67 炎魔獣、現る
「着いたーッ!!」
ゼビアンテスの起こした飛翔風は本当に速い。
さすが四天王の一人……、つまり魔王軍最高の風魔法使い。
想定していたよりずっと早く現場に到着して、見上げてみると、そこには……。
「本当にいた……!!」
巨大なモンスターが。
本当に巨大なヤツだった。
到着したばかりの俺たちはまだ鉱山を遠景に眺められる位置にいたが、その位置からはっきり確認できるモンスターの巨体。
しかも空に浮かんでいるので、より明瞭に目立っている。
空の青と、モンスター自身の体表から発する赤色が綺麗なコントラストを描いている。
「何のタイプだ……? あのモンスター……ッ!?」
「トカゲ……ッ!?」
俺も魔王軍時代から冒険者時代にかけて数多くのモンスターを駆除してきたが、あんなタイプを見たのは初めてだった。
体型や肌の質感はトカゲに似ていた。
しかし本来のトカゲと比べてはるかに大きい。
俺たち人類よりもはるかに大きい。
それこそミスリル鉱山をたった一体で制圧できるほどに。
それに加え、その巨大トカゲは全身が烈火のごとく赤い鱗で覆われ、実際に体の節々から火を漏らし出していた。
翼もないくせに空中に浮かび、口から火を吐いて、鉱山口近辺に絶えず猛炎を浴びせている。
まさしく灼熱地獄の体だった。
「鉱山は、ずっとああやって炎に晒されているのか!?」
「そんな……!? あれでは皆焼け死んでしまう……!?」
レーディが悲痛な声で言う。
一刻も早く、あの巨大火トカゲの火炎放射をやめさせねば!
取り出したヘルメス刀を伸ばし、剣形態で固定する。
「『凄皇裂空』!!」
振り下ろした剣から特大のオーラ斬撃が飛ぶ。
飛び道具として破格の威力を持つこの技は、極限まで圧縮したスラッシュ(斬)のオーラそのものを剣を振り抜く勢いで飛ばす。
天空高くに陣取って、まともな攻撃も届きそうにない巨大火トカゲ。その横腹にオーラ斬撃が命中した。
「よっしゃ届いた!!」
その衝撃に押されつつ、空中で踏みとどまった巨大火トカゲの顔がこっちを向く。
「ぎゃあああッ!? 気づかれたッ!?」
「こっちに注意を向けられれば上出来だ!!」
そこから鉱山への被害拡大が途切れるということなのだから。
『凄皇裂空』をまともに受けたはずの巨大火トカゲだが、致命的なダメージの様子もなく元気にこちらへ向かってくる。
猛スピードで、空中を這うように。
「一体どういう原理で飛んでるんだ……!?」
こちらに逃げ隠れる暇も与えず、すぐさま眼前まで迫ると、鉱山へ向けて吐いたのと同じように口から火炎を吐き出す。
俺たちに向けて。
「うぎゃあああああッ!?」
悲鳴を上げながらも進み出たのは勇者パーティの壁役サトメ。
最年少の可愛い女の子ながら、巨大な盾を押し出し炎に対する。
「阻めええええええええッ!?」
ガード(守)特性のオーラを盾に込め、防御機能全開で炎を堰き止める。
ちょうど水流の中に小石を置いたように、炎は左右に分れ、後方に駆け抜けていく。
サトメが防いでくれたおかげで、なんとか炎に飲まれずに済んだ俺たち。
「熱い!? 熱いいいいいッ!?」
「大丈夫でござるかサトメ殿!?」
炎の流れが一旦やみ、熱さにのたうつサトメを同じ勇者パーティのセッシャさんが気遣う。
「オーラを全力で盾に込めたのに防ぎきれませんでした! 盾が! フライパンみたいに熱々に!?」
「これでは次は防ぎきれそうにありませんぞ!?」
本来ならオーラに遮断され盾自体は加熱されないはずなのだが、勇者パーティに抜擢されるサトメのオーラ力をも上回って……。
「あの火トカゲの放つ火勢が強いってことか!?」
俺たちの見上げる空中にて、巨大火トカゲは大きく息を吸う動作をしていた。
まさに今から『火を吹きかけてやる』と言わんばかりだった。
その大火を吐き出さんとする瞬間に合わせて……。
