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69 ゼビアンテス、グランバーザを励ます

「ここまで愚かとはッ!!」


 グランバーザ様が地面を殴りつける。

 激情極まってのことであろうが、拳を中心に亀裂が四方八方へと走り、ヒビの隙間から真っ赤な炎が噴き出す。


「これほどまでに愚か者だったとは……! バシュバーザ……!」


 現四天王で炎の座に就くバシュバーザ様と、先代で同じ席にいたグランバーザ様は、ただの先代後代だけの間柄ではない。

 血を分けた親子だった。


 だから受ける衝撃もひとしおであるのだろう。


「ひっ……!?」


 グランバーザ様の放つ激情に、そこに居合わせた全員が気圧されて戦いた。

 それこそかつてのライバルであったアランツィルさんを除いて。


「あッ、あのー……!」


 その中で一人、魔王軍サイドのゼビアンテスが果敢に問いかける。

 超ビビりながらだけど。


「バシュバーザのヤツがアホなのはたしかだけど、そこまで怒る必要あるのだわ?」

「というと?」

「たしかにあのデッカイトカゲは驚異的だけど、あれをコントロールできるって言うなら大きな戦力間違いなしだわ。四天王としては手柄を上げていると言っていいのだわ?」


 その指摘に、周りの者も「たしかに……!」と頷いた。


 特に勇者レーディのパーティは、それだといずれ炎魔獣と戦わされる張本人となるはずで、とにかく大変なはずなのだが、それも納得している。


「糞馬鹿垂れいッ!!」

「うひいいいいいいいいッ!? なのだわッ!?」



 猛烈なるグランバーザ様の怒号に、ゼビアンテスは吹き飛ばされんばかり。


「魔獣使役の秘法は禁呪だと言っただろう! たしかに魔獣は強力! だがだからこそコントロールを失った際の危険は計り知れん!! 禁呪は、相応のリスクがあって使用を禁じられているのだ!!」


 その危険性を弁えずに軽々しく禁呪に触れてしまうことが……。


「愚か……! 愚かとしか言いようがない……!!」

「げ、元気出してなのだわグランバーザ様!」


 ゼビアンテスのアホが、愚かな質問をした失態を取り繕おうと躍起になる。


「た、たしかにバシュバーザのアホはどうしようもなく無能で! さらに最低なのは自分が無能だと気づきもしないところで! わたくしも含め他の四天王は迷惑しっぱなしだったけど!」

「……ッ!」

「そんな大バカ野郎のアイツでも、探せばきっといいところの一つぐらいはあるはずなのだわ! 同僚として一緒に働いてきたわたくしなら心当たりがあるのだわ! んん~っと……、ないのだわ!!」

「……ッ! ッ!!」

「もうちょっとだけ待つのだわ! 必ず思いついてみせるから……、ええと、時間にはだらしないし。そのくせ自分以外が一秒でも遅れたら滅茶苦茶怒るし。食べ物の好き嫌いも多くて、自分の嫌いな野菜を出しただけで料理長をクビにしたこともあったのだわ! ああ、あと! 多分かもしれないけどアイツ、ホモなのだわ!!」

