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06 マリーカ、手伝いと称してデートする

 エテモーン討伐、達成。


 俺はそのクエストを、冒険者になる前に成し遂げていたらしい。

 死体は持ち帰ることなくそのままにしていたのだが、慌てる村長と確認しに行ったところ、たしかにウォンテッド中の警戒モンスターであると確定。


 討伐クエストを請け負っていたガシタには、クエスト取り止めの告知がなされた。

 ギルドマスターを兼任する村長直々の叱責と共に。


 何でもガシタは半月も前にクエストを受けていながら、討伐対象を見つけ出せずにいたらしい。


「お前がグズグズしていたから、ウチの娘が襲われるところだっただろうが! 日頃威張りくさっとるくせに肝心な時に役立たんゴロツキが!!」


 災難に遭ったのが自分の娘だけあって、村長さんの怒りは本物。

 ガシタも面目丸潰れ。


「…………ッ!」


 俺も何故か同行してガシタのところに行ったが、彼の向けてくる怨嗟の視線が怖い。


「……村長、クエストをくれ」

「はあ?」

「エテモーンなんかよりずっと強力なモンスターの討伐クエストだ! あんなオッサン新人に負けて堪るか! オレはもっと強いモンスターを狩ってやる!!」


 バリバリに対抗意識を燃やしてきた。

 村長も仕方なく、彼の要請に応える。


「じゃあ、はいこれ。アントラシックっていうモンスターだけど森の奥に棲息して、まず村には近づいてこないから無理して狩らなくてもいいヤツだよ?」

「でもエテモーンより強力なんだろ!? 見てろよ! コイツを倒して、オレの方が上だってことを証明してやる!」


 それよりも大事なのは村の利益になるかどうかでしょう?

 村に危険のないモンスターというのなら無理して狩っても、ただの無益な殺生じゃない。


「村長、俺にもクエストくださいよ。たしか薬草取りが溜まってるんですよね?」

「あ? ああ……! ダリエルくんは村のためを思ってくれて助かる……!」


 クエスト請け負った。


『メチャイタ草を六つ採取』。


 なんだこの不吉そうな名前?


「お前みてえなド素人にはチマチマ草むしりするのがお似合だ! 見てろ! オレがすぐさま大手柄を上げてやる」

「下積みは、何処の世界でも大事だよ?」

「煩え! E級がD級に偉そうな口叩くな!」


 言うべきだろうか?

 エテモーンを倒した功績で早速E級からD級に格上げしてもらったことを。


 とにかく俺は薬草採取のため、ガシタくんはモンスター退治のために、それぞれ森に入るのだった。



「さーて……」


 俺in森の中。

 緑の匂いが瑞々しいものの、戸惑いがあった。


「一緒に頑張りましょー!」


 同行者がいることに。


 マリーカさんだ。


 村長の娘で、俺を村に導いた張本人。

 何故、彼女がここに? というと……。


『ダリエルさんは、村に来て間もないんです! 最初のうちは知ってる人に案内してもらって森の地理を覚えないとダメです! 本当です!!』


 と押し切られてしまった。

 たしかに森や山は舐めちゃいけない舐めたら遭難もありうる。


 ということで地元民のマリーカさんに同行をお願いしたわけだが……。


「何か悪いなあ……!?」


 森の中は危険だからわざわざ冒険者に依頼するわけでしょう?

 それなのに一般村人のマリーカさんを連れていくなんて。


「大丈夫です。村人だってまったく森に入らないわけじゃないんですよ」

「そうなんですか?」

「そうしないと薪も拾えないし……。冒険者にお願いするのは行き帰りに時間のかかる奥地とか、モンスターの目撃情報があって危険なところとか、あと面倒くさかったりする時とかですね!」

「面倒くさい……?」


 気持ちはわからんでもないが。


「アタシも、お父さんが動けた頃はよく森の中に連れてってもらいました。だから森の地形には詳しいんです」


 そんな、お父さんがもう今は動けないみたいな言い方……!?

 間違っていないか。

 村長さん、動作のたびに腰を忙しなくさすってたし。


「アタシも、本当は冒険者になりたかったんです。村には冒険者が不足してるし、少しでも助けになりたいって」

「それであの時も森の中に……?」

「近所のおばあさんが風邪気味で……。ガシタのバカが薬草も取ってきてくれないから自分で行くしかないって……」


 それで運悪くモンスターに出くわし、さらに俺がやってきた。


「ダリエルさんにも恩返ししないと! だから本気で道案内させていただきます!!」


 そんな張りきらなくても。

 道案内ですから、士気高揚より冷静さを大切にして。


「ではダリエルさん、手を繋ぎましょう!」

「なんで?」

「森で迷ったら終わりですよ! はぐれないようにするには手を繋ぐのが確実じゃないですか!」

「そうかもしれないけど、他に手段はありませんか……!?」


 俺も三十二歳のいいオッサン。

 魔王軍での下積み仕事にすっかり若さを使い果たしてしまった……。


 さすがにこの歳で若い女性と手を繋ぐのは……!?


