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70 ダリエル、救助活動する

 炎魔獣サラマンドラとやらが襲っていたのは、ミスリル鉱山のまさに中心地と言える区域だった。


 発見した時は遠景だったのでわかりづらかったが、こうしてたくさん駆けて現地に到達してみると、受けた被害の凄惨さがわかる。


「全部黒焦げじゃないか……!」


 鉱山運営のため地表に建てられた施設の何もかもが真っ黒な瓦礫と化して崩れ去っていた。

 燃え跡が放つ余熱でなお、周囲は灼熱地獄の様相だった。

 暑さで体中から汗が噴き出す。


「生存者は……?」

「無理でござろう。こんな惨状では……!!」


 セッシャさんの言いたい気持ちもわかる。


 ここに来るまでに、道端に転がる人型の消し炭をいくつか見た。


 人の形を保った燃えカス。

 水分を失ったせいか、元は成人男性程度の大きさだったろうに子どものように縮んで。

 でも全身真っ黒で、元の顔形も判別できない。


 すぐにでも人がましく葬ってあげたいところだったが、それでも生存者が優先だった。

 まずは生きている人たちを探し出すべきだったが、まだ一人も見つからない。


「まさか……!?」

「あれほどの猛炎でござる……! 考えたくはありませんでしたが……!」


 生存者ゼロ……!?


 その最悪の結論が頭をよぎった時、同時にここで働く数多の人々の顔もよぎった。

 ミスリル鉱山が人間族の手で運営されるようになってから一年余り。

 ここの人々とも多く顔見知りになれたのだ。


 そんな人々がもういないなんて想像したくない。


「ダリエルさん! ダリエルさんッ!!」


 最悪の想像に襲われているところへ、レーディが駆け込んできた。


「こっちに、こっちに来てください!!」

「何かあったのか!?」


 もしや生存者? という俄かな期待と共に向かってみると……。

 そこは坑道の入り口だった。


 実際に鉱石を掘り出すために開けられた穴が深く深く進んでできた作業道だ。


 ただ、この坑道口……。


「塞がれてる……!?」


 大きな岩が蓋のように立ちはだかって、坑道の内と外を行き来するための出入り口を塞いでいた。


 これでは坑道の中に入ることもできないし、また中にいる者は外に出ることもできないだろう。


「隙間には、ご丁寧に土砂が敷き詰めてあってピッタリ塞がれている……!?」

「ここまで徹底した封鎖が自然に起こったとは考えにくいな」


 アランツィルさんも、この場に駆けつけていた。

 今、全員の注意がこの岩戸に向けられている。


「坑道とは、いわば人工的な洞窟。要塞までとは行かないが、何かしら異変があった時の避難場所としては優良と思えないか?」

「ここまで厳重に入り口を塞げば、炎魔獣の火炎だってシャットアウトできたでありましょう」

「ただ、密閉しすぎると新鮮な空気も入ってきていない恐れがある」


 向こう側に誰かいるとしたら、急がなければ窒息の危険すらあるわけか。


「この大岩をどかす算段はありますか?」

「魔獣の炎すら防いだわけだからな。しかし、この勇者の秘技をもってすれば……!?」


 アランツィルさんが、得意武器の棒を大きく振り回す。

 俺も倣ってヘルメス刀を剣形態にして振り上げた。


「「『凄皇裂空』ッ!!」」


 同時に放たれる二つの巨大オーラ斬撃。

 その切断力、破壊力に大岩も耐えることができず、二つに裂かれ、また二つに裂かれて四つとなって飛び散った。


「うわああああああーーーーーーッ!?」


 爆発かという破片の粉砕に、近くで見守っていたレーディたちは煽られる。

 ごめんね急にやって。


 だがおかげで大岩は完全に粉砕されて、ポッカリ口を開けた坑道の穴が現れる。


「さあ、これで中に誰かいてくれたらいいんだが……!?」


 そうでなければ、外の焼け野原ぶりから見て今度こそ生存者は絶望的と言っていいだろう。

 救助隊は、そのまま遺体回収隊としての沈鬱な仕事を進めなければいけない。


 が……。


「おーい、おーい」


 今の!? 聞こえた!?

 坑道の奥からたしかに人らしきものの声が!


