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72 バシュバーザ、復讐のために出撃する(四天王side)

 ここは魔王城。


 魔王軍の本拠地でもあるこの城塞へ、先代四天王のグランバーザは帰還するなり大声を発した。


「バシュバーザ!! バシュバーザはどこにいる!?」


 その大号に、魔王城に詰める兵士や将軍、使用人に至るまでが反応し、震えあがった。

 自分自身が怒鳴りつけられたのではないというのに、恐怖で身が強張る。


 歴代最強と謳われたグランバーザの大声にはそれだけの威力があった。

 声だけで人が殺せる実力者なのである。


 とにかくも城内を突き進み、奥の部屋へと至った。

 そこはバシュバーザが四天王として専有している私室であった。

 魔王軍の頂点というべき役職だからこそ、そういった特権が許されるが、バシュバーザに関してはそれら特別に許されていたことが今日にも許されなくなるかも知れない。


 ノックもなしにドアを蹴破る。


 書物や魔法実験器具などで雑然とした室内に、人影が一つ浮かんでいた。


「これはこれは父上。突然どうしたのですかな?」


 現役四天王の一人バシュバーザ。


 彼の様相は、かつて見たものとは別物かというほどに様変わりしていた。

 随分と痩せていた。

 肉が薄くなって頬がこけ、眼球も落ちくぼみギョロギョロとしている。


 そのアンデッドのような形相に、実父であるグランバーザですら怯んでしまう。


「バシュバーザ……、なのか? お前、本当に……?」

「あははははは。やだなあ、いかに期待外れの息子といえども顔を忘れるのは酷いんじゃないですか? ……あれ? よく見たら我が同胞、四天王『華風』のゼビアンテスも一緒だね? 珍しい取り合わせだ」


 ミスリル鉱山から引きずられてきたゼビアンテス。

 グランバーザに首根っこを掴まれていたのをやっと放してもらえて床に落ちる。


「ぐぇッ、だわ……!?」


 元々自由な性格のゼビアンテスなので、この険悪極まる親子の対決に関わりたいなどと思わない。

 しかし逃げると後日もっと酷いことになる。それもわかっているのでこの場に留まるしかない。


「ばっ、バシュバーザ、アンタに聞きたいことがあるのだわ!?」

「何かな? そもそもキミとボクは四天王として同志の間柄。隠し事などあるはずがないぞ!」


 普段のバシュバーザからは想像できない大らかさに却って不気味さが際立つ。

 おかげで絶句してしまったゼビアンテスに代わり、グランバーザが再び口を開いた。


「…………バシュバーザ、お前『秘密の部屋』に入ったか?」

「『秘密の部屋』? 何ですかなそれは?」


 あからさまに惚ける息子に、父親の放つ気迫の激しさが増す。


「ウソウソウソ、知ってますよ。これぐらいの冗談に笑ってくれないなんて余裕がないなあ」

「ならば言ってみろ、『秘密の部屋』とはなんだ?」

「この魔王城のどこかにある部屋。しかしどこにあるかはわからない。探し求めても決してたどり着けないが、しかし存在することは確定している」


 バシュバーザは朗々と答える。


「ただし、その『秘密の部屋』最大の意義は、その内部にある。あの部屋には過去開発された禁呪のすべてが所蔵されているという」

「そうだ、だからこそ『秘密の部屋』はどこにあるのかわからないし誰もたどり着けない。みだりに禁呪に触れることは許されないからだ」


 父グランバーザが説明を引き継ぎ言う。


「禁呪とは、過去の魔法開発によって生み出された傑作にして失敗作だ。威力は高い。成功例として生み出された新魔法より遥かに強い。しかし、その代償であるかのように恐ろしい欠陥が伴い、あまりにも危険すぎるので封印された」