「…………ッ!!」


 バシュバーザ様を擁護しようとしているらしいが、逆に欠点しか挙げないゼビアンテスの証言に、グランバーザ様が崩壊しだしている。


「もうやめてえええええッ!!」


 見かねて勇者パーティ総出で止める。


「なッ!? 何をするのだわ!? わたくしはグランバーザ様を元気づけようと……ッ!!」

「完全にとどめ刺しにかかってるのを気づけないの、このアホ!!」

「だれかこの四天王クソ女の口を塞ぐでござる!!」

「いっそ息の根止めましょう! このまま生きててもロクなこと口走りそうにありません!!」


 若者たちがグチャグチャしている横で、俺とアランツィルさんは冷静に状況をまとめていた。


「とにかく今はまだ決めつけてかかるべきじゃないですね」

「そうだな。今ここで言ったことすべてが推測の域を出ない。仮定を確定にするために裏取りが必要な段階だ」


 その中で、推測が事実によって否定されることもあるかもしれない。

 バシュバーザ様が主犯であるという推測が。

 俺の見立てでは、その可能性は極めて低いと言わざるを得ないが。


「そうだな……、そのためには何よりも魔王城に戻らねばなるまい」


 グランバーザ様も往年の英雄である。

 乱れた心境を即座に切り替え、平静さを取り戻す。


「魔王城に戻り、バシュバーザを直接問い詰める。あの炎魔獣を操り、けしかけたのが本当にアイツなのか……!」

「もし、すべてが推測通りだったとしたらどうする?」


 聞きにくいことをズバリ聞くのは、長年命のやり取りをしてきたアランツィルさんだった。


「責任を取るさ。かつて魔王軍の頂点に立っていた重鎮として。今なお魔王様の忠実なる家臣として。そして何よりアイツの父として……!」


 グランバーザ様は意を決して叫ぶ。


「ゼビアンテスよ!!」

「ハイッ! なのだわ!?」


 勇者パーティによって袋叩きにされていたゼビアンテスが応える。


「共に戻るぞ! お前には証人になってもらう!!」

「証人? 何のだわ?」

「推測通り、バシュバーザのヤツが禁呪に手を出していたとして。その罰として、この私みずから息子を処刑する、その正当性を示すための証人だ」


 この宣言に、居合わせた全員は息を飲んだ。


 かつて魔王軍を率いた四天王の最強者。

 その決意の苛烈さに。


「戻られるのですねグランバーザ様」

「どの道、今は人間族の側に立ったお前と魔族の私が一緒にいるのを見られてはマズかろう。ここはそれぞれができることをするために別行動をとるべきだ」


 グランバーザ様の主張には理が通っていたが、それでも俺は不安だった。


「けっして早まったりはしませんよう……」

「お前は聡いな……。心配するな。正しい落とし前のつけ方はわかっているつもりだ」


 グランバーザ様は呪文を唱え、魔導具を呼んだ。

 炎魔法の高温で稼働する乗り物型の魔導具だ。


 あれがあれば、ここから魔王城まで一ッ飛びであろう。


「お前たちは、目の前の救助に専念するのだ。一人でも多くの生存者を救出せよ」

「御意」


 ゼビアンテスを抓み上げるとグランバーザ様は、魔導具に乗って飛び去っていった。


「ええッ!? ちょっと待って!? わたくしもホントに帰るのだわ!? バシュバーザのアホのためにわたくしの休暇が切り上げられるなんて嫌ああああああッ!?」


 ゼビアンテスのゴネ声が、低くなりながら遠ざかっていって最後には聞こえなくなった。


「アイツはもう戻ってこなくていいや……!」


 しかしグランバーザ様には生きて再びお会いしたい。

 それもすべては息子バシュバーザ様の愚かさ次第ということか……。


「まったく……!」


 どうしてこんなにバカなマネをするんだ?

 お父上から家格と才能を受け継いで、無難にこなすだけでも成功が約束されているような立場なのに。


 何故、無理をしてまで大手柄を狙うのか?

 いや、それが成功すればいいのだが、試みすべてが裏目に出て、禁呪に手を出すほど追い詰められている。


 何がそこまで、あの御方を追い詰めたというのか?


 最初のまま俺が四天王補佐に付いていたら、そうした暴挙を止めて正しく導いてやることができたのか。

『もしも』など虚しいだけだとわかってはいるが、それでも心底でグルグル回る『もしも』を留めることができない。


 ポン、と肩に手を置かれた。

 振り返るとアランツィルさんだった。


「……ダリエルよ。立ち止まって考えたくなる気持ちはわかる。しかし今は止ることを許される局面ではない」


 なんか加速度的に馴れ馴れしくなってるなあと思える元勇者さんであった。

 いや、馴れ馴れしくなってる理由はわかるんだけども。


「急ぎ鉱山の被災現場に向かい、生存者を救出するのだ。あれだけの大火に晒された。生きていたとしても重傷を負い、一瞬一瞬が貴重な残り時間となっているはずだ」

「…………」


 アランツィルさんの助言は一片の余地もなく正しい。


 今は考えるより行動が必要だ。

 炎魔獣に襲われた鉱山の救助に全力を注がねば。


 俺は残る全員に呼びかける。


「もう少しすればガシタが後続隊を率いてやってくるはずだ。医療品などの救援物資も充分に携えてくる」


 ガシタならもうその程度の判断は容易にこなせるはずだ。

 何しろ今やラクス村のトップクラス冒険者なのだから。


「俺たちは先んじて生存者を捜索、一人でも多く助け出すんだ。いくぞ!!」

「「「はいッ!」」でござる!」


 なんか俺が勇者パーティに指示を出しているのに強烈な違和感を覚えつつ、俺たちは炎魔獣が暴れていた直下へと向かった。


 あそこで働いている皆が無事でいたらいいんだが……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 何がって……。そりゃー、実子なのに養い子のダリエルの方が可愛がられていたからでしょう。自分がたいしたことないって、幼い頃からわかっちゃって、その自信のなさを誤魔化すためにプライドを育てた。
[良い点] ゼビアンテスの天然が笑いを注ぐ。(笑)
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