「『凄皇裂空』ッ!!」
巨大オーラ斬撃を鼻っ面に叩きつけてやった。吐こうとしていた炎が四散し、余計に相手を苦しめる。
「だが遠いな……!?」
巨大火トカゲが上空高くに浮かんでいるせいで距離が開き、その分『凄皇裂空』の威力が減衰しているようだ。
もっと深いダメージを与えるには、もっと接近して攻撃せねば……。
「あのドラゴンは……! まさか……!?」
俺の背後でグランバーザ様が驚きの声を上げていた。
「ドラゴン……!?」
さすがに歴戦の猛者グランバーザ様は知識豊富、あの巨大モンスターにも心当たりがあるのかもしれない。
「だがしかし……!? いや、もしあれが秘文にあった炎魔獣サラマンドラなのだとしたら……!?」
「グランバーザ様、お下がりください」
だがまずは、あのドラゴンとやらを駆逐するのが先決だった。
「アランツィルさんも。引退した二人を働かせては若い俺たちの立つ瀬がない。俺たちがやられそうになったら応援お願いします」
「わ、わかったが……!?」
まずは、攻撃が効く距離まで接近することが肝要だ。
そもそもトカゲのくせに空に浮かんでいるのが汚い。
あれでは接近できずに大抵の攻撃が届かないじゃないか。
「あれを駆逐するにはまず、俺も上まで行かないと……!」
テキパキ計算。
……よし、算段がついた。
「サトメ! 踏み台になってくれ!!」
「ええッ!?」
まず助走。
全力で走り勢いをつけて、サトメの頭上へジャンプ。
「ああもう! 人使い荒いなあ!!」
こちらの意図を汲み取ったサトメは、盾を上へ向けてかまえる。
ジャンプした俺は、そのまま盾を踏み、全体重を掛ける。
サトメも全力で押し返し……!
「跳べえええええええッ!!」
俺を上方へ押し飛ばした。
この勢いで天へと駆け登り、あのドラゴンとやらの位置まで迫る。
途中、背中に風を感じた。
「ゼビアンテスか……!」
風魔法で上昇気流を作り出し、俺のジャンプを手助けしてくれている。
言われなくても適切なサポートをしてくれるとは似合わぬことを……。
おかげで充分ドラゴンとやらのところまで迫れたが、まだ足りない。
ドラゴンは、まだ鼻っ面に『凄皇裂空』を受けたショックで怯んでいる。
このチャンスを最大限拡げなければ。
俺はヘルメス刀を鞭形態に変えて打ち出した。
「絡みつけッ!」
金属の鞭は上手いことドラゴンの指先に巻き付き、俺をぶら下げる。
ぶら下がったまま振り子となって揺れ、その勢いを利用して……!
「はあッ!!」
さらに上へと飛び上がる。
空中に浮かぶ巨大火トカゲのさらに上へ。
あらゆる生物にとって死角と言われる頭上へ。
そこから……。
満を持しての……。
「『凄皇裂空』ッ!!」
巨大オーラ斬撃を改めて叩きつけた。
今度は至近、しかも上方から。
さっきよりなおも効いているのは間違いない。
「『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!!」
しかも一撃ならず連続で。
そのためにわざわざ相手より高い位置に陣取ったのだ。
巨大オーラ斬撃の雨あられを受けてドラゴンは悲鳴を上げる。
ダメージから飛行能力を失ったのか、高度を失いどんどん地表へ近づいていく。
俺もまた空中に留まるすべを持たないので重力に引かれて落下していく。
「『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!! 『凄皇裂空』ッ!!」
落下しながらも攻撃は欠かさなかった。
やがてズシーンと、地面を揺らす轟音と振動。
巨大ドラゴンが、我が攻撃にねじ伏せられるように墜落したのだった。
俺も続いて着地。
無分別に連発した『凄皇裂空』の反動で、落下スピードをほとんど殺すことができた。
なので無事なる大地への帰還だった。