「他の手段……? なら抱き合います?」

「段階進んでる!?」


 出会った時からそうだけど、この子やたらとグイグイ来るな?

 さすがに親の前では大人しかったけど、二人きりになった途端これだよ。


「ダリエルさんは恩人ですから」


 本当にそれだけだろうか?

 彼女の言動からは、恩に報いるという以上の意志を感じる。

 どういう意志なのか俺にもよくわからないが……。


「さあ、早く薬草を摘んで帰りましょう! 村の皆が待ちわびています!」

「うん、そうだね」

「これが採取する薬草のリストです」

「何かたくさん名前があるけど、依頼にあったのは一種類じゃないですか?」

「だから依頼が溜まってるんですよ。ガシタのバカが採取クエスト受けないせいで。せっかくダリエルさんと一緒に森の奥まで来れたんだから、この際できるだけたくさん摘んで帰る方が効率的!」


 そうかもしれませんが……!


 会話するほど思うんだけど、マリーカさん冒険者の仕事に慣れてない?

 ギルドマスターの娘と思えば当然なのかもしれないけど。


 幼い頃から森に出入りしていて、現存冒険者が頼りにならないからと言って単身出動してしまう。


 正式な冒険者ではないが、彼女。

 並の冒険者などよりよっぽど冒険者なのでは?


「ダリエルさん、それメチャイタ草じゃないですよ」

「え? 本当に?」

「似てるけど違う種類です。葉の裏の筋の数で見分けるんです」

「わ、わかりました……!?」

「ダリエルさん、この植物は薬効あるのが葉っぱだけなんで、葉だけ千切ってください。一株から、葉っぱ四枚のうち一枚の割合で。そうすれば割と早めに元通りになります」

「そうですか……!」

「ヤゲンの幼虫は倒木の下にたくさんいますからひっくり返して探しましょう。コイツを乾かして粉にしたのが熱冷ましに効くんですよー」

「虫まで薬に!?」

「そうですけど……? あッ!? ダリエルさん見てこれ! 鹿の足跡! 追って仕留めましょう! そして今晩のおかずに!!」


 ホラやっぱり!

 この子、玄人じゃないか!!


 さすがギルドマスター兼村長の娘というか、逞しい!

 猿に襲われてた時も一人で何とか切り抜けられたんじゃないの!?


「そんなことないですよー」


 マリーカさんは照れながら言う。


「所詮女ですから、戦いなんかになると弱いです。たしかに冒険者になるのを夢見たこともあったんですが、お父さんも心配して許してくれなかったし」

「そりゃ、父親なら娘のことは心配でしょう」

「だからダリエルさんが来てくれてとても助かります。初めて会った時も助けてくれたし。ダリエルさんは私の救世主です」

「そんな大袈裟な……?」


 あまりの大仰ぶりに戸惑うが、彼女の目は本気ぽかった。


「そんなダリエルさんにお願いがあるのですが……」

「何?」

「そろそろアタシのこと呼び捨てにしてくれませんか? さん付けは他人ぽくて嫌です」


 他人ぽいも何も、俺たち最近知り合ったばかりで他人では……?

 と言い出せない雰囲気だった。

 言ったら、その場で『女の敵』認定を世界中から食らいそうな……?


「……ま、マリーカ」

「はい! ダリエルさん!」

「いや、俺が呼び捨てになったんだから、キミもさん付けなしでいいんでは?」

「ダメですよ、女は男を立てるものだと母が言ってました」


 なんだろう?

 持ち上げられながらも首根っこを押さえられてるような不思議な感覚。


 俺は今、彼女から侵略を受けている?

 そんな気がした。



「あッ、ダリエルさん見てください。鹿がいます」

「ホントにいた!?」

「しかもモンスターと戦ってる? 鹿の方が勝ってる?」

「強いな鹿!?」

「せっかくです、両方仕留めましょう!」


 結局鹿共々成敗したモンスターは、アントラシックというヤツで、ガシタが請け負っていたクエストの標的だった。

 俺はまたしても彼の獲物を仕留めてしまったことになる。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?心の中読めるの?(笑) しかも主人公気付いてないしコエー(笑)
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