 それが禁呪。


 かつてのバシュバーザが製造しようとしたミスリル圧縮魔法爆弾もまた威力と欠陥両方を伴う魔法であったが、禁呪ではなかった。

 製造に大量のミスリルを消費するという欠点が、禁呪に指定されるほど危険とみなされなかったからである。


 禁呪となるには、それよりもなお恐ろしい扱いの難しさ、そして扱いを誤った時にもたらさせる被害の大きさが条件となる。


 少しでも運用をしくじれば、魔族自体が滅びかねない。

 それぐらい危険なものでなければ禁呪と呼ばれない。


「だからこそ『秘密の部屋』は門外不出の秘所とされ誰も近づけない。限られた権限を持つ者しか。その権限を持つ者とは…………!」

「四天王」


 父子の間に激しい火花が散った。


「……バシュバーザ、お前は知っているか? 禁呪の一つに、魔獣を従え使役する魔法がある」

「それは凄い魔法ではないですか! 魔獣を思うままに操れれば勇者も一捻りであろうに、なんで禁じてしまったのです!?」


 あまりにもわざとらしい反応ぶりだった。


「……無論、禁呪ならではのリスクがあるからだ。魔獣使役の魔法とは、正確には術者の意識と魔獣の意識を混ぜ合わせる魔法だ」


 魔法使用者と魔獣の意識を共有させ、術者の欲求に沿って魔獣を動かす。

 術者が殺したいと心から望む相手を、魔獣が殺す。

 術者が壊したいと心から望むものを、魔獣が壊す。

 魔獣の心に術者の望みを投影させる、それが魔獣使役のシステムだった。


「魔族を遥かに超える絶対強者、魔獣を望み通り動かすには、そうするぐらいしか方法はない。蝙蝠やネズミ程度を操る洗脳魔法など、魔獣相手には即座に弾かれるだけだ」


 だからこそ魔獣を操るには支配するのではなく、心を重ねて一体化させる。

 そしてその行為には尋常ならざるリスクが伴う。


「そもそも自他の境界をなくし心を混ぜ合わせること自体、危険な魔法だ。混合したものは大抵元通りに分離できず、区別のなくなった意識は意味消失して廃人化する」


 まして魔族を遥かに超越する魔獣などと意識を混ぜ合わせたらどうなるか。


「術者の精神が、より巨大な魔獣の精神に飲み込まれ廃人化する。それだけならばまだいい。しかし魔獣は取り込んだ術者の望みを律儀に叶え、術者が破壊したいと願ったものすべてを破壊するのだ」


 何百年も過去、それで魔族は一度滅びかけたことがあるという。

 通常の使役魔法と違い、術者が廃人化したからには理性で止めることはできず、魔獣はすべてを破壊しつくすまで止まらない。


 かつて術者が憎んだものすべてを破壊しつくすまで。


「それがどれだけ恐ろしいことかわかるか!? 禁呪は、けっして触れてはならないから禁じられているのだ! その意味を理解できず、安易に使用するなど四天王にあってはならない軽率さ!! それだけで充分罷免の理由に……!」

「煩いなあッ!!」


 鼓膜に突き刺さるような反論が部屋に響き渡った。

 バシュバーザ、偉大すぎる父グランバーザへの生まれて初めての罵りの言葉だった。


「さっきから何なんです? 禁呪は恐ろしい、魔獣も怖い。仰る通りです! でもなんでそれをボクに言うんです!? そんなのボクとは関係ない! 意味がわかりませんよ!!」

「お前が、その禁呪を使ったからだ」

「酷い言いがかりだなあ!? なんでそう思うんです? 証拠でもあるんですか!?」

「お前のその急激なやつれ様。そして著しい情緒の不安定。すべて魔獣と精神を重ね合わせたことによる影響だろう?」


 魔獣と精神を合わせたことにより、魔獣の狂暴性が術者にも伝染する。

 その結果として術者も魔獣同様の獰猛な性格へと変わり果てる。


「加えて、魔獣からの精神浸食を食い止めるため術者は過剰に魔力を放出する。その末に消耗して痩せ衰える。今のお前のようにな」


 頬がこけ、眼窩が落ちくぼみ、幽鬼のごとき形相となったバシュバーザ。


「極め付けが、魔獣の現れた場所だ。お前とミスリル鉱山との確執は私も聞いている。大失態の要因となったあの場所を、さぞかし憎んでいることだろうな」

「…………」

「魔獣の操作は容易ではない。使役法の特性上、術者が本当に壊したいと望むものしか壊さないのだ。そもそも『秘密の部屋』に入れる時点で容疑者は四天王に絞られる。その中でミスリル鉱山に一際の憎悪を抱く者は……」


 バシュバーザしかいない。


「……愚かな息子よ。どうせ度重なる失態から、炎魔獣の恐るべき力によって一挙に挽回しようと考えたのだろう。しかしその考え自体が四天王失格だ」


 禁呪を厳重に管理するため保管場所への出入りを許されているのに。その管理者みずからが禁呪を使って利益を図る。


「そんな自分勝手な者を、四天王の座に置いてはおけぬ!」

「煩いよ! 煩い! 煩いなあクソジジイ!!」


 バシュバーザは幽鬼の瞳に危険な灯火を浮かべた。

 もはや正気の色ではなかった。


「四天王失格? ククク願ったりだよ! 四天王の座にもう興味はない! ボクはそれより上の、さらに偉大な座へ昇るんだから!!」


 バシュバーザは誇らしげに笑う。


「ボクは英雄になるんだ! 勇者を殺し、人間族を滅ぼし、誰も成し遂げたことのない偉業を成し遂げ、永遠に消えることのない伝説的人物となるんだ! 炎魔獣サラマンドラの力を使って!!」

