒険者の一人が見えない力によって引き寄せられ、宙を飛ぶ。


「うあああああーーーーーッ!?」


 彼は、まるで磁石のようにバシュバーザ様の手に吸い付くと、ガッシリ掴まれて怪しい光に包まれる。


「うぎゃあああああああッ!?」

「あれはッ!?」


 元魔王軍の俺には見覚えがあった。

 あれは記憶吸奪魔法。他者の記憶を奪って情報を得るための魔法だ。


 あれをラクス村の冒険者に使うとは。

 まさか……。


「ふーん……?」


 記憶の収奪は、対象に過度の負担を掛ける。

 意識を失った冒険者を投げ捨て、バシュバーザ様はニヤリと笑う。


「なるほどダリエル、お前は今ラクス村というところに住んでいるのか。結婚し、子どもまでいるとは。……おめでとう」


 奪った記憶から知ったのか……?

 だが、そんなことをした理由は……?


「ではボクが今からラクス村とやらへ行き、お前の妻や子ども含め皆殺しにして村を滅ぼせば、お前もさぞや嘆き悲しむことだろうなあ!?」

「……!?」

「ダリエル! お前の苦しみは我が喜び! 一思いには殺さん! 殺す前に最大限の苦しみと悲しみを与えてやる! お前にまつわるもの一つとしてこの世に残すものか!!」


 長く不毛な問答が終わり、ついに戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] お父さんは追い詰めちゃかわいそうだよ。ここまで歪んだ原因について、親ならば思い当たることがあるはず。子供の成長の親の影響を舐めないで欲しい。そのことを土下座して謝るべき。そして、一緒に罪を償…
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