 よく見れば奥の暗闇に一点、赤い明かりが灯っているのも確認できた。


 あれは間違いなくカンテラの灯火だ。


「やったッ!!」


 俺は思わず叫んだ。

 坑道の奥からたくさんの数のノッカーと、それから数人の人間族が出てきた。


「ベストフレッドさん!!」


 彼は、センターギルドから派遣された幹部クラスで、ここミスリル鉱山の運営指揮も執っている。

 一年前に初めてここを訪れてからの付き合いだ。


 そろそろ顔馴染でもあったので、生き残ってくれていて本当に嬉しい。


「ダリエル村長……! キミなら助けに来てくれると思った……!」


 煤だらけで鉱山からはい出てきたベストフレッドさんは、息も絶え絶えという感じだった。


「ダリエル様ー!!」

「やっぱりダリエル様が助けに来てくださっただー!!」


 鉱山に住む亜人種ノッカーも大喜びだ。

 命の危機を乗り越えた安堵の喜びであろう。


「よかったー! いやもう地上の焼け野原を見た時は、もう誰も生き残っていないものかと……!!」

「ノッカーくんたちが、いち早く危険を察知してくれてね。……地上のギルド職員や労働者はほとんど坑道へ逃げ込むことができた」


 ベストフレッドさんとノッカーたち、肩を組んで結束をアピール。


「おやびんは優しいから大好きですだー!!」

「ダリエル様の次に信頼できますだーッ!!」


 キミらいつの間にそんな仲良くなった?

 まあ一年も一緒に仕事してたら当然か?


「いやあ、驚いたのなんのって。いきなり空から巨大モンスターが現れるんだもの! もう少し避難が遅れていたら間違いなく全滅だった」


 しかし実際に炎魔獣サラマンドラが現れる頃には非戦闘員の避難は完了し、あらかじめ用意しておいた仕掛けで坑道出入り口も封鎖して何とか守りを固めることができたという。


「もしもの時のための備えを作っておいて助かった……!」


 実際、坑道を封鎖したおかげで炎魔獣はその奥まで攻め込んでこれなかったのだから。

 仕掛けを作動させるだけで大岩が出入り口の前へ落ちてきて、坑道を封鎖するカラクリは功を奏したというべきだろう。


「守備要員としてやとった冒険者が何人か地上に残ったんだ……、魔物と戦うと言って……、ダリエルくん、それらしいのを見なかったかね?」

「…………」


 俺が思い浮かべたのは、ここに来るまでに見た黒焦げの遺体だった。


 鉱山の脅威と戦うのが仕事とはいえ、蛮勇を奮って何になるというのか。

 一目で勝てない相手とわかれば、そこは判断を迷わず逃げるべきだった。


「でも、本当にみんなが生き残ってくれてよかった。最悪の事態は避けられました」

「ああ、だが……」


 ギルド幹部ことベストフレッドさんは地上に出て、灼熱の焼け跡となった地表を見渡した。

 寂寥の表情で。


「……すべてが焼き尽くされてしまった。一年かけて築き上げてきたものが、すべて灰になってしまったよ……」

「アナタがまだ生きているじゃないですか」


 生きてさえいれば何度でもやり直しは利く。

 だから生存者がいる以上、何も終わってないし何も失敗していない。


「まだまだこれからですよ……!」

「……そうだな、であれば何より復旧作業を急がねば!」


 その通りです。


「ではダリエルくん、早速だがキミに頼みたいことがある」

「どうぞ何なりと」

「モンスターが襲って来る直前、多くの人員が坑道内に逃げ込んだのだが、混乱していたせいでバラバラになってしまってな。坑道のあちこちに迷い込んでしまったのだ」

「それは大変だ」


 坑道内は、鉱石を掘り出すために深く掘り進められ、枝分かれして迷路のようになっている。

 素人が準備もなく踏み込めば、迷うのは確実だろう。


「危険が去った以上、避難したギルド職員たちも戻ってきてもらうべきだが、自力で脱出できない者もいる可能性が高い」


 そこで坑道の構造に詳しいノッカーたちに捜索を頼むという。


「ダリエルくんたちも一緒に坑道に入ってくれないか? ギルド職員の中には、いまだにノッカーたちを怖がる者もいて、指示を聞かないかもしれないんだ」


 そんな錯誤なヤツがまだいるとは……。


「仕方ない、行きましょう」


 ガシタの後続隊が来るまで本格的な復旧作業も始められなさそうだし、それまでボーッと待ってるわけにもいかないからな。


「私も行きます! 人々のために力を尽くすのが勇者の役目です!」

「私も勇者を辞めた身だが、この老体が役立つのなら喜んで働かせてもらおう」


 レーディとアランツィルさんも救助活動に名乗りを上げた。


「勇者様と! 先代勇者様!? 何故このようなところへ!?」


 今さらベストフレッドさんが驚いていた。

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