「ついに、みずからの口で吐き出したな。……ゼビアンテス」


 グランバーザ、傍らで固まっている現役四天王に目配せする。


「今の言葉、しかと聞いたな?」

「は、はいだわ……!?」

「現四天王バシュバーザは、重大な反逆を起こした。厳重に管理されねばならない禁呪を持ち出し、魔族そのものを危険にさらした罪……」


 禁呪とはそれほど恐れられるもの。


「……この先代四天王グランバーザが、罪人を処刑する」

「ククク実の息子を処刑するだって? 随分と薄情なパパだねえ? ……でも、反逆しているのはどっちかな?」

「? どういう意味だ?」

「クソジジイは魔獣使役の禁呪に随分お詳しいけど、やっぱり実際使用してないだけあって厳密に知らないこともあるようだねえ……。たとえば魔獣と意識を共有した術者は、感覚をも魔獣と共有できるってことをさ!」


 バシュバーザは、その事実を誇示するように下目蓋を指で引っ張る。


「炎魔獣サラマンドラが見たものは、この目にも見えてるってことさ。ミスリル鉱山の麓で、敵であるはずの勇者と仲良く並んでいたアンタの姿もハッキリ見えたよ」

「お前、すべて知った上で……!?」

「敵と仲良くなることこそ重大な裏切りだよねえ!? 背信? 内通? とにかく伝説の英雄グランバーザも、汚らわしい裏切り者に堕ちたってことだ。ギャハハハハハハハ!!」


 背骨が折れそうなほど身を反らして笑うバシュバーザ。


「いいぞお! ボクにもやっと運が向いてきた! 現役勇者と先代勇者が同じところに集っている! これを一挙に殺せば大手柄! そして裏切り者となった先代四天王も処刑して、余計な類似品も消える! 英雄と讃えられるのはボク一人で充分なのだあああ!!」

「バシュバーザ! 気持ち悪すぎるのだわ!!」

「ゼビアンテス! 勇者と共にいたお前の姿もバッチリ見えていたぞ! お前も反逆罪で処刑してやるから安心しろ!!」


 そしてもう一人。

 バシュバーザにとって見逃すことのできない人物がもう一人、あの場にいた。

 誰より重要な、もっとも憎い相手。


「ダリエル……、ダリエルうううう……!!」


 その姿も確認していた。

 意識を共有した魔獣の目を通して、ハッキリ確認することができた。

 彼自身が追放して、以来一度も見ることがなかった元補佐役の姿。


「見つけたぞ! 地の果てまでも探し出して殺してやろうと思ってたのに、すぐさま見つかるなんてなんて運がいいんだ! やはりボクは運命に愛された、英雄になるべき魔族なのだあああッ!!」

「バシュバーザ! これ以上罪を重ねるな……! うぐあッ!?」


 息子を取り押さえようとしたグランバーザ、逆に巨大な拳に弾き返される。

 魔王城内の壁を殴り破って突入してきた巨大な拳。

 バシュバーザを鷲掴みにして、そのまま引き戻される。


「しまった!?」


 バシュバーザは巨大な拳諸共、外へ。

 慌てて追うグランバーザが、壁に空いた穴から外を見ると……。


「炎魔獣サラマンドラ!?」


 空に浮かぶ火炎竜は、ミスリル鉱山を襲撃したのと寸分たがわぬ魔獣だった。

 その体の上に立つバシュバーザ。


「ごきげんよう父上! 本当はこの場でアンタを殺してやりたいところだが、あと回しにしてあげるよ! わかるだろう!? ボクと精神を共有したサラマンドラは、ボクが一番最初に殺したい相手の下へ向かうんだ!」

「お前、まさか……!?」


 グランバーザ、壁際から唸る。


「そうダリエルだ! ダリエルから最初に殺す! 目を潰し舌を引き抜き、鼻を削いでから四肢を斬り落とし、地獄の苦しみを与えてから灰も残さず焼き尽くしてやる!!」


 魔獣を使役するバシュバーザは、逆に精神浸食を受けて魔獣の狂暴さに駆り立てられていた。

 どちらがどちらに操られているかもわからぬまま、憎悪の塊がダリエルへ迫る。

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